47 / 54
人間性
46話
しおりを挟む
「これなら……何とかなるかもしれないわ」
ベンチに座りメガホン片手の奈々川さんが、肩の力を一瞬でも抜けることに安心した。
遠山は今度はフォークボールを投げた。
打者のノウハウはどうしても振ってしまう。
目の前で急にストンと落ちるボールに、ノウハウが混乱してしまい。バットは空振りをした。
ノウハウに内蔵してある大量のデータを持ってしても、実戦のボールは計算できるものではない。
中堅手の私はボールが来たら、全速力で走る準備は怠らない。そんな精神力で立っていた。
島田たちもそうだろう。この試合はA区とB区……。いや、この日本の国全体の未来を左右する戦いだ。
「ノウハウ三振ーー!!1対0!!この勝負は先が見えないですね。永田さん。私、機械と人間の試合は初めてですよ」
元谷と永田の紅茶はなみなみとしている。
「ええ。私もです。ここで、ノウハウ軍団が何か作戦をしてこない限りは……」
「プログラム作成できました。ノウハウは遠山の変化球を打てます」
研究者は少し興奮気味に自分の端末を覗いた。
「晴美と夜鶴くんか……。これからはどうなるだろう?」
矢多部はいつしか、昔から巨大な利益を片手で平然と操作している男なのに、この試合にのめり込んでいった。
二回裏。
「次は私ですね。」
遠山はバットを持ちバッターボックスへと歩いていく。
「遠山さん。ボールの軌道を見つめて下さい。打てないならバントでいきましょう。ノウハウに立ち向かうためならば、少々のアウトは気にしない方がいいです。勇気をだして、バットを予めホームプレートへとだすようなサクリファイスバントのような構えをしましょう」
奈々川さんが作戦を手短に遠山に伝える。
「はい。頑張ります」
遠山はバットを持ちバッターボックスへと歩いていく。遠山はバントと走り回る訓練をあまりしていない。送りバントなどは実戦向きな戦法ではかなり有利となるのだが……。
しかし、180キロのボールにバットを当てるとなると、絶望的である。
「頑張れよ。慣れはどこにでもある」
田場さんだ。
遠山は頷き。ノウハウに立ち向かう。
ノウハウが投げた。
やはり180キロのストレートだ。
遠山はバットを微動だにせずストライクになったが、その顔は機械並な冷静さを表していた。
ゆっくりと遠山はバントの構えをした。
剛速球のノウハウのストレートのボールは、ホームプレートへ突き出しているバットへと見事当たった。
遠山が一塁目掛けて走る。
二塁のノウハウは球を捕る。
遠山は走るが、ノウハウが一塁へと送球していた。
「アウトー!いやー、惜しかったですね。永田さん。ですが、遠山の目の良さには驚きました」
元谷が永田へと視線を向けると、
「目ではないですね。慣れのようです。何せ見えないんですから……」
永田が感心した。
「では、見えないというのに当てたんですか?」
「ええ、そうです」
永田は少し間を置いて、
「Aチーム。いや、人間の力と言ったところですかね。こんなこと機械ではマネ出来ないでしょう。しかし、遠山は凄い。たった一球で慣れてしまった。いや、違うな。強い精神力で最初の180キロから目で納めていたのでしょう」
「……これから目が離せませんね」
次は淀川だ。
「みんな。バント戦法でいきましょう。ボールが見えないのは仕方がないです。だから、最初から遠山さんのように、バットにボールを当てるために、ホームプレートにバットを突き出す構えのバントをしましょう。180キロなので当てるだけで、遠くを狙えます。そして、必ずボールは内野を抜きましょう。でも、打てたら打てたでもいいです。とにかく、ボールにバットを当てましょう」
奈々川さんが作戦を手短に説明し、私たちを指導した。
私はそんな奈々川さんをニッコリと見ていた。みんなが頷いた。
それはまるで、高速のボールに盾のようにバットを構える戦法だった。
「おっし、ではバント戦法開始ですね」
バッターボックスに立った。痩せている淀川は、最初からヒット・スタンスの構えをした。それはヒッティングの構えから、上体のみを捻った構え方だった。
