ご近所STORY ハイブラウシティ【改訂版】

主道 学

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結婚式

36話

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「君は外へ出たり、誰かと一緒に遊んだりした時がないんだね?」
「ええ、父はとても忙しくて。回りには堅い仕事をしている人たちしかいなかった……」
「悲しい過去だね……」
 静かになった首相官邸の中、私たちは奈々川さんと歩く。

「ええ……。でも、それはもういいの。昔のことだし…………。私は気にしていません。それより、こんなに……人を殺して…………」
 首相は選挙で選ばれ続ければ、何代でも存在できる。
 奈々川さんは、悲しみの涙を流し続ける。

「君に教育していた人は家庭教師だね? その人くらいしか人と出会わなかった?」
「いいえ。屋敷の人たちとは会えました。夜鶴さんって、賢い人ですね。私に起こったことを尽く知ってしまう」
 奈々川さんが涙の見せる顔を私に向ける。
 島田たちは警戒しながら、少し先を歩いていた。

「ああ、何となくそんな気がしたんだ……。君の生い立ちを少し話してくれないか?」
「ええ……」
 奈々川さんが少しだけ、涙を拭いて、
「私は、物心ついた時には、もう母はいませんでした。それからは、父はとても忙しくて私の面倒をまったく見てくれなかった……。私の少女時代は友達もいませんでした。相手は屋敷の人と政治などを教える家庭教師だけです。それと……後はボディガードだけでした。家庭教師は能面を被っているような人で、暖かい心は持っていません。食事はその家庭教師が毎日だいたい同じメニューを作っていました。外へ出る時にはボディガードがいないと出られません。屋敷の人たちも……あまり話せなくて……。唯一の自由は漫画の世界だけでした。物心つくと、忙しい父に無理を言っては漫画家を家に招いて、話していました……」
「……」
 やっぱり、奈々川さんは悲しい過去を持って、生きてきたんだ。私はこの時に自由の重みがどれくらいなのかを知った。それは、到底一人では持ち切れない。きっと、大勢の悲鳴が必要だ。私は島田から借りたグロックを握りしめた。

「そういえば、谷多部と首相は?」
「いえ、知りません……」
 私たちは、長い廊下を出て広い玄関へと着いた。
 少し先に行っている島田たちは、もう外へと出ている。

「奈々川さん。君は矢多部との結婚を承諾したのかな?」
「いいえ。父と矢多部さんが勝手に式を挙げることにしたようです。そんなにも私が必要なのですね。私は最後まで抵抗するつもりでした……何故なら、あなたのことが……」
 奈々川さんは、顔が赤味がかって少し俯いた。
 雨の降る外へと出ると、相変わらず気分の悪い体調で辺りを見る。谷多部と数十体の武装したノウハウが玄関を取り囲んでいた。


「君が夜鶴くんか? そういえば、首相官邸で一度会っていたんだね。死んでいないのが意外だけど」
 谷多部が手ぶらで静かに言った。その声が私に決定的な死を知らせる。
「自由な恋愛したっていいだろ?!」
 津田沼が叫んでいた。
「そうだ。人は自由じゃなきゃ面白くない」
 田場さんが優しく言った。
 私と島田が目配せをした。

 意味は、奈々川さんと逃げるのには、一瞬か少ない時間で数体のノウハウを倒さなければならない。ということだ。
 島田が嬉しがった顔をした。
 眩暈が酷いはずなのに、私の腕がベレッタを静かにノウハウを狙っていたかと思うと。ノウハウたちの発砲音と私たちの発砲音だけで、空間や風雨が震えだしていた。
 私はあっという間に、五体のノウハウを破壊し、津田沼の手榴弾が炸裂。田場さんと島田は銃を乱射していた。
 奈々川さんが耳を塞いで地面に蹲った。

 重火器と重火器の火花で、谷多部の顔形が見える。
 人を見下した顔ではなく。人を人として見ていない。そんな感じの目だった。
「おらー! 次だ! 次だ!」
 吠える島田の胸に弾が数発当たった。
 津田沼は腹を抱えて倒れた。
 田場さんは血を流しながら銃を撃った。
 ノウハウを全て破壊すると、谷多部はにっこりして、
「また、金がかかる」
 そう言って、車の方へと歩きだした。
 派手な黄色のスポーツカーだ。

 私と田場さんは奈々川さんと、死んでしまった津田沼と島田を抱えて、正門を破壊した黒のジープに乗った。


「これで、もう安心だな」
 額から血を流している田場さんが、無傷の私に二カッと笑った。

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