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戦争
戦争 1
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豪雨と強風の中の夜道をドライブ。対向車がいそいそとこちらに向かっては離れていく。
ここB区の夜は静かすぎた。
「雷蔵様~~。本当に~~大丈夫ですから~。きっと、みんな生き返りますよ~~」
助手席のヨハがこれ以上ないといった心配な表情で、前方のみんなの血液をばら撒いたようなびしょびしょに濡れた夜道を見ながら話し出した。
「……」
僕は痛みのせいで、目が霞んできてしまった。
でも、引き返すことは僕の頭には皆無だった。今を生きる人々にとって、若すぎる死は残酷すぎる。心があるのか解らない僕にもその現実が重くのしかかっていた。
「必ず生き返りますから~~。病院に戻りましょうよ~~」
「……」
死者を蘇らせる能力のある藤元は、普通の人間だった。
僕も経済の神ではなく。普通の人間だったのだろう。
しばらくすると、C区の入り口の看板が見えてきた。
C区はB区の一部で、工場が集積した場所で、そこが2041年にB区と分離したのだ。工場は食品の加工や缶コーヒーの製造などから電気機器などやアンドロイド製造の工場を受け持っていた。ノウハウを人間に近づける技術を、集中的に行ったのは前奈々川首相の意向だった。けれど、だいぶ前からだ。ノウハウが大規模な都市開発プロジェクトで、多くの研究者の目を集めてから徐々に発展していったのは。
「さて、どこから潰すか……」
僕は霞がかる目を憎しみで凝らして、辺りを見回した。
今は夜の11時だ。
僕が停車したところはオン鳥オール工場という工場の近くだった。
黒のジープが一台駐車場に入ってきた。
僕はその自動車から攻撃しようと考えた。今は無差別に人や物を破壊したかった。
マカロフを握り、照準を合わせようとしたら、黒のジープが突然、急停車した。
運転席から一人の男がずぶ濡れになりながらショットガンを持ち出し、こちらに駆けてきた。
「なんだ!! やるのか!! やめておけ!! ……?」
暗い夜道で霞がかった目を凝らすと、僕が3年前に野球の試合で必死に戦った田場だった。がっしりした体つきの赤いモヒカン頭で、30代の怖い顔の男だ。
「お、矢多辺くんか。どうした怪我をして?」
急に優しい眼差しをした田場さんに、僕が事情を説明すると、田場さんは赤いモヒカンをいきりたたせ大きく頷いた。
「俺も行く。後、津田沼くんも参加させるからここでしばらく待っていろ。C区の悪い奴らをぶっ殺してやる!! さあ、行こう!!」
「いや、田場さんを巻き込みたくないんだ。狙ってすまない。僕とアンジェたちで戦う。オン鳥オール工場は壊さないことにするよ……」
僕は手短に言って頭を下げると、再び前方に目を向けて、急発進した。
オン鳥オール工場は昔、夜鶴が働いていたところだった。
今では島田と津田沼が働いている。
後方で、田場さんが残念がった顔をしていたが、大人しく職場へ向かったようだ。
C区の中心部に辿り着いた。赤いパトランプのついたバリケードで封鎖されたT字路の道路が前方に見えてきた。
C区が先回りして警察に通報したのだろうか。
それとも、云話事町TVのせいだろうか。
中心部へ向かうためのT字路への道路が鋼鉄製のバリケードで閉鎖されている。
「矢多辺 雷蔵さん!! 抵抗せずに両手を挙げて投降してください!!」
そう警告した警官隊に、僕は憤りを抱いた。
すぐさまアンジェに合図を送った。
アンジェは警官のノウハウたちと人間の警官隊の中央にロケットランチャーを不可視高速作業で数発撃ち放った。何発もの砲弾による爆発と破壊の後、吹っ飛んだ警官隊やノウハウの部品が空へと舞った。生き残りはすぐに奥に退避していった。ノウハウはばらばらと破壊されていったが無事なものからすぐさま撃ってきた。警察機関の特殊サブマシンガンだ。
大量の弾丸は僕の車に被弾していった。
二台の車に弾痕が出来たが、僕は無事だ。
すぐに助手席のヨハがアサルトライフルを窓越しに撃ち放って応戦した。警察機関のサブマシンガンは当然、アンジェたちにも被弾するのだが、弾丸がノウハウ用なので、アンジェたちに当たっても尽く跳ね返る。
「おい!! 撃つなー!! 抵抗するなー!」
バリケードの向こうから、警官隊のリーダーらしき男が一人こっちへ拡声器で大声を張り上げる。
「C区が!! 不穏なのはこっちも解るから!! 大人しく投降するんだ!! 矢多辺 雷蔵!! 話を聞いてやるから投降しろ!!」
僕は気にせずにアンジェたちに攻撃の指示をだし続けた。正面の警官隊とノウハウたちがバリケードごと嵐のような煙の中へと消えていった。自分も弾丸に迷いを乗せずに撃った。車が更に被弾し、フロントガラスが貫通しないまでも、ヒビが生じてきた。だが、アンジェたちの銃のセンスはノウハウよりも正確で、あっという間に警官隊やノウハウたちが全て狙い撃ちされ、地面に倒れていった。
まるで、戦場にいるかのような光景だ。
「矢多辺 雷蔵―!! 抵抗するなー!!」