ノウハウが投げた。
180キロの猛スピードのボールは、バント・グリップと呼ばれる右手の指でバットの中央部分を握った淀川の内角目掛けて飛んだ。淀川はバスター。バントの構えからヒッティングの構えに直すやつだが、直す手前でバットは球に当たった。中途半端だがヒットだ。
ノウハウの投げる球は固定されたモーションで軌跡が読みやすいところもある。
そして、私たちの必死さは、その軌跡を頭やカン、そして慣れで把握出来た。
野球ボールは三塁目掛け伸びに伸びた。三塁手と遊撃手のノウハウが走り出す。
「やったー!! いきましたー!!」
奈々川さんがメガホンで叫ぶ。
私は一塁目掛けて突進した淀川の痩せている背の大きい肩幅を見つめた。
遊撃手のノウハウがボールを取り、一塁目へと正確に送球した。
「セーフ!!」
審判の声が私たちに聞こえた。
「やったー!!」
奈々川さんと私は抱き合った。
「やったぜー!!」
島田が田場さんと津田沼と抱き合う。
そういえば、弥生もこの球場で観戦しているのだ。
「次、俺です。根性入れていきますよ」
広瀬はバッターボックスへと歩いて行った。
「打てなくてもいいからバント戦法!バント!バント!バントー!」
私たちは強打者用の訓練をした広瀬へとエールを声をそろえて言った。
「これは、先が見えませんね。スゴイッス」
美人のアナウンサーがピンクのマイクを藤元へと向ける。
ここは、球場の貴賓席の下。大勢の観客席の前で、藤元と美人のアナウンサーがテレビカメラを前にしている。
「はい。そうですねー。あー、僕の神通力を使えればなー。そうすればこんな試合簡単なのに」
藤元が神社でお祓いに使う棒を振るう。
「藤元さん。それは駄目ッス。真剣勝負ッス。でも、みんなにバレないように使うのなら
……ハッ!?そういえば、生放送中だった。すいません」
「うーん。ノウハウが勝ったら大変だから。うーん。使いたいよー。僕の力……」
ベンチに座りメガホン片手の奈々川さんが、肩の力を一瞬でも抜けることに安心した。
遠山は今度はフォークボールを投げた。
打者のノウハウはどうしても振ってしまう。
目の前で急にストンと落ちるボールに、ノウハウが混乱してしまい。バットは空振りをした。
ノウハウに内蔵してある大量のデータを持ってしても、実戦のボールは計算できるものではない。
中堅手の私はボールが来たら、全速力で走る準備は怠らない。そんな精神力で立っていた。
島田たちもそうだろう。この試合はA区とB区……。いや、この日本の国全体の未来を左右する戦いだ。
「ノウハウ三振ーー!!1対0!!この勝負は先が見えないですね。永田さん。私、機械と人間の試合は初めてですよ」
元谷と永田の紅茶はなみなみとしている。
「ええ。私もです。ここで、ノウハウ軍団が何か作戦をしてこない限りは……」
「プログラム作成できました。ノウハウは遠山の変化球を打てます」
研究者は少し興奮気味に自分の端末を覗いた。
「晴美と夜鶴くんか……。これからはどうなるだろう?」
矢多部はいつしか、昔から巨大な利益を片手で平然と操作している男なのに、この試合にのめり込んでいった。
二回裏。
「次は私ですね。」
遠山はバットを持ちバッターボックスへと歩いていく。
「遠山さん。ボールの軌道を見つめて下さい。打てないならバントでいきましょう。ノウハウに立ち向かうためならば、少々のアウトは気にしない方がいいです。勇気をだして、バットを予めホームプレートへとだすようなサクリファイスバントのような構えをしましょう」
奈々川さんが作戦を手短に遠山に伝える。
「はい。頑張ります」
遠山はバットを持ちバッターボックスへと歩いていく。遠山はバントと走り回る訓練をあまりしていない。送りバントなどは実戦向きな戦法ではかなり有利となるのだが……。
しかし、180キロのボールにバットを当てるとなると、絶望的である。
「頑張れよ。慣れはどこにでもある」
田場さんだ。
遠山は頷き。ノウハウに立ち向かう。
