7 / 400
第7話:白銀の世界と小屋の灯火
しおりを挟む
森の木々が最後の葉を落とし、灰色の枝だけが空に突き出すようになった頃、それはやってきた。最初はちらちらと舞う白い欠片だったものが、一夜にして世界を白銀に塗り替えたのだ。
「わぁ……雪だ!」
朝、小屋の扉をそっと開けたケンタが、歓声を上げた。ユメやミコも、生まれて初めて見るような本格的な雪景色に目を輝かせ、おそるおそる外に出ては、手のひらに舞い落ちる雪の冷たさに小さく声を上げる。アヤネやアルトも、しばしその幻想的な光景に見入っていた。
アキオはそんな子供たちの様子を微笑ましく見守りつつも、これから始まるであろう冬の厳しさに内心で気を引き締めていた。
雪は数日降り続き、森はすっかり深い雪に覆われた。こうなると、日々の食料調達も格段に難しくなる。仕掛けた罠は雪に埋もれてしまい、獣の足跡も見つけにくい。薪の追加も、雪をかき分けて森の奥まで入らねばならず、危険が伴う。
「いいか、雪の中を歩くときは、絶対に一人で行くんじゃない。それに、自分の来た道をしっかり覚えておくんだ。吹雪になったら、あっという間に方向が分からなくなるからな」
アキオは、雪かきを手伝うアルトとケンタに、雪山での基本的な注意点を言い聞かせた。備蓄しておいた薪と食料のありがたみを、全員が改めて実感する日々だった。
日中の多くの時間を、暖炉の火が燃える小屋の中で過ごすようになった。退屈を持て余し始めるかと思われた子供たちだったが、アキオは彼らのためにささやかな学びの場を設けた。
「字が読めたり、数が数えられたりすると、何かと便利だぞ」
アキオは、平らな木の板に炭で簡単な文字(地球のひらがなや数字をこの世界の文字に見立てて)を書き、アヤネから順に読み方を教え始めた。アヤネはすぐに覚え、今ではミコやユメに絵本でも読むかのように、アキオが書いた文字を読んで聞かせている。アルトとケンタも、最初は面倒臭そうな顔をしていたが、アキオが狩りの記録や道具の数を数えるのに使うのを見て、少しずつ興味を持ち始めた。
また、アキオはナイフ一本で、木の端材から見事な動物の木彫りを作り上げ、子供たちを驚かせた。それは精巧なものではなかったが、温かみのある熊や兎の置物は、子供たちにとって何よりの宝物になった。
「アキオさん、すごい! これ、どうやって作るの?」
ケンタが目をキラキラさせながら尋ね、アキオは「まあ、長年木を扱ってりゃ、これくらいはな」と、少し得意げに作り方を教えてやるのだった。
そんな中、アヤネは台所仕事の合間に、以前アキオに教わった乾燥ハーブや木の実を使って、体の温まる飲み物を作って皆に振る舞った。ほんのり甘く、香りの良いその飲み物は、冷えた体を芯から温めてくれ、子供たちはもちろん、アキオにとっても何よりのご馳走だった。
ある夜、天候が荒れ、猛烈な吹雪が小屋を襲った。ゴーゴーと唸る風が小屋を激しく揺さぶり、壁のわずかな隙間からは粉雪が容赦なく吹き込んでくる。暖炉の火も心なしか弱々しく感じられ、子供たちは不安げな表情でアキオを見上げた。
「大丈夫だ、この家は俺がしっかり作った。そう簡単には壊れんよ」
アキオは努めて冷静に言い、子供たちを落ち着かせた。しかし、風の勢いは増すばかりで、屋根の一部がミシミシと嫌な音を立て始める。
「いかん、あそこが危ないかもしれん」
アキオはすぐさま立ち上がり、予備の毛皮や防水用に加工しておいた獣の皮、そして太い木の枝を手に、問題の箇所へと向かった。
「アキオさん、手伝います!」アルトが、そしてケンタもすぐにアキオの元へ駆け寄る。
「よし、アルトはその皮を押さえてろ。ケンタはそっちの枝を俺に渡してくれ!」
アキオの指示に従い、子供たちは必死に作業を手伝った。アヤネはミコとユメをしっかりと抱きしめ、不安を押し殺しながら男たちの作業を見守る。アキオが危険な場所に登ろうとすると、アヤネは「気をつけてください!」と声をかけ、彼の背中に自分の肩掛けをそっとかけ直した。
小一時間ほどの格闘の末、なんとか応急処置を施し、最悪の事態は免れた。外の風はまだ唸りを上げていたが、小屋の中は先ほどまでの危機感が嘘のように静まり返っている。
吹雪がようやく収まったのは、夜明け近くだった。真っ白な雪が全ての音を吸い込み、世界はしんと静まり返っている。小屋の中では、疲れて眠り込んだ子供たちが、互いに寄り添いながら穏やかな寝息を立てていた。
アキオは、暖炉に薪を一本くべながら、その寝顔一つ一つを順に見つめた。厳しい冬はまだ始まったばかりだ。これからも多くの困難が待ち受けているだろう。だが、この小さな小屋の中には、どんな吹雪にも負けない確かな温もりと、共に力を合わせれば乗り越えられるという静かな自信が満ちていた。
この灯火を、何としても守り抜かねばならない。アキオは、窓の外に広がる美しいながらも厳しい白銀の世界を眺めながら、改めて心に強く誓うのだった。
