ご近所STORYⅡ エレクトリックダンス【改訂版】

主道 学

文字の大きさ
24 / 42
戦争

戦争 4

しおりを挟む
 僕は決心をした。
 僕は腕に巻かれた包帯を解き。
 輸血用の点滴も取り外す。
 そして、僕は立ち上がった。

「おいおい。お前さん。どこへ行くんだ。そんなにボロボロなのに……」
 髭面が心配気な顔を少しだけしたようだ。
 スキンヘッドは寝返りをうった。
「命を無駄にしないためさ……」
 僕は質素なロッカーへ行って、普段着の高級なスーツに着替えると医務室を出た。窓のない白い殺風景な廊下を歩き、椅子に座って眠り込んでいる看守の肩を揺らした。

 その先は鉄格子で通路を遮断されていた。

「ふ……む……もう食べれませんー……お姉さん~~……焼そばばかりじゃ飽きてしまいます~~……」
 看守は寝言を言っていたが、起き出して驚いて僕を見つめた。
「なんだ!! 何故寝ていない!?」
「電話を掛けさせてくれ」
「……番号を言え」
 番号とは受刑者番号のことだと解ると、左腕に刻まれたバーコードの数字を言った。
「矢多辺 雷蔵か……解った。ちょっと待っていろ……」
 寝ぼけまなこの看守がゆるゆると立ち上がり、柱の傍にある赤い電話を掛けて誰かと話した。
 殺風景な通路を遮断していた鉄格子がようやく音を立てて開くと、看守と一諸に奥へと歩いた。その先には右側に看守が数人いる受付のようなものがあった。

「ここの電話を使え」
 看守の言葉を聞くと、僕は赤い電話の受話器を握りしめた。一か八か自分のしていた非合法なことと一緒に、首相暗殺とエレクトリック・ダンスの話をするために。
 
 夜鶴 公の電話番号を掛けた。
 その番号は2年前に聞いた。
 首相官邸の電話番号だった。
 
 二日後。

 現奈々川首相の晴美さんが夜鶴と一緒に僕のが寝ている医務室のベットへと来た。
「雷蔵さん。ボロボロじゃないですか!? 何が起きたのです?」
 晴美さんが心配な表情をしていた。
 僕はベットからゆっくりと這い出て、晴美さんにエレクトリック・ダンスのことを詳しく言おうとしたが、僕の言葉は足元の犬によって、遮られた。
「ワン!!」
「スケッシー駄目じゃないか!」
 夜鶴が犬の頭を叩いた。黒のジーンズと革ジャンを着た中肉中背のハンサムな男だ。黒い髪は長髪の部類に入る。年齢は僕と同じ28歳だろう。
「晴美さん。スリー・C・バックアップを今すぐ止めてくれ。スリー・C・バックアップの裏の顔は危険なんだ」
「え……?」
 僕は目を大きく見開いた晴美さんと夜鶴に、今までの経緯を全て話した。

 …………

 晴美さんは大きく目を開けて驚いていた。
「そうですか。雷蔵さん……私たちと日本のために共に戦ってくれるのですね。あなたのしたことは今さら咎めません……」
「……ああ……。ありがとう」
 僕はほっとして大きく頷いた。
 晴美さんには、エレクトリック・ダンスのことと暗殺のこと、僕がスリー・C・バックアップの横流しをしようとしたことを丁寧に話した。これから、C区と僕はどうなるのだろう。もはや、ことは大きな日本という歯車が僕たちを巻き込んでいった……。

 まるで、何年ぶりかの晴れ渡った太陽の顔を拝んだ僕は、晴美さんと夜鶴が乗る黒のベンツへと乗った。青空には白いハトの群れが飛んでいた。
 数台いる黒のベンツを見て、僕は考えた。行き先は首相官邸なのだろうか?
「晴美さん。殺された島田たちを生き返らせないと……。藤元を探そう。A区に行こうよ」
 夜鶴の声は心配ではち切れそうであった。
「ええ……」
 ベンツの後部座席へ晴美さんと僕は並んで座っている。黒服の運転手の隣には犬と一緒の夜鶴がいた。
「矢多辺。藤元がどこにいるか見当つくか?」
「いや、僕も必死だったから……すまない……」
 晴美さんが微笑んだ。
「気にしなくていいんですよ……藤元さんなら、信者の人が3人もいます」
「信者って、確か山下と淀川と広瀬だよな」
「ええ。信者の人たちなら知っているはずです。ここからまだ生きている山下さんのところへ行きましょう。なんとかしてくれるはずです」
 晴美さんは自信のある顔をした。

 僕たちの乗った車はA区へと向かった。
 那珂湊商店街に山下がいるという。
 車で高速道路を3時間の間に僕はアンジェたちのことを考えていた。夜鶴との電話で真っ先に言ったのは、やはりアンジェたちのことだった。
 晴美さんが電話に出て、国を挙げて修理すると言ってくれた。
 重犯罪刑務所はA区でもB区でもない荒廃した場所にあった。
 僕は青空を自由に流れる白い雲を見ながら、ふと疑問に思った。傍に晴美さんがいるのに、河守の笑顔のことを考えている自分に気が付いたのだ。

「ワン」
 犬が僕を見て吠えていた。
「雷蔵さん。上の空ですよ?」
「え……あれ?」
 晴美さんの一言に、僕は急に恥ずかしくなった。
「それにしても、エレクトリック・ダンス……。私の意向が完璧に横道に逸れてしまう政策ですね。人々が人間的に暮らさなければ、何もならないというのにです。私はこれからも選挙戦を勝ち抜きます。雷蔵さんのため、国のため、夜鶴さんのためにも……」
 運転席の黒服がこちらを見た。
「雷蔵さん。ありがとうございます。あなたがいなければ、この国は人間的に崩壊していったでしょう」
 僕の心に嬉しいという感情が湧き出てきたようだ。
 まるで、初めて人に感謝された時のようだ。

「いや、僕は……」
 赤面して俯くと、
「謙遜しなくていいですよ。それと、夜鶴さん。私の選挙の時にはボディガードのノウハウとシークレットサービスを雇って警護を強化しますが、夜鶴さんにもお願いします」
「ああ……」
 夜鶴は満面の笑みを見せた。
 それは、幸せな顔でも好戦的な顔でもあった。
 僕にもそんな顔をする時があるのだろうか……。

 僕は車窓から外を眺めていると、いつの間にか九尾の狐と原田の言葉を思い出していた。 
 確か、僕の家の近くで晴美さんが何かをするんだったっけ。あ、そうか。これから選挙戦だ。でも、何か腑に落ちないものが僕の心にあった。それは、胸騒ぎだった……。
 車は高速道路を降りてA区の中へと入った。

 周辺が荒廃した様相から、牧歌的な風景へと変わった。通り過ぎる人々はC区との戦争の爪痕のためか、どこか緊張していてそして寂しげだった。
「もうそろそろです。山下さんは那珂湊商店街の5番アーチにいるそうです」
 黒服がそう言うと、那珂湊商店街の花柄のアーチ。入り口が見えてきた。
 ベンツは下り坂を降りだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...