降る雨は空の向こうに

主道 学

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幸運と不幸

43話

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 その後の雨の大将軍は、虹と日差しとオレンジの町の人々を解放した。同時に不幸によって、命を絶った者たちや自殺をした天界の者たちも開放すると言った。隆と瑠璃と正志……そして、里見は。隆の右の前輪を失いボロボロの軽トラックと、矢の刺さったカスケーダで元の世界へと戻ることとなった。

 正志は雨の宮殿から、数千年間振り続けていた雨が止んだ外へと出た。携帯で24時間のお姉さんに報告すると、
「そうですか。私の知っていることと確かに違いますが……。仕方ありません。けれど、後でモルモルと私とで、智子さんの命も蘇ることを考えて、雨の大将軍に話に行ってきます」
「そうですか……」
「正志さん。そんなに気を落とさないでください……。きっと、雨の大将軍は智子さんも蘇らせてくれますから……。私たちは頑張ります」
 正志はここで初めて涙を流した。
 自分の人助けも、ここまで来たのだから立派なのだろう。不幸が原因で自殺をした人たちは、雨の大将軍に強引に捕われていたと隆に聞いた。これで雨の日の不幸のデータの謎が解けた。もう雨の日には不幸は起きないのだろう。

 瑠璃は気の抜けた顔から、急に泣き始めた。
 泣き叫んで死んだ智子と抱き合っていた。
 隆は里見と手を繋いで、智子の顔を見ては静かに泣いていた。けれども、その涙には悲しみは余りなかった。
「不幸にはもしかしたら、幸運の兆しの意味が根付いているのだな……」
 隆は雨の宮殿から外へと出て、里見の手を繋いでいた。空は眩しい光でこの宮殿を清く白く包んでいた。至る所に水滴が光り輝き、隆たちが立っている架け橋は、今までのことや激しい戦いが嘘のようだ。
「お母さん。きっと、生き返ってね……。絶対よ」
 里見は鼻を啜りながら、その小さな手で智子の手を握った。思いの外。力強くて。智子はびっくりした。
「ええ……。きっと、生き返るわ。また、三人で暮らしましょ」
 稲垣 裕美が雨の宮殿から太陽の光を手で遮りながら静かに歩いてきた。
「不幸が原因で自殺した人たちはこの世界で暮らすんだろうね……。きっと、ここ天の園で生活をしていくのだろう……」
 稲垣 裕美はしんみりと言うと、背の高い隆の肩を苦労してパシッと叩いて元気づけた。

「なんだかんだいって、立派だったよ。あんた!」
 隆は里見の肩に手を置いて、虹とオレンジと日差しの町の人々が、不幸が原因で自殺した人たちが、天空に白い雲が現れた雨の宮殿から歩いて行く様を見つめていた。
 それぞれの人は隆へと、お礼を言いながら、喜びの表情で歩いている人々に隆はまた元気付けられていく。
 ジョー助は、タバコに火を点けて、荒廃した雨の宮殿の外観をしんみりと見つめていた。まるで、今まで操作してきた。何万年もの数え切れないほどの戦いを回想しているかのようだ。
 ヒロは今まで、自分が助けていた一つの家族の重みがこんなにも重いとは思わなかった。しっかりとした眼差しで玉江家の人々を見つめていた。
 鎧武者と象のキャラバンの人たちの怪我人たちは、雨の宮殿で治療を受けるそうだ。

「オレンジ色以外のおじさん……。本当にありがとう」
 シンシアは隆の元へと駆けて来た。可愛いらしい真っ黒い顔を涙で濡らしている。
 その後ろに服部とジョシュアが歩いてきた。
「玉江さん……。本当に、ありがとうございました。また、生活が出来るようになりました……。あなたのお蔭です……。町の長としてお礼を申し上げます」
 服部は深々と頭を下げた。
 智子と里見は服部たちにニッコリと微笑んだ。

「ええ……。俺もとうとう娘に会えましたよ」
 隆は乾いた顔を引き締めている。
「玉江さんの奥さん。私の店で勤めませんか?あなたならば、いつでも大歓迎ですよ。虹とオレンジと日差しの町は、これからみんなで精一杯復興をしますから」
 赤くなった目で、ジョシュアが智子の手を両手で優しく包んだ。
 服部も目元を時折隠す素振りをしていた。
「ええ……。そうね。考えさせてください」
 隆太、そして恵梨香が雨の止んだ空を見ながら、歩いてきた。
「隆……。下界で立派に生きるんだぞ。今のお前なら楽に出来るから……」
 固い表情の隆太は隆と里見に言って、その固い表情を更に固くした。
 恵梨香は一瞬、泣きそうな顔をしたが、気楽に智子に話しかける。
「天界では……どうするの?」
「ええ……。自転車って、この世界にありますか?お義母さん?」
「ええ、あるわ」
「じゃあ、取り合えずは天の園を自転車で一周してみようかと……。お義母さん。自転車があったら貸してください」
 恵梨香はにっこりして、智子に抱きついた。

「初めは辛いと思うけど……きっと、すぐに慣れるわ……。ここの生活も楽しいってことを……。張り合いがあるってことを……。すぐに知ることが出来るわ……。そうだわ、お父さん。家にある昔あなたがサイクリングをしてた時に、壊した自転車を修理して智子ちゃんに貸してあげましょうよ。家はボロボロになってしまったけれど、きっと、ガレージに今でもあるはずよ」
 智子と恵梨香は仲が良かった。かわりに、智子は隆太の固い性格があまり好きではなかったが、今となっては尊敬できる義理の父である。


 隆太は頷き、
「ああ……解った。家ごと修理しなきゃならないな……」


 虹の現れた空には脇村三兄弟が飛んでいた。


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