ノウハウが投げた。
やはり180キロのストレートだ。
遠山はバットを微動だにせずストライクになったが、その顔は機械並な冷静さを表していた。
ゆっくりと遠山はバントの構えをした。
剛速球のノウハウのストレートのボールは、ホームプレートへ突き出しているバットへと見事当たった。
遠山が一塁目掛けて走る。
二塁のノウハウは球を捕る。
遠山は走るが、ノウハウが一塁へと送球していた。
「アウトー!いやー、惜しかったですね。永田さん。ですが、遠山の目の良さには驚きました」
元谷が永田へと視線を向けると、
「目ではないですね。慣れのようです。何せ見えないんですから……」
永田が感心した。
「では、見えないというのに当てたんですか?」
「ええ、そうです」
永田は少し間を置いて、
「Aチーム。いや、人間の力と言ったところですかね。こんなこと機械ではマネ出来ないでしょう。しかし、遠山は凄い。たった一球で慣れてしまった。いや、違うな。強い精神力で最初の180キロから目で納めていたのでしょう」
「……これから目が離せませんね」
次は淀川だ。
「みんな。バント戦法でいきましょう。ボールが見えないのは仕方がないです。だから、最初から遠山さんのように、バットにボールを当てるために、ホームプレートにバットを突き出す構えのバントをしましょう。180キロなので当てるだけで、遠くを狙えます。そして、必ずボールは内野を抜きましょう。でも、打てたら打てたでもいいです。とにかく、ボールにバットを当てましょう」
奈々川さんが作戦を手短に説明し、私たちを指導した。
私はそんな奈々川さんをニッコリと見ていた。みんなが頷いた。
それはまるで、高速のボールに盾のようにバットを構える戦法だった。
「おっし、ではバント戦法開始ですね」
バッターボックスに立った。痩せている淀川は、最初からヒット・スタンスの構えをした。それはヒッティングの構えから、上体のみを捻った構え方だった。
ノウハウが投げた。
180キロの猛スピードのボールは、バント・グリップと呼ばれる右手の指でバットの中央部分を握った淀川の内角目掛けて飛んだ。淀川はバスター。バントの構えからヒッティングの構えに直すやつだが、直す手前でバットは球に当たった。中途半端だがヒットだ。
ノウハウの投げる球は固定されたモーションで軌跡が読みやすいところもある。
そして、私たちの必死さは、その軌跡を頭やカン、そして慣れで把握出来た。
野球ボールは三塁目掛け伸びに伸びた。三塁手と遊撃手のノウハウが走り出す。
「やったー!! いきましたー!!」
奈々川さんがメガホンで叫ぶ。
私は一塁目掛けて突進した淀川の痩せている背の大きい肩幅を見つめた。
遊撃手のノウハウがボールを取り、一塁目へと正確に送球した。
「セーフ!!」
審判の声が私たちに聞こえた。
「やったー!!」
奈々川さんと私は抱き合った。
「やったぜー!!」
島田が田場さんと津田沼と抱き合う。
そういえば、弥生もこの球場で観戦しているのだ。
「次、俺です。根性入れていきますよ」
広瀬はバッターボックスへと歩いて行った。
「打てなくてもいいからバント戦法!バント!バント!バントー!」
私たちは強打者用の訓練をした広瀬へとエールを声をそろえて言った。
「これは、先が見えませんね。スゴイッス」
美人のアナウンサーがピンクのマイクを藤元へと向ける。
ここは、球場の貴賓席の下。大勢の観客席の前で、藤元と美人のアナウンサーがテレビカメラを前にしている。
「はい。そうですねー。あー、僕の神通力を使えればなー。そうすればこんな試合簡単なのに」
藤元が神社でお祓いに使う棒を振るう。
「藤元さん。それは駄目ッス。真剣勝負ッス。でも、みんなにバレないように使うのなら
……ハッ!?そういえば、生放送中だった。すいません」
「うーん。ノウハウが勝ったら大変だから。うーん。使いたいよー。僕の力……」
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる