ご近所STORYⅡ エレクトリックダンス【改訂版】

主道 学

文字の大きさ
20 / 42
エレクトリックダンス

エレクトリックダンス 5

しおりを挟む
「お! 起きた!! 起きた!!」
 原田の声だ。
「雷蔵さーん。朝ですよー」
 原田は陽気な声を発している。
 どうやら、僕は一命を取り留めたのだろう。
 ゆっくりと目を開けると、そこには原田と九尾の狐。そして、生き返っている河守がいた。白い病室の中だった。

「ハッピバースデー・トゥユー。ハッピバースデー・トゥユー」
 九尾の狐が歌っている。
「ハッピバースデー・トゥユー。ハッピバースデー・トゥユー」
 河守が歌っている。
「ハッピバースデー。雷蔵さん」
 原田が手に持っていた赤いロウソクがたったケーキを差し出した。
「…………」
 僕の体は少しも動かなかった。

 誕生日なんて、誰にも祝ってもらった時がない。それに、確か僕の誕生日は2月のはずだった。
 あれ?
「そうか……これは……夢か……」

「雷蔵様~~。大丈夫ですか~~」
 ヨハの声が聞こえる。
 僕は夢から覚めた。
 辺りを見回すと、ヨハ以外に誰もいない真っ白な病室だった。外は豪雨と強風が激しく窓を叩いていた。
「酷かったんですよ~~。4日間もお眠りしていて~~左足と左腕と右足~~。そして~、お腹に計6発も撃たれてあったので~~すよ」
「僕は今、起きているのかな?」
 僕はまだ夢を見ているのだろうか?
 ヨハに確認すると、ヨハは首を傾げて、
「はい、雷蔵様は起きていますよ~~」
「みんなは?」
 すると、ヨハの可愛らしい顔が曇った。
「酷かったです~。みんな死んでしまいました~。ノウハウは~全てアンジェとマルカが破壊しましたが~~、被害が大きかったので~……」
「え?……藤元は?」
 ヨハが俯いた。
「藤元様は今現在~行方不明です~~……」
 僕の頭が再び激怒の炎によって、燃え盛る。
「ヨハ! アンジェとマルカを呼んでくれ!! C区と戦争だーーー!!」
 僕はなりふり構わずに叫んでしまっていた。
 
 この感情は一体何なのか、と……僕は考えることもしなかった。

「了解で~~す!!」

 白の壁にあるテレビでは云話事町TVがやっていた。
「おはようです!! 云・話・事・町TVです!!」
 美人のアナウンサーの背景にはボロボロになったA区の青緑荘と周辺が見える。所々煙が立ち上り、ブルーシートが至る所に被さっている。
 周囲の人たちは誰もいなかった。
「見てください!! この惨状!! 悲惨さ!! A区の左辺部青緑荘が壊滅状態です!! 死者80名です!!」
 美人のアナウンサーはピンクのマイクを力強く握る。
「警察の調べで解ったことは、全部のノウハウの頭のプロフィールデータが壊れていることだけです!! 製造元も解らなくて証拠も無いようです!! まるで35年前の戦争のようですね!!」
 美人のアナウンサーが、何者かに町をめちゃくちゃにされて、さすがに怒っていた。
 更に吠えている。
「それに、藤元が何故か行方不明です!! 藤元!! さっさと帰って来い!! みんなを生き返らせろ! この鼻毛ーーー!!」
 美人のアナウンサーは、少し気を落ち着かせると、
「そういえば、生放送でしたね………よい子の皆さんは聞かなかったことにしてください……」
 美人のアナウンサーが落ち着いて話し出した。
「やったのは、C区のはずです。うちの藤元がいなくなる直前にボヤいていたので……」
 美人のアナウンサーはピンクのマイクを握ると、一つ咳払いをした。
「……コホン。それと、これもいなくなる直前の藤元が言ってたんですが……。というかゲロさせたんですが……。あの日本屈指の大金持ちの矢多辺 雷蔵さんが日本初の軍事用アンドロイド三体とC区と交戦中だったようです。私は憤ります……重大なことを今まで話してくれなかった藤元にマイクを、ブッ刺したいです……」

 藤元がいないので、美人のアナウンサーは一人でマイクを持っている。背景には無残になった青緑荘が写っていた。
「矢多辺 雷蔵氏は昔はハイブラウシティ・Bで、日本を窮地に陥れようとした人物ですが、今となっては日本の救世主になるかも知れません。そう藤元が言っていました。何が起きているのかはさっぱり解りませんが。番組はその雷蔵様を(私だけ)応援しているッス!」
 美人のアナウンサーはマイク片手にウインクをすると、
「きっと、今度の雷蔵様は日本のために戦ってくれるはずです……」

 番組はそこで終わった……。

 アンジェとマルカが云話事・仁田・クリニックに着いた。
 僕は大量の痛み止めと止血剤を買って、そうそうに病院を後にした。時折、塞がっているはずの傷が痛くてふらつくが、頭に突き刺さるかのようなその熱は、僕に冷静さや理性を一切与えなかった。

 豪雨と強風の中。
 ヨハが心配してついてきた。
 病院の駐車場で、後ろからびしょびしょの僕を抱きしめた。

「雷蔵様~~。命を無駄にしてはいけませ~~ん」
「平気だ」
「雷蔵様はお休みしていてください。C区は私たちだけで壊滅してみせます」
 アンジェ。
「雷蔵様は治療を受けながら、私たちを見送ってください」
 マルカ。
「いや……いいんだ」
 僕はどうしても重要なことは、自分が立ち会わなければならない性格とは別に、何かが、激しすぎるものが勝手に僕を突き動かしていた。

 拳銃のマカロフにアサルトライフル。グレネードが数個。アンジェたちはロケットランチャーにアサルトライフルを携え、弾丸や弾薬の多さは、この町一つを楽に潰せるほどだった。

 警察では強力なアンドロイドが不正や危険なことを行っても、製造元が解らない場合。プログラムを書き換えたりするだけで、どうしようもないのが今の時代だ。アンドロイドと協力するにはやっぱりそれなりのリスクがあるのだろう。

 僕はアンジェが乗ってきた修理された黄色のランボルギーニに乗った。ヨハが助手席に俯きがちにドアを開けて座った。アンジェとマルカは4座席のランボルギーニ・ポルトフィーノに乗り込む。アンジェたちも心配していたが、潔く車に乗り込んだようだ。

 4座席のポルトフィーノと黄色のランボルギーニのエストーケの後部座席には、超重量の弾薬や弾丸が置かれていた。

「雷蔵様~~」
「さあ、行こう」
 僕はヨハの頭を撫でてC区へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...