夜の街

主道 学

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夜の街

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 冷たい月の夜空の2時に24時間営業の喫茶店へと向かう。
 深夜とあって、開いている店はまばらだった。
 都内に引っ越してきたのは、つい最近。
 幾つかの開いている店の店番は、街灯の明かりで皆寝ぼけ眼だった。
 行き交う人々もまばらで何故か眠たそうだった。

 きっと、彼がいるはず。

 夜間学校で出会った彼は、学校の後に深夜に仕事をしていた。学費の足しにしていると聞いた。
 根は素直で勤勉で……。
 ちょっと、話して、すぐに付き合った。
 
 彼と別れたのは、いつだったか?
 越して来た頃には、もう……。
 ちょっと、付き合って、そして、別れた。
 涙もでないほど考えに考えた。
 けど、それもそうだと思った。

 お互いの距離はだんだんと近づいては離れていった。
 まるで、お互いに近づこうとして、無理に離れていくように。

 離れていく理由は、きっと……。

 冷たい月の夜空に幾筋もの星が流れ落ち。
 そろそろ小雨になるだろう。
 オンボロの電気屋にあるテレビからの天気予報で既に知っていた。
 
 遥か向こうに喫茶店の明かりが見える。
 小雨を冷たい月の明かりが照らし出す。

 私は24時間の喫茶店へと入った。
 店内には客は皆、静かに寝ていてた。
 彼はもう仕事が終わったかのように床掃除を始めていた。

「安達さん。もう出会わないって、約束しただろ」

 彼はあらぬほうを見ながらそう言った。

 その一言を私は真摯に受ける覚悟はある。

 
 何故なら、ここは夜の街。
 彼は私たち昼と夜の街の人ではなく。
 夜の街の人だった。

 眠ることもなく。
 死ぬこともない。

 この店のお客はただ迷ってきただけだ。
 初めて彼と出会った日の私と同じく。

 それでも、彼が好き。

「この夜の街で一緒に暮らしましょ。あなたのアパートの家賃は少しでもと、かき集めて来たの。これで、家賃は半分と私の日常の半分をあなたは得るの」

 彼がこちらを向いた。

 無機質な顔に似ているようだが、ただ頭の半分は眠っているのだろう。
 掃除道具片手の彼は、こうも悲惨な人生を送っていた。

 眠らない人。
 日の光を知らない人。
 それらが、夜の街の人だった。

 初めてだった。私は、ちょっと散歩の際にサンサンと照る細道から夜の街へとたどり着いただけ。
 そこで、彼と出会った。

 もう終わりにしよう。
 お日様にはたまには出会えるだろう。

 彼の方が大事だった。

「わかった。でも、後悔はするなよ」

 少しのお金だけで、なんとかなるだろう。
 だって、この夜の街の先にはまったく何もないか、何かが待ち受けているだけなのだ。







 

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