夜を狩るもの 終末のディストピアⅡ meaning hidden

主道 学

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A breathing corpse (息を吸う死骸) ヘレン編

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 ヘレンはやっとのことで、ノブレス・オブリージュ美術館の正門へ辿り着いていた。洋服は赤黒い雹が地面に落ちて砕けた際の血液で汚れ、真っ赤に染まった傘を折り畳みながら、こんな時間なので、モートも着いている頃なのだろうかと考えた。 

 外は未だに、黒煙が充満したかのように真っ黒だった。赤黒い雹が激しく降りしきっていて。館外は地獄のようだ。時折、地の底から聞こえてくるかのような呻き声が木霊している。

 血がこびりついた頑丈な鉄柵の玄関を、両手に力を入れてやっとのことで開け放ち。全て地面へ倒れてしまった美術品や骨董品を避けながら、回廊を渡り、ノブレス・オブリージュ美術館のサロンへ行く途中で、ヘレンは不意にサン・ジルドレの言葉を思い出した。

(近々ノブレス・オブリージュ美術館とは盛大にご厄介になりそうですよ。その時は、どうかできるだけの歓迎をして下さいね)

 ヘレンは身震いした。リッチーとなったサンは去り際に、確かにそう言い残していたのだ。今に襲撃が来るとしたら、モートがいないノブレス・オブリージュ美術館では、女子供もいるので、全く考えられないことだった。

 ヘレンが広大なサロンへと大階段を降りる途中。階下から、ガラスが盛大に割れる音がした。同時に、大勢の悲鳴が聞こえて、何か大きな物体が這い寄る凄まじい音で耳を塞いだ。

 あれは、一番頑丈で大きな嵌め殺し窓が割れた音だ。と、ヘレンが気付いた時には遅かった。サロンから大階段へと、大勢の逃げ惑う足音が下から聞こえてきた。高級な服を着こなした上流階級の人々や貴族たちが、この世のものとは思えないものに遭遇したかのような。恐怖で真っ白な顔をして、一斉に大階段を上ってきたのだ。
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