33 / 42
選挙
選挙 4
しおりを挟む
病室の窓から藤元が入ってきた。どうやら、空を飛んできたようだ。
「雷蔵さん。晴美さん。番組が始まりますよ」
藤元が元気だ。
突然、美人のアナウンサーが病室に入ってきた。
「コラ!! 藤元!! 放送中に飛んでいくな!!」
どうやら、病院の外で奈々川首相の病態を案じ、放送しようとしていたのだろう。
美人のアナウンサーがピンクのマイクで藤元の頭を刺すと、藤元は瞬時に立ち直り、カメラマンに晴美さんを写させた。
「みなさん。奈々川首相は無事ですよー。番組は奈々川首相を応援しています」
マイクなしの藤元は晴美さんを励ました。
晴美さんは涙を拭いて、飛び掛かる美人のアナウンサーのピンクのマイクにはっきりと宣言するために、ベットから上半身を奮い立たせる。
「私は無事です。けれど、日本の将来はどうでしょうか? スリー・C・バックアップで得たものとは、人間性ではないでしょうか? ごく一部のB区とC区だけが発展していっても、やがてはその国は病んでしまうのではないでしょうか? A区の人々は日々、みんなと協力して生きています。その人達にはスリー・C・バックアップでアップデートされたノウハウの維持費を支払うのは、堂に入ってはいないのでは? 確かに老人が一番多いのはA区です……。それでもA区が元気に、そして、より良く生きていけるには、やはり、人間性が必要です。A区の人たちにも老後が待っています。B区やC区だけではないのです。発展とは、A区の人々も含めてではないでしょうか? 5千万人の老後の問題は日本全国の問題です。……私は思います。機械のノウハウに老人の介護を任せるのは、孤独死と同じ目に老人を合わせるのではと? 老人も人間です。例えボケても人間です。その老人に暖かく、人間的に接せられるのは、やはり、人間だけです。人間性のために、私たちは立ち上がります!!」
晴美さんはそう言うと、ベットから降りだした。
「今の私は援助が必要な体です。ですが、アンドロイドのノウハウの援助と人間の援助とでは、どちらが尊いでしょうか。人間的なドラマがなければ、心の交流がなければ、私たちの老後は死んだも同じです!!」
晴美さんはそう言い終わると、力尽きてベットに倒れる。それを夜鶴と島田が受け止めた。
美人のアナウンサーは涙を拭いて、力強く頷くと。
「どうです!! 私の思惑通りに晴美さんの政策が絶対に一番になりますよ!! これから、私たちも番組も含めて立ち上がります!!」
藤元が晴美さんの容体を看ていた。
「先生!!」
藤元が医者を呼んだ。
「だ……大丈夫……です……」
晴美さんは起き上がろうとするが、夜鶴が制した。
「晴美さん!! 寝ているんだ!! 毒がまだ抜けていない!!」
「大丈夫です……」
晴美さんが夜鶴を押しのけて起き上がり、
「3週間後に私たちは、もう一度、選挙戦を興田首相に挑みます。それはレースの試合でです。こちらが勝手に決めた試合なので、ルールは興田首相に託します」
晴美さんはそう言うと、ベットで横になって、再び目を瞑った。
「今度は、レースですね。ハイ!! 了解ッス!! また、日本全土を左右する場面に出くわしたッス!!」
藤元は喜んで話している美人のアナウンサーの隣で、緊迫した顔をしていた。晴美さんの体内の毒は、致死性の毒だったのだ。
次の日。
僕はA区の青緑荘の前でスポーツカーを並べていた。
ランボルギーニ・エストーケ。ランボルギーニ・ポルトフィーノ。ディアブロ。ガヤドル。ウラカン。ソニア。ラプター。アヴェンタドール。スカイラインGTR.スカイラインクロスオーバー。
それぞれ僕のお気に入りの車だった。
この車たちでレースをする。
原田と僕がそれぞれの車の説明をすると、A区の人々と夜鶴たちが、島田。広瀬。淀川。田場。津田沼。山下。夜鶴。流谷。遠山が真剣に耳を傾ける。
「ウラカンはエンジンがV型10気筒DOHCで。排気量が5.1Lくらいかな。アヴェンタドールはV型12気筒DOHCのエンジンで。排気量が6.6Lだったと思う。多分、間違っているかも知れないけど、こんな感じだ(矢多辺はかなり昔に買った。自家用車なので間違っている)」
僕と原田は説明をしていた。
十字路が多々ある小道に所狭しと置いたスポーツカーの間を、小走りにきた女性バイトが遠山に何かを渡した。
「お守りです」
女性バイトが頭を下げる。
「……」
遠山はそれを受け取ると無言で力強く頷いた。
僕の庭はB区の云話事イーストヒルズにある。大型レーシング場だ。
そこで、彼らのドライビングテクニックを磨いた。
後、三週間しかないのだ。