「わぁ……雪だ!」
朝、小屋の扉をそっと開けたケンタが、歓声を上げた。ユメやミコも、生まれて初めて見るような本格的な雪景色に目を輝かせ、おそるおそる外に出ては、手のひらに舞い落ちる雪の冷たさに小さく声を上げる。アヤネやアルトも、しばしその幻想的な光景に見入っていた。
アキオはそんな子供たちの様子を微笑ましく見守りつつも、これから始まるであろう冬の厳しさに内心で気を引き締めていた。
雪は数日降り続き、森はすっかり深い雪に覆われた。こうなると、日々の食料調達も格段に難しくなる。仕掛けた罠は雪に埋もれてしまい、獣の足跡も見つけにくい。薪の追加も、雪をかき分けて森の奥まで入らねばならず、危険が伴う。
「いいか、雪の中を歩くときは、絶対に一人で行くんじゃない。それに、自分の来た道をしっかり覚えておくんだ。吹雪になったら、あっという間に方向が分からなくなるからな」
アキオは、雪かきを手伝うアルトとケンタに、雪山での基本的な注意点を言い聞かせた。備蓄しておいた薪と食料のありがたみを、全員が改めて実感する日々だった。
日中の多くの時間を、暖炉の火が燃える小屋の中で過ごすようになった。退屈を持て余し始めるかと思われた子供たちだったが、アキオは彼らのためにささやかな学びの場を設けた。
「字が読めたり、数が数えられたりすると、何かと便利だぞ」
アキオは、平らな木の板に炭で簡単な文字(地球のひらがなや数字をこの世界の文字に見立てて)を書き、アヤネから順に読み方を教え始めた。アヤネはすぐに覚え、今ではミコやユメに絵本でも読むかのように、アキオが書いた文字を読んで聞かせている。アルトとケンタも、最初は面倒臭そうな顔をしていたが、アキオが狩りの記録や道具の数を数えるのに使うのを見て、少しずつ興味を持ち始めた。
また、アキオはナイフ一本で、木の端材から見事な動物の木彫りを作り上げ、子供たちを驚かせた。それは精巧なものではなかったが、温かみのある熊や兎の置物は、子供たちにとって何よりの宝物になった。
「アキオさん、すごい! これ、どうやって作るの?」
ケンタが目をキラキラさせながら尋ね、アキオは「まあ、長年木を扱ってりゃ、これくらいはな」と、少し得意げに作り方を教えてやるのだった。
そんな中、アヤネは台所仕事の合間に、以前アキオに教わった乾燥ハーブや木の実を使って、体の温まる飲み物を作って皆に振る舞った。ほんのり甘く、香りの良いその飲み物は、冷えた体を芯から温めてくれ、子供たちはもちろん、アキオにとっても何よりのご馳走だった。
ある夜、天候が荒れ、猛烈な吹雪が小屋を襲った。ゴーゴーと唸る風が小屋を激しく揺さぶり、壁のわずかな隙間からは粉雪が容赦なく吹き込んでくる。暖炉の火も心なしか弱々しく感じられ、子供たちは不安げな表情でアキオを見上げた。
「大丈夫だ、この家は俺がしっかり作った。そう簡単には壊れんよ」
アキオは努めて冷静に言い、子供たちを落ち着かせた。しかし、風の勢いは増すばかりで、屋根の一部がミシミシと嫌な音を立て始める。
「いかん、あそこが危ないかもしれん」
アキオはすぐさま立ち上がり、予備の毛皮や防水用に加工しておいた獣の皮、そして太い木の枝を手に、問題の箇所へと向かった。
「アキオさん、手伝います!」アルトが、そしてケンタもすぐにアキオの元へ駆け寄る。
「よし、アルトはその皮を押さえてろ。ケンタはそっちの枝を俺に渡してくれ!」
アキオの指示に従い、子供たちは必死に作業を手伝った。アヤネはミコとユメをしっかりと抱きしめ、不安を押し殺しながら男たちの作業を見守る。アキオが危険な場所に登ろうとすると、アヤネは「気をつけてください!」と声をかけ、彼の背中に自分の肩掛けをそっとかけ直した。
小一時間ほどの格闘の末、なんとか応急処置を施し、最悪の事態は免れた。外の風はまだ唸りを上げていたが、小屋の中は先ほどまでの危機感が嘘のように静まり返っている。
吹雪がようやく収まったのは、夜明け近くだった。真っ白な雪が全ての音を吸い込み、世界はしんと静まり返っている。小屋の中では、疲れて眠り込んだ子供たちが、互いに寄り添いながら穏やかな寝息を立てていた。
アキオは、暖炉に薪を一本くべながら、その寝顔一つ一つを順に見つめた。厳しい冬はまだ始まったばかりだ。これからも多くの困難が待ち受けているだろう。だが、この小さな小屋の中には、どんな吹雪にも負けない確かな温もりと、共に力を合わせれば乗り越えられるという静かな自信が満ちていた。
この灯火を、何としても守り抜かねばならない。アキオは、窓の外に広がる美しいながらも厳しい白銀の世界を眺めながら、改めて心に強く誓うのだった。
526
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
家ごと異世界ライフ
もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる