ご近所STORY ハイブラウシティ【改訂版】

主道 学

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人間性

46話

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「これなら……何とかなるかもしれないわ」
 ベンチに座りメガホン片手の奈々川さんが、肩の力を一瞬でも抜けることに安心した。
 遠山は今度はフォークボールを投げた。
 打者のノウハウはどうしても振ってしまう。
 目の前で急にストンと落ちるボールに、ノウハウが混乱してしまい。バットは空振りをした。
 ノウハウに内蔵してある大量のデータを持ってしても、実戦のボールは計算できるものではない。
 中堅手の私はボールが来たら、全速力で走る準備は怠らない。そんな精神力で立っていた。
 島田たちもそうだろう。この試合はA区とB区……。いや、この日本の国全体の未来を左右する戦いだ。
 

「ノウハウ三振ーー!!1対0!!この勝負は先が見えないですね。永田さん。私、機械と人間の試合は初めてですよ」
 元谷と永田の紅茶はなみなみとしている。
「ええ。私もです。ここで、ノウハウ軍団が何か作戦をしてこない限りは……」


「プログラム作成できました。ノウハウは遠山の変化球を打てます」
 研究者は少し興奮気味に自分の端末を覗いた。
「晴美と夜鶴くんか……。これからはどうなるだろう?」
 矢多部はいつしか、昔から巨大な利益を片手で平然と操作している男なのに、この試合にのめり込んでいった。


 二回裏。
「次は私ですね。」
 遠山はバットを持ちバッターボックスへと歩いていく。
「遠山さん。ボールの軌道を見つめて下さい。打てないならバントでいきましょう。ノウハウに立ち向かうためならば、少々のアウトは気にしない方がいいです。勇気をだして、バットを予めホームプレートへとだすようなサクリファイスバントのような構えをしましょう」
 奈々川さんが作戦を手短に遠山に伝える。
「はい。頑張ります」
 遠山はバットを持ちバッターボックスへと歩いていく。遠山はバントと走り回る訓練をあまりしていない。送りバントなどは実戦向きな戦法ではかなり有利となるのだが……。
 しかし、180キロのボールにバットを当てるとなると、絶望的である。
「頑張れよ。慣れはどこにでもある」
 田場さんだ。
 遠山は頷き。ノウハウに立ち向かう。

 ノウハウが投げた。
 やはり180キロのストレートだ。
 遠山はバットを微動だにせずストライクになったが、その顔は機械並な冷静さを表していた。
 ゆっくりと遠山はバントの構えをした。
 剛速球のノウハウのストレートのボールは、ホームプレートへ突き出しているバットへと見事当たった。
 遠山が一塁目掛けて走る。
 二塁のノウハウは球を捕る。
 遠山は走るが、ノウハウが一塁へと送球していた。
 

「アウトー!いやー、惜しかったですね。永田さん。ですが、遠山の目の良さには驚きました」
 元谷が永田へと視線を向けると、
「目ではないですね。慣れのようです。何せ見えないんですから……」
 永田が感心した。
「では、見えないというのに当てたんですか?」
「ええ、そうです」
 永田は少し間を置いて、
「Aチーム。いや、人間の力と言ったところですかね。こんなこと機械ではマネ出来ないでしょう。しかし、遠山は凄い。たった一球で慣れてしまった。いや、違うな。強い精神力で最初の180キロから目で納めていたのでしょう」
「……これから目が離せませんね」


 次は淀川だ。
「みんな。バント戦法でいきましょう。ボールが見えないのは仕方がないです。だから、最初から遠山さんのように、バットにボールを当てるために、ホームプレートにバットを突き出す構えのバントをしましょう。180キロなので当てるだけで、遠くを狙えます。そして、必ずボールは内野を抜きましょう。でも、打てたら打てたでもいいです。とにかく、ボールにバットを当てましょう」
 奈々川さんが作戦を手短に説明し、私たちを指導した。
 私はそんな奈々川さんをニッコリと見ていた。みんなが頷いた。
 それはまるで、高速のボールに盾のようにバットを構える戦法だった。
 「おっし、ではバント戦法開始ですね」
 バッターボックスに立った。痩せている淀川は、最初からヒット・スタンスの構えをした。それはヒッティングの構えから、上体のみを捻った構え方だった。

 ノウハウが投げた。
 180キロの猛スピードのボールは、バント・グリップと呼ばれる右手の指でバットの中央部分を握った淀川の内角目掛けて飛んだ。淀川はバスター。バントの構えからヒッティングの構えに直すやつだが、直す手前でバットは球に当たった。中途半端だがヒットだ。
 ノウハウの投げる球は固定されたモーションで軌跡が読みやすいところもある。
 そして、私たちの必死さは、その軌跡を頭やカン、そして慣れで把握出来た。
 野球ボールは三塁目掛け伸びに伸びた。三塁手と遊撃手のノウハウが走り出す。
「やったー!! いきましたー!!」
 奈々川さんがメガホンで叫ぶ。
 私は一塁目掛けて突進した淀川の痩せている背の大きい肩幅を見つめた。
 遊撃手のノウハウがボールを取り、一塁目へと正確に送球した。

「セーフ!!」
 審判の声が私たちに聞こえた。
「やったー!!」
 奈々川さんと私は抱き合った。
「やったぜー!!」
 島田が田場さんと津田沼と抱き合う。
 そういえば、弥生もこの球場で観戦しているのだ。
「次、俺です。根性入れていきますよ」
 広瀬はバッターボックスへと歩いて行った。
「打てなくてもいいからバント戦法!バント!バント!バントー!」
 私たちは強打者用の訓練をした広瀬へとエールを声をそろえて言った。


「これは、先が見えませんね。スゴイッス」
 美人のアナウンサーがピンクのマイクを藤元へと向ける。
 ここは、球場の貴賓席の下。大勢の観客席の前で、藤元と美人のアナウンサーがテレビカメラを前にしている。
「はい。そうですねー。あー、僕の神通力を使えればなー。そうすればこんな試合簡単なのに」
 藤元が神社でお祓いに使う棒を振るう。
「藤元さん。それは駄目ッス。真剣勝負ッス。でも、みんなにバレないように使うのなら
……ハッ!?そういえば、生放送中だった。すいません」

「うーん。ノウハウが勝ったら大変だから。うーん。使いたいよー。僕の力……」
 
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