五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
6 / 400

第6話:深まる秋と冬支度の槌音

しおりを挟む
 森の木々が赤や黄色に染まり、朝露が降りる頃には吐く息が白くなる日が増えてきた。アキオは、日に日に厳しくなる朝晩の冷え込みに、地球で過ごした故郷の冬を思い出していた。この異世界の冬がどれほど厳しいものか見当もつかないが、備えあれば憂いなしだ。

「みんな、集まってくれ。今日から本格的に冬の準備を始めるぞ」
 朝食後、アキオがそう宣言すると、子供たちの顔に緊張の色が浮かんだ。彼らもまた、肌で感じる寒さから、これからの季節の厳しさを予感しているのだろう。
「一番大事なのは薪だ。暖を取るにも、煮炊きするにも火は欠かせん。それから、この家の隙間をもっとしっかり塞いで、寒さを少しでも和らげる。服も、もう少し暖かいものが必要だな」
 アキオの言葉に、子供たちは真剣な表情で頷いた。

 最初の仕事は、薪集めだった。
「アルト、ケンタ。斧と鋸の使い方、もう一度しっかり教えるからよく見ておけ。怪我だけは絶対にするなよ」
 アキオはまず、比較的安全な枯れ木や、小屋の修理で出た端材を使い、アルトとケンタに薪割りの基本を叩き込んだ。最初はぎこちない手つきだった二人も、アキオの丁寧な指導と持ち前の飲み込みの良さで、徐々に様になってくる。アルトは的確に斧を振り下ろし、ケンタは持ち前の元気でリズムよく鋸を引いた。
「よし、その調子だ。だが、絶対に無理はするな」
 アキオは彼らに小屋の近くで手頃な枯れ木や倒木を集めさせ、自分は少し離れた場所で太めの木を伐採し、薪にする作業を進めた。アヤネは、男たちが切り出した薪を小屋の脇まで運び、きちんと積み上げる役目を買って出た。ミコとユメも、お姉ちゃんたちの真似をして、細い枝や松ぼっくりを拾い集め、焚き付け用の山を作っていく。
 数日かけて、小屋の壁の一面が見えなくなるほど大量の薪が積み上げられた。それを見上げ、子供たちは疲労感と共に大きな達成感を味わっていた。

 次に、小屋の防寒対策だ。アキオは、以前見つけておいた良質な粘土と枯れ草を混ぜ合わせ、小屋の壁の隙間という隙間に念入りに塗り込んでいく。床にも、アヤネたちが集めて乾燥させておいた大量の干し草を厚く敷き詰めた。これだけでも、小屋の中の保温性は格段に向上するはずだ。
 そして、衣服。子供たちの服は薄手で、擦り切れている箇所も多い。
「アヤネ、お前、針仕事はできるか?」
「はい、村で母に少しだけ……でも、糸も針も……」
 アキオは、以前罠で獲れたウサギの毛皮を数枚取り出した。幸い、なめす技術はなくても、乾燥させて柔らかくする程度ならアキオにもできた。
「これを使って、簡単なベストか肩掛けのようなものを作ってみよう。針は……骨を削って作れるかもしれん。糸は、丈夫な植物の繊維か、獣の腱を使うしかないな」
 アキオは試行錯誤の末、鳥の骨を削って数本の粗末な骨針を作り出し、植物の繊維を撚って丈夫な糸を作った。アヤネはその乏しい道具と材料で、驚くほど器用に毛皮を縫い合わせ、子供たちの人数分の小さなベストや、肩や背中を覆うケープのようなものを作り上げた。アキオも、自分の着古した服の丈夫な部分を使い、子供たちの服の破れを繕うのを手伝った。
「わあ、あったかい!」
 ユメが小さな毛皮のベストを羽織り、嬉しそうにくるくると回る。その姿に、皆の顔がほころんだ。

 食料備蓄も着々と進んでいた。燻製肉の他に、アキオはキノコや食べられる根菜を薄くスライスし、晴れた日に小屋の軒先で乾燥させる方法を子供たちに教えた。干し野菜は軽く、保存も効く。
 アルトは、罠を仕掛ける場所の選定で才能を発揮し始めていた。獣の通り道や習性をアキオから教わり、自分なりに工夫を凝らした結果、以前よりも獲物がかかる確率が上がったのだ。
 ミコもまた、その小さな体で大きな貢献をしていた。彼女は、以前村の薬草売りの老婆から聞いた話を頼りに、毒キノコと食用キノコを驚くほど正確に見分けることができた。もちろん、最終的な判断はアキオが慎重に行ったが、ミコの知識は食料採集の効率を上げるのに大いに役立った。

 夕方、作業を終えたアキオと子供たちは、積み上げられた薪の山と、隙間風の減った小屋、そして自分たちの手で作ったささやかな防寒具を眺めた。
「これだけあれば、今年の冬はなんとかなりそうだな、アキオさん」
 アルトが、誇らしげに言う。
 アキオは頷き、「ああ。だが、油断は禁物だ。冬の森は厳しいからな」と付け加えることを忘れなかった。
 その夜、いつもより暖かい小屋の中で、アヤネがアキオの服の小さな綻びを、昼間作った骨針と植物の糸で丁寧に繕っていた。
「アキオさん、いつも私たちのことばかりだから……少しでも、ね」
「……ああ。ありがとう、アヤネ」
 アキオは、少し照れくさそうに、だが心からの感謝を込めて言った。アヤネの頬が、焚き火の光を受けてほんのりと赤く染まっているように見えた。
 冬の足音はすぐそこまで迫っていたが、彼らの心には、確かな温もりと、共に困難を乗り越えてきたという自信が満ち始めていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

家ごと異世界ライフ

もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...