五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第391話:解体狂騒曲(スクラップ・ラプソディ)

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 翌日。静寂に包まれていたはずの古代地下都市は、まるで祭りのような喧騒に包まれていた。
 たいまつと魔導ランプの明かりが至る所で揺れ、ツルハシやハンマーが硬質な壁を叩く音が、岩盤のドームにこだましている。

「おい、ボリン! そっちの壁材、剝がす時は丁寧にやれよ! 表面のコーティングは純度100%のミスリル銀だぞ! 傷つけたら承知しねえぞ!」

「分かってますって親方! うひょー、すげえ! こいつ、軽く魔力を流すだけで勝手に剥がれてきやがる!」

 ドルガン親方率いるドワーフの職人部隊と、リザ率いる錬金術師チームが、昨日の今日で大挙して押し寄せていたのだ。
 彼らにとって、機能を停止したこの都市は、もはや「遺跡」ではない。喉から手が出るほど欲しい未知の素材と技術が眠る、手つかずの「宝の山」だった。

「アキオ殿! 見てくださいこれ! 通路の照明に使われていた回路ですが、この構造……永久機関に近い魔力循環効率を持っています! これを解析すれば、魔石の消費量を十分の一に抑えられるかもしれません!」

 リザが煤けた顔で、引き剥がしたばかりの基板を掲げて叫ぶ。

「ああ、すごいなリザ。……だが、俺が見つけたこいつには勝てないぞ」

 アキオもまた、子供のように目を輝かせていた。彼の手には、住居区画から取り外してきた、何の変哲もない四角い箱が抱えられている。
 アキオの背中におんぶされている古代皇女――セフィアが、不思議そうに小首をかしげた。

「アキオ様……それは、ただの『居住環境維持ユニット』の排気口ですが……?」

「いいや、セフィア。これは俺の故郷の言葉で言うとな、『エアコン』っていうんだ」

 アキオは鼻息も荒く力説した。

「こいつがあれば、真夏でも部屋の中を涼しくできるし、真冬でもポカポカだ。アヤネが台所で汗だくにならなくて済むし、ビニールハウスに使えば、冬にトマトだって作れるんだぞ!」

「えあこん……? とまと……?」

 セフィアはきょとんとしているが、アキオにとっては大発見だ。これこそが、彼が求めていたスローライフの質を劇的に向上させる「三種の神器」の一つだったのだ。

「おーい! だんな! こっちもすげえもん見つけたぞ!」

 向こうから、ザックたち元荒くれ共が、円盤状の金属板に乗って、滑るように移動してきた。足は動かしていない。金属板が地面から数センチ浮き上がり、彼らを乗せて移動しているのだ。

「おお! それは……!」

「『個人用・近距離浮遊ディスク』ですね。都市内の移動に使われていたものです」

 セフィアが即座に解説する。

「浮いてる……! こいつぁとんでもねえ!」

 アキオの脳裏に、様々な活用法が浮かんだ。
 重い荷物を運ぶ台車にこれを取り付ければ、シャルロッテの街道輸送革命が起きる。
 食堂で料理を乗せて飛ばせば、配膳が楽になるし、子供たちも喜ぶだろう。
 まさに、夢のオーバーテクノロジーだ。

「よし! ザック、そのディスクも回収だ! 倉庫にある分、全部持っていくぞ!」

「おうよ! 任せときな!」

 都市のあちこちで、歓声が上がる。
 かつて人々を管理し、縛り付けていたシステムの一部は、今やバラバラに解体され、アキオたちの新しい生活を豊かにするための「部品(パーツ)」へと生まれ変わろうとしていた。

「……ふふっ」

 アキオの背中で、セフィアが小さく笑い声を漏らした。
 自分の守ってきた都市が壊されていくというのに、彼女の表情に陰りはない。むしろ、憑き物が落ちたように晴れやかだった。

「どうした、セフィア? やっぱり、寂しいか?」

「いいえ。……嬉しいのです」

 彼女は、ドワーフたちが楽しそうに壁を剥がす様子を眺めながら、アキオの首に腕を回した。

「この都市は、ずっと静かで、冷たい場所でした。でも今は……こんなに賑やかで、熱気にあふれています。……私の都市が、ようやく『生きている』気がするのです」

「そうか。……ああ、そうだな」

 アキオは彼女を背負い直した。

「安心しろ。お前の街の部品は、俺たちが責任を持って、最高に楽しい使い方をしてやるからな」

 その日、聖域へと続く森の道には、戦利品(ガラクタの山)を満載した荷車と、泥だらけの男たちの笑い声が、夜遅くまで絶えなかったという。
 こうして聖域は、古代文明の遺産を飲み込み、誰も予想しなかった「訳の分からない発展」へと突き進んでいくことになるのだった。
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