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Voice (声)

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 霜の降りる身の凍るような真夜中のこと、麻薬の取引で数人の男たちが路上で激しい言い合いをしていた。それはしばらくすると取引が成立せず撃ち合いとなった。そこへ銀の大鎌を持つ一人の男が現れそれぞれ首を狩っていった。真っ白な雪の上に真っ赤な血液が舞い落ちる。
 
 次に銀の大鎌を持った男は次の収穫の場へと向かった。



 シンシンと雪が降り積もるここホワイト・シティ。この街に来た観光客は街全体がいつも雪景色しか見れないと皆珍しがっていた。

 モートはこの街が好きだった。

 一年中。雪が降り積もり。どこもかしこも銀世界の街。街の人々は建造物や枯れた木々に堆積する雪にすら誇りを持って暮らしているのだろう。それくらいに人々は雪を大切にし自慢をしていた。
 モートがよく聞く街中の会話にも、銀世界の中の雪を被った建造物などがでる。
「昨日、テレビで観たんだよ。あそこのイーストタウンにある。ここから数ブロック先のトニーの家で、父親が雪かきの時に屋根から滑り落ちたってさ。女房も心配してたんだが……」
「それで、トニーの父親は?」
「大丈夫だってさ。幸い足を捻挫しただけだって。女房も俺も一安心さ」
 建物の傍で仕事をしている二人の配管工の会話をモートは歩きながら聞いていた。
 どこまでも続く雪景色を白い息を吐いてモートは歩いていた。敷き詰められた雪と霜の絨毯の歩道を急いだ。今日は大学の試験だった。

「あら、モート。昨日はありがとね。お蔭さんで主人の飼ってたボギが戻って来たわ」
 パン屋の女がモートにお礼を言った。
 ボギはペットの豚の名だ。 

 モートはニッコリと微笑んでから、早歩きでその場から去って行った。 
 去った理由は、モートには感情というものがないからだ。人に感謝をされても何も感じないのだ。そんなモートがボギを助けた経緯は、昨日の大学からの帰り道で、偶然に道に迷って凍死寸前だったボギを見つけて、そのまま震えるボギを抱えて急いでパン屋へ向かったのだ。ただの街の人々やヘレンから与えられた常識によるものだ。

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