トラックとはサーキットコースのこと。コントロールラインは周回の基準となる線。ストレートは直線路の意味。コーナーは角という意味でカーブのこと。コーナーでアウトとは道幅の中の一番遠い場所。逆にインは道幅の中で一番近い場所。もしコースアウトしたら、戻るところをレコードラインという。ピットは車の整備や修理などを行うスペース。
アンダーステアはハンドルを切った分より車が曲がらないこと。逆にオーバーステアは、ハンドルを切った分より車が曲がること。
スピン。ドリフト。マニュアルの操作。などを教えて体得してもらった。僕と原田も腕を磨いた。この三週間は僕はみんなとやれて本当に楽しかった。
ぼやけた蛍光灯が並列している会議室で、複数の人々がいる。
長方形のテーブルに皆が座っている。
「そうですね。C区の技術が試せます。試験的にデータを送ってみますよ」
複数いる茶色い作業服の男たちの年配のリーダーは、グレーの帽子を少しずらして、頭を掻いていた。
「出来るのなら、その方法でもいいな……」
角竹は微笑んで興田 道助と顔を合わせた。
「ええ。といっても、全員殺しても構わないんでしょ」
興田 道助がふざけた調子で軽口を言ったが、その顔にはどこか真剣なものが垣間見える。
「ふむ……。日本の将来がかかっているんだし、道助。解るな。あの娘はどうしても殺さなければならないんだ。或いは永久に失脚しなければ、日本が滅びる」
興田 守は息子の顔を見つめ早口に言った。その顔からは穏やかさとは正反対の感情が滲み出ていた。まるで、強迫的な感情を無理矢理抑えている感じに似ている。
「楽しくゲームをする。それが、日本の将来に繋がる。三年前の野球以来だな。あの娘は面白い。だが、ゲームといっても何かを失ってもおかしくはない。どんなゲームにも言えることなのではないかな? それを理解しているのか……あの娘は?」
角竹は長方形のテーブルとは少し離れた重厚なテーブルの椅子に腰かけた。
カーテンのない嵌め殺し窓からは、ここC区の工場が建ち並んでいた。それぞれの席には関わりのあるC区の重役たちが集まっていた。
「後はアンドロイドのノウハウにレース用の高度プログラムをアップデートしてしまえばいいんですね。……それと……」
秘書の満川は静かに言いだした。
「雷蔵さん。晴美さん。番組が始まりますよ」
藤元が元気だ。
突然、美人のアナウンサーが病室に入ってきた。
「コラ!! 藤元!! 放送中に飛んでいくな!!」
どうやら、病院の外で奈々川首相の病態を案じ、放送しようとしていたのだろう。
美人のアナウンサーがピンクのマイクで藤元の頭を刺すと、藤元は瞬時に立ち直り、カメラマンに晴美さんを写させた。
「みなさん。奈々川首相は無事ですよー。番組は奈々川首相を応援しています」
マイクなしの藤元は晴美さんを励ました。
晴美さんは涙を拭いて、飛び掛かる美人のアナウンサーのピンクのマイクにはっきりと宣言するために、ベットから上半身を奮い立たせる。
「私は無事です。けれど、日本の将来はどうでしょうか? スリー・C・バックアップで得たものとは、人間性ではないでしょうか? ごく一部のB区とC区だけが発展していっても、やがてはその国は病んでしまうのではないでしょうか? A区の人々は日々、みんなと協力して生きています。その人達にはスリー・C・バックアップでアップデートされたノウハウの維持費を支払うのは、堂に入ってはいないのでは? 確かに老人が一番多いのはA区です……。それでもA区が元気に、そして、より良く生きていけるには、やはり、人間性が必要です。A区の人たちにも老後が待っています。B区やC区だけではないのです。発展とは、A区の人々も含めてではないでしょうか? 5千万人の老後の問題は日本全国の問題です。……私は思います。機械のノウハウに老人の介護を任せるのは、孤独死と同じ目に老人を合わせるのではと? 老人も人間です。例えボケても人間です。その老人に暖かく、人間的に接せられるのは、やはり、人間だけです。人間性のために、私たちは立ち上がります!!」
晴美さんはそう言うと、ベットから降りだした。
「今の私は援助が必要な体です。ですが、アンドロイドのノウハウの援助と人間の援助とでは、どちらが尊いでしょうか。人間的なドラマがなければ、心の交流がなければ、私たちの老後は死んだも同じです!!」
晴美さんはそう言い終わると、力尽きてベットに倒れる。それを夜鶴と島田が受け止めた。
美人のアナウンサーは涙を拭いて、力強く頷くと。
