降る雨は空の向こうに

主道 学

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知恵比べ

41話

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 倒れた隆は顔を上げる。目の前には2メートルの巨大な体躯の雨の大将軍が、肩肘をついて透き通る氷でできた玉座に座っていた。

 鎧武者が着ている黒い鎧ではなく。潔癖な白い鎧を着込んでいた。白い兜からは目に見えない威光が迸っている。聡明そうな目は憂いに変わり、白髪の頭は何千年も悩み事を抱えていた。
 まるで、銀世界から現れた王者のようだ。
 奥行きのある壁の至る所に澄んだ水が滝のように流れた巨大な謁見の間だった。その中央の玉座の後ろにはこれまで見たことのない清流が流れ、両脇の水路へと流れている。玉座の周りには江戸時代から出てきたような服装の人々が雨の大将軍に向かって、巨大な扇子で扇いでいた。まるで、一定の冷気を送らなければならないのだろうかと考えさせる。

 雨の大将軍は面倒臭そうに隆を見つめた。
「どうだね。私は強そうに見えるかね?」
「ええ。間違いありません」
 隆は起き上がり、すぐさま平伏した。そして、そう返答をして震え上がった。
 隆の傍には青白い顔の侍が鞘に手をかけていた。他の侍は皆平伏していた。
「では、言ってみよ。お前は何故、私に会いに来た?」
「娘のためです」
 雨の大将軍は首を振り、
「もう一度聞く。お前は何故、私に会いに来た?」
 刀の鞘に手をかけた侍が刀を少しずつ抜いている音が隆の耳に入った。

 隆は死に物狂いで頭を回転させる。自分は何故ここへ来たのだろう?その時、不幸が原因だったとこの時初めて思った。
「不幸を何とかするためです」
「では、どうやってなんとかする?」
 隆は真っ青になって頭を捻る。ちょうどその時、黒田 裕のことが頭をよぎった。
「いずれにしろ。不幸でも幸運でも。ここ天の園。つまり、神々のところへと帰るのですから、私はどちらでもいいと思います。ですが、やはり私は人間ですから不幸は幸運の兆しだといいと思います」
 雨の大将軍は難しい顔になった。
「…………。では、不幸な時には命を絶つのは、どう思うかね?」
「…………。それも、神々の元へと戻るのですから……」
 隆はまた真っ青になって、頭を捻る。24時間のお姉さんと脇村三兄弟のことが、頭を過った。
「でも、自殺はよくはありません。何故なら人は神を信じなければいけないからです。神を信じることは、この神々の世界があるということを信じることになります。でも、人は自殺によって、人生を完成してしまうこともあります。私の友人は、神風特攻隊は家族や母国ための潔い戦死だと思っているのです。ですから、人によっては神の元へと行くことの違いがあると思います」
「ふむ……」
 雨の大将軍は考えた。
「賢きものよ。お前は人間の世界では人間は何をしたらいいと思う?」
 隆はまた真っ青になって、頭を捻った。その時、智子と里見が頭を過った。

「何かを産みだせばいいと思います」
 雨の大将軍は突然、からからと笑った。
 そこで、隆は寂しそうな顔の里見が頭を過った。
「あ、ですが。育てることや工夫することも重要だと思います」
 雨の大将軍は頷いた。
「お前の望みを一度だけ聞こう」
「娘に会わせてください」
「解った」
 雨の大将軍は満足して隆を牢に戻させた。


 牢に帰る道中。
 俺は元の世界へ戻れなくなったなと、隆は思った。
 何も感慨が浮かばない。
 智子は無事に元の世界へと帰っていってほしいと強く思った。
 けれど、やっと娘に会える。
 何やら宮殿内部が騒がしくなった。雨の宮殿の人々が走り回り、複数の水柱から降りて来た陣羽織の大勢の侍たちが、鉄砲やら大きい弓矢を持ち出している。長距離を狙える弓だ。
 侍が幾本もの水路のような道を、慌てふためいて戦の準備をしている頃。とうとう、正面の隆が破壊した扉から、水流の牢へと向かう正志のカスケーダが、猛スピードで飛び込んできた。
 侍たちが幾つもの大きな弓矢を構え始めた。
 隆は血の気が引いた顔で叫んだ。
 隆の目の前まで来たカスケーダは、正志が決死の形相で隆の周りにいる侍たちを蹴散らし、隆を逃がそうとする。


 助手席の智子がドアを開け放ち、何とかボロボロの隆を車に引き入れようとした。
 だが、一本の矢がカスケーダのフロントガラスを貫通した……。
 

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