五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第10話:春の陽光と氷解の兆し

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 春の陽光が森の木々の若葉を照らし、地面には色とりどりの野花が咲き乱れる季節となった。アキオと子供たちは、冬の間に計画していた畑作りに精を出していた。小屋の近くの陽当たりの良い土地を、アキオが作った木の鍬で耕し、アヤネやアルトが畝を作る。ケンタやミコ、ユメも、小さな手で石を取り除いたり、アキオが見つけてきた食用可能な植物の種や芋の切れ端を植え付けたりと、一生懸命だ。

 その傍らで、アキオは数日に一度の習慣を続けていた。それは、森の奥、以前シルヴィアと出会った場所を訪れることだった。シルヴィアはあれ以来、なかなか姿を見せてはくれなかったが、アキオは諦めなかった。時には、アヤネが木の実の粉と貴重な蜂蜜(偶然、木の洞で見つけたものだ)で作った香りの良いパンを、またある時には、アキオが手の空いた時に彫った小さな木の鳥や動物を、そっと岩の上に置いて帰るのだった。
「シルヴィアさん、食べてくれるかなぁ」「この小鳥、気に入ってくれるといいな」
 子供たちも、アキオの行動を応援するように、そんな言葉を口にする。
 アキオが知らないところで、シルヴィアは彼が立ち去った後、茂みの陰からそっと現れ、置かれたものを見つめていた。特に、手のひらに乗るほどの小さな木の鳥は、彼女が長い間忘れていた何かを思い出させるかのように、複雑な輝きをその深緑の瞳に宿らせていた。そして、誰にも見られることなく、それを持ち帰るのだった。

 ある日、アキオが畑に使う栄養豊富な腐葉土を求めて、少し森の奥まった場所で作業をしていた時のことだ。ふと顔を上げると、数メートル先の大きな木の根元で、見たことのある人影が薬草を摘んでいた。シルヴィアだった。
「シルヴィアさん」
 アキオが声をかけると、シルヴィアは肩を小さく震わせたが、すぐにいつもの無表情に戻った。
「……またお前か。人間のしつこさには呆れるな」
 その声には、以前ほどの刺々しさはないように感じられた。
「この辺りの土は、作物を育てるのに良さそうだからな。ところでシルヴィアさん、もし迷惑でなければ、薬草のことをもう少し……」
 シルヴィアはため息をついたが、意外にもすぐに言葉を返してきた。
「そこの黄色い五枚の花弁を持つ草。あれは腹痛に効く。葉を揉んで、その汁を飲むといい。だが、根には強い毒があるから、絶対に間違えるな。それから、あちらの紫色の釣鐘状の花をつけるものは、切り傷の炎症を抑える。葉を潰して傷に貼るといい」
 ぶっきらぼうな口調ではあったが、シルヴィアは立て続けにいくつかの薬草の知識と、その注意点を教えてくれた。アキオが驚いて礼を言うと、彼女は「別に、お前のためではない。森の恵みを無知な人間に荒らされるのが気に入らないだけだ」とそっぽを向いたが、その尖った耳の先がほんの少し赤らんでいるのを、アキオは見逃さなかった。

 また別の日には、こんなこともあった。ミコとユメが、小屋からさほど遠くない森の縁で、夢中になって花を摘んでいた。ふと顔を上げたミコが、少し離れた木陰に立つシルヴィアの姿を見つけた。
「あ! 森のお姉ちゃんだ!」
 ユメもミコにつられてシルヴィアを見つけると、二人で「おねえちゃーん!」と手を振りながら、無邪気に駆け寄ろうとした。
 その瞬間、シルヴィアの表情が凍り付いたように見えた。子供たちの真っ直ぐな好意と呼びかけに、彼女は明らかに動揺し、戸惑いの色を浮かべている。そして、次の瞬間には、まるで幻だったかのようにその姿をくらましてしまった。
「あ……行っちゃった……」
 ミコとユメは、ぽかんとして立ち尽くし、しょんぼりと肩を落とした。

 その夜、アキオは子供たちにその話を聞き、シルヴィアの複雑な心境を思った。人間に対する不信感は根深い。しかし、アキオが置いていくささやかな贈り物を受け取り、薬草の知識を少しずつだが教えてくれるようになった。そして何より、子供たちの無邪気な呼びかけに、あれほど動揺する姿。彼女の心の奥底で、何かが変わり始めているのかもしれない。
「シルヴィアさんも、きっといつか一緒に遊んでくれるよ」
 アキオがそう言うと、ミコとユメの顔にぱっと笑顔が戻った。
 春の温かい日差しが、厚く閉ざされた氷を少しずつ溶かしていくように、いつか彼女の頑なな心にも、確かな温もりが届く日が来るかもしれない。アキオは、そう信じながら、日々の畑仕事と、シルヴィアとの細くも確かに紡がれ始めた絆を、大切に育んでいこうと改めて思うのだった。
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