「どうです!! 私の思惑通りに晴美さんの政策が絶対に一番になりますよ!! これから、私たちも番組も含めて立ち上がります!!」
藤元が晴美さんの容体を看ていた。
「先生!!」
藤元が医者を呼んだ。
「だ……大丈夫……です……」
晴美さんは起き上がろうとするが、夜鶴が制した。
「晴美さん!! 寝ているんだ!! 毒がまだ抜けていない!!」
「大丈夫です……」
晴美さんが夜鶴を押しのけて起き上がり、
「3週間後に私たちは、もう一度、選挙戦を興田首相に挑みます。それはレースの試合でです。こちらが勝手に決めた試合なので、ルールは興田首相に託します」
晴美さんはそう言うと、ベットで横になって、再び目を瞑った。
「今度は、レースですね。ハイ!! 了解ッス!! また、日本全土を左右する場面に出くわしたッス!!」
藤元は喜んで話している美人のアナウンサーの隣で、緊迫した顔をしていた。晴美さんの体内の毒は、致死性の毒だったのだ。
次の日。
僕はA区の青緑荘の前でスポーツカーを並べていた。
ランボルギーニ・エストーケ。ランボルギーニ・ポルトフィーノ。ディアブロ。ガヤドル。ウラカン。ソニア。ラプター。アヴェンタドール。スカイラインGTR.スカイラインクロスオーバー。
それぞれ僕のお気に入りの車だった。
この車たちでレースをする。
原田と僕がそれぞれの車の説明をすると、A区の人々と夜鶴たちが、島田。広瀬。淀川。田場。津田沼。山下。夜鶴。流谷。遠山が真剣に耳を傾ける。
「ウラカンはエンジンがV型10気筒DOHCで。排気量が5.1Lくらいかな。アヴェンタドールはV型12気筒DOHCのエンジンで。排気量が6.6Lだったと思う。多分、間違っているかも知れないけど、こんな感じだ(矢多辺はかなり昔に買った。自家用車なので間違っている)」
僕と原田は説明をしていた。
十字路が多々ある小道に所狭しと置いたスポーツカーの間を、小走りにきた女性バイトが遠山に何かを渡した。
「お守りです」
女性バイトが頭を下げる。
「……」
遠山はそれを受け取ると無言で力強く頷いた。
僕の庭はB区の云話事イーストヒルズにある。大型レーシング場だ。
そこで、彼らのドライビングテクニックを磨いた。
後、三週間しかないのだ。
トラックとはサーキットコースのこと。コントロールラインは周回の基準となる線。ストレートは直線路の意味。コーナーは角という意味でカーブのこと。コーナーでアウトとは道幅の中の一番遠い場所。逆にインは道幅の中で一番近い場所。もしコースアウトしたら、戻るところをレコードラインという。ピットは車の整備や修理などを行うスペース。
アンダーステアはハンドルを切った分より車が曲がらないこと。逆にオーバーステアは、ハンドルを切った分より車が曲がること。
スピン。ドリフト。マニュアルの操作。などを教えて体得してもらった。僕と原田も腕を磨いた。この三週間は僕はみんなとやれて本当に楽しかった。
ぼやけた蛍光灯が並列している会議室で、複数の人々がいる。
長方形のテーブルに皆が座っている。
「そうですね。C区の技術が試せます。試験的にデータを送ってみますよ」
複数いる茶色い作業服の男たちの年配のリーダーは、グレーの帽子を少しずらして、頭を掻いていた。
「出来るのなら、その方法でもいいな……」
角竹は微笑んで興田 道助と顔を合わせた。
「ええ。といっても、全員殺しても構わないんでしょ」
興田 道助がふざけた調子で軽口を言ったが、その顔にはどこか真剣なものが垣間見える。
「ふむ……。日本の将来がかかっているんだし、道助。解るな。あの娘はどうしても殺さなければならないんだ。或いは永久に失脚しなければ、日本が滅びる」
興田 守は息子の顔を見つめ早口に言った。その顔からは穏やかさとは正反対の感情が滲み出ていた。まるで、強迫的な感情を無理矢理抑えている感じに似ている。
「楽しくゲームをする。それが、日本の将来に繋がる。三年前の野球以来だな。あの娘は面白い。だが、ゲームといっても何かを失ってもおかしくはない。どんなゲームにも言えることなのではないかな? それを理解しているのか……あの娘は?」
角竹は長方形のテーブルとは少し離れた重厚なテーブルの椅子に腰かけた。
カーテンのない嵌め殺し窓からは、ここC区の工場が建ち並んでいた。それぞれの席には関わりのあるC区の重役たちが集まっていた。
「後はアンドロイドのノウハウにレース用の高度プログラムをアップデートしてしまえばいいんですね。……それと……」
秘書の満川は静かに言いだした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる