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Sloth (怠惰)

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「そう、グリモワールを使ったのですが。それが今、事件を起こしている本なのですが。昔の私は、その回収のためと、そして、深く関連しているモート君に私は会おうと天界で思いました。まあ、結果はまだまだわかりませんが……いたちごっこですよ……。事件を追うと、事件に遭う。いやはや、人はまったく今も昔も変わらないものですねー」
 アリスはホッとした。何を言っているのかはわからないが、それならば、モートは直接的な殺人犯ではないのでは? けれども、オーゼムがすぐさまそれを否定した。

「いえいえ、何を隠そう事件は事件ですよ。殺人事件です。モート君が直接に殺してしまったのですよ……まあ、そうですねー。今と同じく銀の大鎌で殺害したのです。酷いですか? まあ、そんなところです」
 アリスは震え上がり酷い眩暈がしてきた。
「あ、お気をたしかにしてくださいね……まあまあ、この事件は昔から興味の湧いている事件でしたので……こほん。さあ、これからが本番です」
 オーゼムは絵画の前で咳払いをした。

 アリスとヘレン。そして、オーゼムだけがいるサロンだった。話をしているオーゼムが黙ると瞬く間に、シンと静まり返ったかかのようになる。
 外は今は吹雪だった。
 アリスは路面バスで、オーゼムとここノブレス・オブリージュ美術館へと来た。エンストはしなかった。ただ、いつもよりゆっくりと来たかのような感覚だった。
 少し、息を吐いて、空を見上げればこの街がこの世で一番美しいと思える。いつもの変わり映えしない天気だった。

 アリスは溜息を吐いた。
 きっと、モートも理由があったのだろう。
 この世では、理由がなければならないのだ。そう、何をするにも理由があるのだろう。
「はい。それではみなさん。こちらを向いてください……」
 オーゼムがニッコリと悲しく微笑んだ。

 Sloth 3

 アールブ……。
 ねえ、アールブ……。
「罪人が罪人を狩る……か……ぼくは……」

 Sloth 4

「そうです。これはモート君が決して開いてはいけないといわれていたグリモワールを開けてしまったことによります。それで村人が全員皆殺しになりました。封印されいしグリモワールは、七つの大罪です。それを七冊揃えると……どうです……お気をたしかに……あらゆる罪が罪を犯したものへ死をもたらします。昔のモート君はそれを知っていました。村の住人は全て罪の名によって死滅しました。人を殺め過ぎて、モート君はすでに死神となっていました。彼らを殺したのはその貫通する力、通り抜ける力です。おや、話が前後していますね。これでいいんです。そこで、モート君の遺体は絵画に封印されました。この村の唯一の生き残りによって……そう、ジョン・ムーアの最愛の人によってです」
 パチリっと、暖炉が弾いた。
 アリスはふと、モートの顔が頭の片隅を過った。

「村人たちの死因がお話の中で、前後していますよ。おかしいですよ。オーゼムさん?」
 アリスは納得できない箇所を指摘した。

「え、生きていた? その時代に?」
 ヘレンは驚きの声を上げた。

「何故、アールブヘルムの絞殺魔と呼ばれているかというと。死因が……まるで絞殺をしたかのような首の表面ではなく内部での破壊が目立ったからなのです」

 全て話し終えると、オーゼムは何度も悲し気に頷いていた。


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