夜を狩るもの 終末のディストピアⅡ meaning hidden

A breathing corpse （息を吸う死骸） ヘレン編

５２

「ヘレンさん。モートを知りませんか？」　　

　アリスはヘレンの着る洋服が、所々派手に破れていて、血で真っ赤になっていることに少し怯みながら、しっかりとした声音で尋ねた。

「ええ。今は玄関で狩りをしているわ。そこには、もう一人の聖痕のある少女もいるわ。モートがいるから、心配することは無意味よね。でも、私は少女が生きているのか凄く心配なの」
「ふう。モートがいるならきっと大丈夫なのでしょう。確かに心配すること自体無意味なんです」

　アリスはそうきっぱりと言った。だが、ヘレンは今でも小刻みに震えている肩を、どうしても隠せないでいた。赤黒い雹が滝のように降る。この異常な現象の中。すでに、六人の少女は死んでしまったのだ。

　ヘレンはこの先。一体、こうも大勢死んでしまったので、ノブレス・オブリージュ美術館の人々。いや、人類はどうやってこの街や世界で生きていくのだろうかと考えた。

　一瞬、その不吉な考えに捉えられると、もう絶望が打ち勝つのは時間の問題のようにも思えた。

「ははっ。ヘレンさん。何をそんなに震えているのでしょうか？　そうですねえ。この先のことを考えると、どうしても人間なら絶望しかない。そうですね。賭けは私たちの負けのように思えてしまう。けれども、一見そうみえますが。ですが、こちらのことも考えて下さい」
　
　と、オーゼムは天井を指差した。ヘレンはつられて上を向くと、そこには煤ぼけたノブレス・オブリージュ美術館の有する美術品ともいえる様々な天井画が、豪奢に飾られ、シャンデリアの数々がぶら下がっているだけだった。

　だが、怪訝に思ってヘレンは、再びオーゼムの方を向くと、オーゼムはウインクする。

「あ！！」

　そこで、ヘレンは途方もなく大いなる存在に気がついた。そう、神が天井の遥か上におわすのだった。
　
「どうです。十分に希望が持てるはずですよ」