白いスープと死者の街

主道 学

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小さな事件

10話

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 確か亜由美は巌窟王やピーターパン。宝島などが好きだった。
 僕は座っている子たちを避けて、屈み気味に体育館のステージの両脇の片方。横断幕が降りるところにいる校長先生と大原先生。そして、他のクラスの先生たちが一丸となっているところの会話を盗み聞きすることにした。そのため一番近い1年1組のところへときた。

 前の男の子は後ろの子とおしゃべりに夢中のようで、僕がその隣に涼しい顔で体育座りをしても気にしていない。体育館は杉林の覆うような日陰に対して弱い照明しかついていなかった。
 学校の先生たちの言葉に耳を傾けていると、
「隣町の幼稚園の児童たちが、送迎バスで帰る途中にそのバスの中の全員が行方不明になったって……? 本当なんですかね」
 大原先生は少し顎を引いて厳しい表情を作っていた。

「本当みたいよ。なんでも、帰りのバスが空っぽだったようで、運転手と保母さんもいなかったんですって。助かった他のバスの児童たちなんて、怖くていまだに泣いたりしていてみんな夜も眠れないみたいなんです」
 痩せている女の先生が自然と小声で話していた。
 確か隣のクラスを担当している置田先生だ。
「一昔前にもあったな。神隠しって、言われていたんだよ。その頃は」
 初老の校長先生は眉間の皺を増やして訝った表情をした。

「先生。怖いこと言わないで下さい。昨日の夜に石井君の家の裏の畑に、とても精工な人形の手足がたくさん埋めてあったって、警察の人から電話がきたんですからね。すごく不気味だし。これで、もしものことが起きたら……」
 大原先生は肩を摩っているが、背筋はピンとしていた。
「校長先生。その話って? S町のあれですか? 昔もありましたね。子供の大勢の誘拐事件」
 もう一つの隣のクラスの男の奥村先生が言おうとしたら、体育館中に音量が壊れたみたいな大きな音でチャイムが突然鳴り響いた。

「誰が鳴らしているんだ!!」
 白髪頭の校長先生が耳を塞いで叫んだ。
「私……見てきます!!」
 耳を塞いでいた細い置田先生と大原先生が、血相変えて校舎の方へと走って行った。行き先は三階の放送室だ。
「あ、私も行きます!」
 奥村先生ともう一人の男の先生が二人。後を追った。

 僕は好奇心で先生の後を追おうとしたけれど、おじいちゃんの言葉を思い出した。その場でことの成り行きを神様に祈って見守るしかなかった。
 僕はチャイムがなんで鳴ったかを気にしていない。
 三階の放送室に生徒が残っていて、悪戯をしたのなら、その生徒が裏の畑に精工な人形を埋めたのかもしれない。けれど、僕は子供たちをバラバラにして埋めた人はやっぱり大人だと思う。
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