ご近所STORY ハイブラウシティ【改訂版】

主道 学

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自由

52話

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「あ、これは遠山選手の元に観客席から一人の女性が走ってきましたね? おっとこれは?女性と信じられない手の速さで手と手を打ち合っています。それから、両者バレリーナのように片手を広げあいました。お、こちらにお辞儀をしましたね。何かのお呪いでしょうか? 永田さん?」
 元谷が真面目な顔を永田へ向けた。
「さあー? 解りません?」
「お、遠山選手。投げました」
 スピードガンの数字は150キロを示していた。
「150キロのチェンジ・オブ・ペースー!! バッターアウトー!!」


 美人のアナウンサーがいなくなると、矢多部は考えた。この試合に勝たなければ……。矢多部はニヤリと笑い。
 研究者に指示を出した。
 それは、可能な限りまたデットボールで選手を削る。至極単純だが。一番効き目がありそうだった。


  九回表。
 私たちの必死な奮闘によって、二対二は変わらず九回まで来た。遠山は150キロ近くの変化球を投げ続け相手のノウハウを牽制していた。
 これが終わったら、私たちの生活は大きく変わるであろう。勝っても負けてもだ。
 膠着状態でもあるのだが。
「次は私ですね。奈々川さん見てて下さい」

 流谷だ。

 バッターボックスで内角低めを狙ってバットをホームプレートに突き出していた。
 ノウハウはその甘いマスクは変わらずに投げた。
 内角高めのストレートだ。
 危険を察知した流谷は、ボールを回避しようとしてバントの構えを解こうとしたが、一瞬の出来事だった。
 高速の弾丸のようなボールを、バントの構えから胸に受け、流谷は血を吐いて倒れた。


「あ、デットボール。また、一人選手が180キロの犠牲になりました」
 元谷が心配の表情からすぐさま青い顔になる。
「あばらが折れて肺を圧迫しているようです。これは危険です」
 永田が震えた。
 誰もこんなに超スピードのボールが悪いところに当たれば真っ青になる。
 それが、現実に起きていた。
「あ、担架が来ました」
「……よし!」


 奈々川さんが静かに泣いていた。「奈々川さん」と消え入りそうな声で、唸っている流谷も担架で運ばれた。肺にあばら骨が刺さり、重症のようだ。
 ベンチには悲壮感が漂っていた。
 皆、重い空気の中でそれぞれ喘いでいた。
「御免。僕が付いていながら」
 みんなと少し離れたところにいる藤元が面目ないと言って頭を垂れた。……けれど、藤元はベンチの隅に急いで座り、下を向いて密かに念仏をブツブツと言いだした。
 ベンチには田場さんが拳を壁に打ち当てた。

「もう変わりはいない。この試合俺たちの負けだ。俺がいながら……」
 田場さんは力なく赤いモヒカンを項垂れた。
 奈々川さんと私は顔を見合わせた。
「私が出ます」
「無理だ。奈々川さん。相手はノウハウなんだ。命の危険があるんだ」
 すると、ベンチに一人の男が歩いてきた。


「あれ? 永田さん?」
 元谷は隣の席を見たが、永田が何故かいなかった。
「あ、試合続行です。人数は大丈…………ぶ!!」
 見ると、永田がブルーのラインのあるユニフォームを着。バッターボックスへと立っていた。
「でたー!! 伝説のホームラン王!! 永田 翔太―!! これはサヨナラかー!!」
 流谷の立つはずの一塁に私がいた。
 津田沼よりも足が速いので特別に交代したのだ。
 バッターボックスに立った永田はでっぷりとした腹を少し引っ込め。ノウハウに立ち向かった。
 ノウハウがオーバースローから投げようとした。
 だが、突然、天空から雷がノウハウ目掛けて降って来た。
 落雷の衝撃でノウハウの頭部からは青い火花が飛ぶ。
「あっーと! ノウハウに落雷! これは、自然現象なのでしょうか?!」
 元谷はマイクを一人だけで齧る。
 機械の故障か140キロのストレートはキャッチャーミットに埋まった。
 しかし、永田は振らずに様子を見つめる。
 ノウハウが投げた。
 また、落雷がノウハウに降って来た。頭部から煙を出したノウハウは、今度も変化球ではなく、コンピュータの調子が悪いのか、何故か110キロのストレートだった。
 
 打った。


 ボールは一直線に塀へと飛んで行った。
 私は大歓声の中で全速力で走り出した。

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