降る雨は空の向こうに

主道 学

文字の大きさ
30 / 44
大雪原

30話

しおりを挟む
「隆さん。正志さん。私は時の神なのです。だから、どんな時間でも大勢の人たちの電話に同時にでれるんですよ。私の住み処は、ここから更に西へ行ったところにある神々が住む都市という場所にありますから、ここで兵士を見つけられたら必ず来て下さい。お願いしますよ」
「え!!」
 隆は受話器越しに驚いて、素っ頓狂な声を発した。
「か……神さまだったんですか!」
「ええ。それから、早めに兵士を見つけて下さい。ここ大雪原には長くいると凍死してしまいますよ」
 隆と正志はそれを聞いて、切迫した顔を見合せて、電話を切ると二人で一目散に象の群れを追った。


 強風は吹雪と変わりつつある。
 智子は白のTシャツと青のジーンズなので瑠璃と車の近くで寒がっていたが、誰ともなく智子が言った。
「ありがとう。本当に……。私たち家族に協力してくれて……」
 瑠璃は苦笑いをしていて、象を追う正志の姿を見つめている。
「いいんですよ。これで……きっと、正志さんが私たちを助けてくれます。正志さんは、遊び人ですけど、本当に人の命を助けることができる凄い人なんですよ」
「ふふ……。本当にお似合いですね。瑠璃さんと正志さんは……」
「ええ……」
 二人は手を繋いだ。


 巨大な象へとわだちもない道を走り、何とか辿り着くと、雪原の雪のせいで足がひどく湿ってきた。靴の中にまで入ってきそうなその冷たい雪には二人とも閉口した。
 隆と正志はその象の上にいる男を見て、更に真っ青になった。
「こんにちは。私たちは南に向かっているキャラバンなのですよ」
 象の上の男は親切に話す。痩せ形の日本人で面長で誠実そうな人物だ。服装は紺の背広姿だ。
「あの……。いや、電話に出てもらえませんか?お願いします」
 隆は中友 めぐみの携帯をそのアイスクリームを食べている男に渡そうとした。
「ええ……。いいですけど」
 象の上の男は怪訝な顔をしていた。携帯を渡すと、早速24時間のお姉さんからの着信があった。
 しばらく、男は何度か頷いたりしながら会話をしていたが、力強く頷いて電話を隆に渡した。
「了解です。3週間後の午後15時に北にある雨の宮殿で戦います!!」
 そう号令をすると、ぞろぞろとキャラバンの象の上の人々、白人や黒人や日本人の上半身裸の者や派手な水着姿の者たちも復唱した。

「隆さん。やったわね。この人たちは生前は国際頼助警備会社の人たちだったのよ。これで、兵士が見つかったわ。今から3週間後に雨の宮殿で戦ってくれるそうよ。雨の宮殿には強い鎧武者や侍がたくさんいるんです。けれども、なんとかそれらを突破しないと、中には入れませんから……。でも、これで雨の宮殿の内部へと入れるかも知れません。そう……生命の神の雨の大将軍に謁見ができるようになりました」
 24時間のお姉さんは隆に電話越しに話した。
 俺の娘は一体どうしたのだろう?
 そんなに危険なところで……?

 隆は自分に出来ることが最小限でしかなかったことを、この時になって初めて悟った。力無く俯くと、隣の正志がニッコリと笑い。
「隆さん。元気をだして。ここまでこれただけでも、とても力のある人なのは私には解りますから」
 正志はそんな隆を元気づけてくれた。
「さあ、凍死する前にここから離れましょう」
 隆は正志と駆け足で一旦車へと向かった。


 それぞれの車には、智子と瑠璃が待っていた。
「あなた。何を話して来たの?」
 智子が言うが、そのセリフは瑠璃も言いたかったことだろう。
「これから、どうするんですか?」
 瑠璃は早く帰りたくてしょうがないといった顔だ。
「確か、更に西へ行くんですよね。隆さん。私はあなたをサポートするためにこの世界へと来たのです。だから、どこへでも行くという訳ではないですけど……。ですが、出来る限りは協力をしますよ」
「俺は……。娘をどうしても連れ戻したいんです。だから、もし雨の宮殿が危険なら……俺一人で行きます……」
 隆は一瞬、寂しさから凍りそうな涙を抑えた。
「私も行くわ……。里見ちゃんに会えるんでしょ。何の事か解らないけど……。ほんとにもう、解らないことだらけね。ここって……」
 智子はそう言って、混乱しそうな顔を引き締めて隆の軽トラックに乗った。

「これ以上は無理なんじゃない。危険よ。正志さん。でも、神様がこの世界にいるのなら、安全なのかも知れないけど……。私たちの目的は隆さんたちを無事に元の世界に連れ戻すことでしょう? だから、そんな危険なところまで行かなくても……。確かに娘さんの命がかかっているけれど、本当に蘇るのかも解からないし……」

 瑠璃は緊迫な表情を正志に向ける。その表情からはどうしていいか解らないといった不安も滲み出ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...