警官隊のリーダーが根強く説得をしてくるが僕の銃撃で、その男も倒れた。
僕たちが去るときには、T字路を塞ぐ全てのノウハウの残骸と警官隊がバリケードごと地面に沈んでいた。
ここB区の夜は静かすぎた。
「雷蔵様~~。本当に~~大丈夫ですから~。きっと、みんな生き返りますよ~~」
助手席のヨハがこれ以上ないといった心配な表情で、前方のみんなの血液をばら撒いたようなびしょびしょに濡れた夜道を見ながら話し出した。
「……」
僕は痛みのせいで、目が霞んできてしまった。
でも、引き返すことは僕の頭には皆無だった。今を生きる人々にとって、若すぎる死は残酷すぎる。心があるのか解らない僕にもその現実が重くのしかかっていた。
「必ず生き返りますから~~。病院に戻りましょうよ~~」
「……」
死者を蘇らせる能力のある藤元は、普通の人間だった。
僕も経済の神ではなく。普通の人間だったのだろう。
しばらくすると、C区の入り口の看板が見えてきた。
C区はB区の一部で、工場が集積した場所で、そこが2041年にB区と分離したのだ。工場は食品の加工や缶コーヒーの製造などから電気機器などやアンドロイド製造の工場を受け持っていた。ノウハウを人間に近づける技術を、集中的に行ったのは前奈々川首相の意向だった。けれど、だいぶ前からだ。ノウハウが大規模な都市開発プロジェクトで、多くの研究者の目を集めてから徐々に発展していったのは。
「さて、どこから潰すか……」
僕は霞がかる目を憎しみで凝らして、辺りを見回した。
今は夜の11時だ。
僕が停車したところはオン鳥オール工場という工場の近くだった。
黒のジープが一台駐車場に入ってきた。
僕はその自動車から攻撃しようと考えた。今は無差別に人や物を破壊したかった。
マカロフを握り、照準を合わせようとしたら、黒のジープが突然、急停車した。
運転席から一人の男がずぶ濡れになりながらショットガンを持ち出し、こちらに駆けてきた。
「なんだ!! やるのか!! やめておけ!! ……?」
暗い夜道で霞がかった目を凝らすと、僕が3年前に野球の試合で必死に戦った田場だった。がっしりした体つきの赤いモヒカン頭で、30代の怖い顔の男だ。
「お、矢多辺くんか。どうした怪我をして?」
急に優しい眼差しをした田場さんに、僕が事情を説明すると、田場さんは赤いモヒカンをいきりたたせ大きく頷いた。
「俺も行く。後、津田沼くんも参加させるからここでしばらく待っていろ。C区の悪い奴らをぶっ殺してやる!! さあ、行こう!!」
「いや、田場さんを巻き込みたくないんだ。狙ってすまない。僕とアンジェたちで戦う。オン鳥オール工場は壊さないことにするよ……」
僕は手短に言って頭を下げると、再び前方に目を向けて、急発進した。
オン鳥オール工場は昔、夜鶴が働いていたところだった。
今では島田と津田沼が働いている。
後方で、田場さんが残念がった顔をしていたが、大人しく職場へ向かったようだ。
C区の中心部に辿り着いた。赤いパトランプのついたバリケードで封鎖されたT字路の道路が前方に見えてきた。
C区が先回りして警察に通報したのだろうか。
それとも、云話事町TVのせいだろうか。
中心部へ向かうためのT字路への道路が鋼鉄製のバリケードで閉鎖されている。
「矢多辺 雷蔵さん!! 抵抗せずに両手を挙げて投降してください!!」
そう警告した警官隊に、僕は憤りを抱いた。
すぐさまアンジェに合図を送った。
アンジェは警官のノウハウたちと人間の警官隊の中央にロケットランチャーを不可視高速作業で数発撃ち放った。何発もの砲弾による爆発と破壊の後、吹っ飛んだ警官隊やノウハウの部品が空へと舞った。生き残りはすぐに奥に退避していった。ノウハウはばらばらと破壊されていったが無事なものからすぐさま撃ってきた。警察機関の特殊サブマシンガンだ。
大量の弾丸は僕の車に被弾していった。
二台の車に弾痕が出来たが、僕は無事だ。
すぐに助手席のヨハがアサルトライフルを窓越しに撃ち放って応戦した。警察機関のサブマシンガンは当然、アンジェたちにも被弾するのだが、弾丸がノウハウ用なので、アンジェたちに当たっても尽く跳ね返る。
「おい!! 撃つなー!! 抵抗するなー!」
バリケードの向こうから、警官隊のリーダーらしき男が一人こっちへ拡声器で大声を張り上げる。
「C区が!! 不穏なのはこっちも解るから!! 大人しく投降するんだ!! 矢多辺 雷蔵!! 話を聞いてやるから投降しろ!!」
僕は気にせずにアンジェたちに攻撃の指示をだし続けた。正面の警官隊とノウハウたちがバリケードごと嵐のような煙の中へと消えていった。自分も弾丸に迷いを乗せずに撃った。車が更に被弾し、フロントガラスが貫通しないまでも、ヒビが生じてきた。だが、アンジェたちの銃のセンスはノウハウよりも正確で、あっという間に警官隊やノウハウたちが全て狙い撃ちされ、地面に倒れていった。
まるで、戦場にいるかのような光景だ。
「矢多辺 雷蔵―!! 抵抗するなー!!」
警官隊のリーダーが根強く説得をしてくるが僕の銃撃で、その男も倒れた。
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