ご近所STORYⅡ エレクトリックダンス【改訂版】

主道 学

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選挙

選挙 4

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 病室の窓から藤元が入ってきた。どうやら、空を飛んできたようだ。
「雷蔵さん。晴美さん。番組が始まりますよ」
 藤元が元気だ。
 突然、美人のアナウンサーが病室に入ってきた。
「コラ!! 藤元!! 放送中に飛んでいくな!!」
 どうやら、病院の外で奈々川首相の病態を案じ、放送しようとしていたのだろう。

 美人のアナウンサーがピンクのマイクで藤元の頭を刺すと、藤元は瞬時に立ち直り、カメラマンに晴美さんを写させた。
「みなさん。奈々川首相は無事ですよー。番組は奈々川首相を応援しています」
 マイクなしの藤元は晴美さんを励ました。
 晴美さんは涙を拭いて、飛び掛かる美人のアナウンサーのピンクのマイクにはっきりと宣言するために、ベットから上半身を奮い立たせる。

「私は無事です。けれど、日本の将来はどうでしょうか? スリー・C・バックアップで得たものとは、人間性ではないでしょうか? ごく一部のB区とC区だけが発展していっても、やがてはその国は病んでしまうのではないでしょうか? A区の人々は日々、みんなと協力して生きています。その人達にはスリー・C・バックアップでアップデートされたノウハウの維持費を支払うのは、堂に入ってはいないのでは? 確かに老人が一番多いのはA区です……。それでもA区が元気に、そして、より良く生きていけるには、やはり、人間性が必要です。A区の人たちにも老後が待っています。B区やC区だけではないのです。発展とは、A区の人々も含めてではないでしょうか? 5千万人の老後の問題は日本全国の問題です。……私は思います。機械のノウハウに老人の介護を任せるのは、孤独死と同じ目に老人を合わせるのではと? 老人も人間です。例えボケても人間です。その老人に暖かく、人間的に接せられるのは、やはり、人間だけです。人間性のために、私たちは立ち上がります!!」
 晴美さんはそう言うと、ベットから降りだした。

「今の私は援助が必要な体です。ですが、アンドロイドのノウハウの援助と人間の援助とでは、どちらが尊いでしょうか。人間的なドラマがなければ、心の交流がなければ、私たちの老後は死んだも同じです!!」
 晴美さんはそう言い終わると、力尽きてベットに倒れる。それを夜鶴と島田が受け止めた。
 美人のアナウンサーは涙を拭いて、力強く頷くと。
「どうです!! 私の思惑通りに晴美さんの政策が絶対に一番になりますよ!! これから、私たちも番組も含めて立ち上がります!!」
 藤元が晴美さんの容体を看ていた。
「先生!!」
 藤元が医者を呼んだ。
「だ……大丈夫……です……」
 晴美さんは起き上がろうとするが、夜鶴が制した。

「晴美さん!! 寝ているんだ!! 毒がまだ抜けていない!!」
「大丈夫です……」
 晴美さんが夜鶴を押しのけて起き上がり、
「3週間後に私たちは、もう一度、選挙戦を興田首相に挑みます。それはレースの試合でです。こちらが勝手に決めた試合なので、ルールは興田首相に託します」
 晴美さんはそう言うと、ベットで横になって、再び目を瞑った。
「今度は、レースですね。ハイ!! 了解ッス!! また、日本全土を左右する場面に出くわしたッス!!」
 藤元は喜んで話している美人のアナウンサーの隣で、緊迫した顔をしていた。晴美さんの体内の毒は、致死性の毒だったのだ。

 次の日。
 僕はA区の青緑荘の前でスポーツカーを並べていた。
 ランボルギーニ・エストーケ。ランボルギーニ・ポルトフィーノ。ディアブロ。ガヤドル。ウラカン。ソニア。ラプター。アヴェンタドール。スカイラインGTR.スカイラインクロスオーバー。
 それぞれ僕のお気に入りの車だった。
 この車たちでレースをする。
 原田と僕がそれぞれの車の説明をすると、A区の人々と夜鶴たちが、島田。広瀬。淀川。田場。津田沼。山下。夜鶴。流谷。遠山が真剣に耳を傾ける。
「ウラカンはエンジンがV型10気筒DOHCで。排気量が5.1Lくらいかな。アヴェンタドールはV型12気筒DOHCのエンジンで。排気量が6.6Lだったと思う。多分、間違っているかも知れないけど、こんな感じだ(矢多辺はかなり昔に買った。自家用車なので間違っている)」
 僕と原田は説明をしていた。

 十字路が多々ある小道に所狭しと置いたスポーツカーの間を、小走りにきた女性バイトが遠山に何かを渡した。
「お守りです」
 女性バイトが頭を下げる。
「……」
 遠山はそれを受け取ると無言で力強く頷いた。
 僕の庭はB区の云話事イーストヒルズにある。大型レーシング場だ。
 そこで、彼らのドライビングテクニックを磨いた。
 後、三週間しかないのだ。
 トラックとはサーキットコースのこと。コントロールラインは周回の基準となる線。ストレートは直線路の意味。コーナーは角という意味でカーブのこと。コーナーでアウトとは道幅の中の一番遠い場所。逆にインは道幅の中で一番近い場所。もしコースアウトしたら、戻るところをレコードラインという。ピットは車の整備や修理などを行うスペース。
 アンダーステアはハンドルを切った分より車が曲がらないこと。逆にオーバーステアは、ハンドルを切った分より車が曲がること。
 スピン。ドリフト。マニュアルの操作。などを教えて体得してもらった。僕と原田も腕を磨いた。この三週間は僕はみんなとやれて本当に楽しかった。

 ぼやけた蛍光灯が並列している会議室で、複数の人々がいる。
 長方形のテーブルに皆が座っている。
「そうですね。C区の技術が試せます。試験的にデータを送ってみますよ」
 複数いる茶色い作業服の男たちの年配のリーダーは、グレーの帽子を少しずらして、頭を掻いていた。
「出来るのなら、その方法でもいいな……」
 角竹は微笑んで興田 道助と顔を合わせた。
「ええ。といっても、全員殺しても構わないんでしょ」
 興田 道助がふざけた調子で軽口を言ったが、その顔にはどこか真剣なものが垣間見える。
「ふむ……。日本の将来がかかっているんだし、道助。解るな。あの娘はどうしても殺さなければならないんだ。或いは永久に失脚しなければ、日本が滅びる」

 興田 守は息子の顔を見つめ早口に言った。その顔からは穏やかさとは正反対の感情が滲み出ていた。まるで、強迫的な感情を無理矢理抑えている感じに似ている。
「楽しくゲームをする。それが、日本の将来に繋がる。三年前の野球以来だな。あの娘は面白い。だが、ゲームといっても何かを失ってもおかしくはない。どんなゲームにも言えることなのではないかな? それを理解しているのか……あの娘は?」
 角竹は長方形のテーブルとは少し離れた重厚なテーブルの椅子に腰かけた。
 カーテンのない嵌め殺し窓からは、ここC区の工場が建ち並んでいた。それぞれの席には関わりのあるC区の重役たちが集まっていた。
「後はアンドロイドのノウハウにレース用の高度プログラムをアップデートしてしまえばいいんですね。……それと……」
 秘書の満川は静かに言いだした。
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