ウロボロスの世界樹

主道 学

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ゴルフ場

地平線

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 何故か横になっていた。風が草の香りを運んで、私の鼻に吸い込ます。私は仄かな眠気を含んだ頭で、寝返りを打とうとした。けれど、硬い何かに当たった。

「ん?」

 私は眠気を取り払いながら、眼を少し開けてみた。それは木だった。そこはイースト・ジャイアントの店内ではなかった。私は慌てて起き上った。辺りは鬱蒼とした木々が立ち並び、その葉は太陽の光を一身に受けて、より一層光り輝き青々としていた。皮肉にも、草のいい匂いのする風が心地よかった。そんな雑木林の中で目覚めたのだ。
「ここって?」
 安浦の声が近くでした。
「私。眠ったのね……」
 呉林もいる。
 下を見ると、私のと思われるテイーカップと安浦と呉林がすぐ近くに倒れていた。二人とも、そして、私も「イースト・ジャイアント」にいた時の服装である。そして、二人の片手には紅茶が、なみなみとあるテイーカップが握られていた。

「これは、私も驚いたわ。いきなりなんて、これじゃ手も足も出せないわ」
 呉林が珍しく動揺しながら、緩々とテイーカップを地面に置いて立ち上がった。そして、辺りを見回した。
 私とゆっくりと起き上った安浦は、事態の深刻さに緊迫した顔を見合わせる。
「でも、赤羽さんの携帯の目覚まし機能を鳴らせばどうってことないわ! そうよこんなこと……」
 周りを見回していた呉林は、強がった声で少しだがいつも通りに、落ち着いてきた顔をする。それを見て私は「ほっ」として携帯を取り出した。気が付いたのだが、携帯なら呉林たちも持っているのでは……。
 私はどうでもよいことを考えながら、携帯の目覚まし機能を鳴らしてみた。
 辺りに「ピー・ピー・ピー」と音の後に私の好きなメロディが流れる。メロディは呉林のことを特別と思ってから流れるようにした。
「ちょっと待って。ご主人様。左肩は?」

 安浦の好奇心の眼差しを受け、私は自分の左肩を右手で触ってみた。何ともない。
「治った。痛みが完全にとれていて、安浦の言うとおりだったよ。ありがとう」
 私は嬉しさの余り左肩を叩いた。激しい鈍痛がしない。健康的な痛みだった。
「どう致しまして、ご主人様のためになれば幸いです」
 安浦はそういうとテイーカップ片手に私に頭を下げる。私はその真摯な態度を見て、何にも装いがないことに気付き動揺した。安浦を前から知っていなかったら頭を疑っていたかも……。けれど、何度か死線を潜ってきた仲なので、安浦の自分に対しての態度をあまり気にしないことにしてやることにした。
「それにしても、恵ちゃん……」
 呟くように呉林も何かいいたそうだったが、口を噤んで次からでる言葉を飲み込んだ。
 私は呉林に向かって、苦笑いを浮かべると、三人で接触し合って、携帯の目覚まし機能を消した。

 ……

「何も起こらないですよ。ご主人様?」
 私は携帯片手に呉林の方を見た、
「え、どうして、元の世界に戻れないの……。なんで?」
 呉林は顔面蒼白とまでいかないが、青い顔をしてまた動揺してしまった。呉林が動揺すると、こちらも動揺する。また、私と安浦は緊迫しながら互いの顔を見合わせた。青い顔で、呉林は何かブツブツしながら俯いてしまった。

 三人はしばらく立ち往生をするしかなかった。
 木々の匂い、暖かい日差し、眠くなってきた。
「なあ、確かここは夢の世界なんだよな」
 呉林はぶつぶつ言うのを止め、
「そうよ。でも、正確には違うかも。取り敢えずは夢に似た世界よ」
「だったら、寝てみるのはどうだろう。元の世界で起きるかも」
 呉林はゆっくり顔を上げ、
「うーんと。その手もあるかも。ここが夢の世界だとしたら出来るのかもしれないわ。ここで寝ると元の世界で起きられるのかも知れない。何となく間の抜けた話ね」
 早速3人はその場で横になった。みんなで横になると、こんな世界へと迷い込んだ恐怖が幾らか薄らいだ。
「こんな世界に来たりすると、現実って何なのって、思えてしまうわね」
 呉林は隣の私に向かって呟く。

「ああ。以外と現実って強いものだけど、それよりこの世界は強いって感じだね。頭が混乱しそうだが……」
 私はそう受け答えをした。呉林は目を大きく開け、
「もし、私たちの世界に戻れなくなったら、やっぱりこの世界で三人で生きていくしかないんじゃないのかな」
 呉林は冗談半分の口調で呟く。
 そこは、森林というには懸け離れている。云わば均整のとれた雑木林のようだった。3人は木々と青葉の匂いの心地よい風を受け、眠気が生じてきたようだ。私を除いて……。
 しばらくすると、安浦が眠りだした。その次に呉林。私はしばらく起きていた。二度寝は苦手なのだ。
 柔らかな風を受けて、横になっている私の頭に幾つかの疑問がよぎってくる。いろいろと考える。渡部や角田もこの世界に来たのだろうか、本当にこの世界で寝ると元の世界で起きられるのだろうか、呉林は今回ばかりはかなり動揺していたな。でも、この世界にある驚異が何であろうと元の世界に戻ればどうってことはないな。
 私は眠っている呉林にバレないように性的な悪戯をしようといたら、急にストンと眠った。


 私はルゥーダーという青年の体に入っている。入っているというとルゥーダーの体へ私の意識がその中に入ると聞こえるが、少し違う。私の意識がルゥーダーの意識の中心の外側に生じた。
 彼は私に内心気が付いているのだろうか。
「カルダ様。俺の母だった頃。思い出しましたか」
 カルダと言われた老母が首をユルユルと振る。
 外は深々とした雪が降っている。二人は暖かい焚き火を囲んでいた。
「わしの息子は、どこへ行った。わしは知らん」
 目の前にいるルゥーダーという子をカルダという名の母は知らないと言う。


 数時間が経った。起き上がり、私と呉林は途方に暮れた。何も起きないのだ。元の世界にも戻れていない。
 安浦はさすがに現状の不可解さに混乱し青い顔で震えていた。
 もうどうしようもない。
「どうしよう。こんなことって」
 呉林がか細い声で言った。呉林もさすがに事態の深刻さに恐ろしくなったようだ。そして、ぶつぶつと独り言を言い出しながら起き上る。
「とりあえず、何か食べ物をさがそうよ」
 私は二人を元気づける。こんな世界でも何か食べ物くらいあるだろうと私は考えた。不可解さには確かに応えているが、腹も減っていたし、元気をだして二人を促す。
 イースト・ジャイアントでは何も食べられなかった。朝食もとってないし。呉林はぶつぶつ言いながらついて来た。安浦は食べ物と聞いて青かった顔に少し笑顔が生じる。
 均整の取れた雑木林を歩いていると、地面にゴルフボールが落ちていた。
「ここは、ゴルフ場だ……」
 私は驚きの声を発し、少し先まで歩いてみると、遠くに広大な芝生が広がる。バンカーと呼ばれる砂地もいくつもあり、遥か地平線のところに赤い旗のポールが立っていた。膨大な数の池や橋、丘も向こうに見えた。
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