五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第34話:告げられた真実と運命共同体の誓い

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 手作りの新しい衣服に身を包み、セレスティーナとレオノーラの表情には、アキオたちの小屋に来た当初には見られなかった穏やかさが少しずつ戻り始めていた。特にセレスティーナは、アヤネや子供たちと短い言葉を交わすようになり、時折、儚げながらも美しい笑みを浮かべることもあった。しかし、彼女たちの心の奥底には、依然として深い悲しみと未来への不安が横たわっていることを、アキオとシルヴィアは感じ取っていた。そして、その不安を少しでも取り除くために、そして真の信頼関係を築くために、いつまでも隠し事をしておくわけにはいかないと二人は考えていた。

 決行の日、アキオとシルヴィアは、子供たちがアルトに連れられて少し離れた小川へ水遊びに出かけたのを見計らい、それぞれレオノーラとセレスティーナに「大切なお話があります」と切り出した。

 離れの部屋では、シルヴィアがセレスティーナと静かに向き合っていた。窓から差し込む柔らかな木漏れ日が、セレスティーナの金色の髪をきらめかせている。
「セレスティーナ殿……いえ、本来のお呼び方でお呼びすべきか、迷うところですが……」
 シルヴィアは慎重に言葉を選びながら、先日アキオと共に森の奥で見たもの――無残に倒れていた護衛たちの亡骸、そしてその状況から判断して、アキオが下した苦渋の決断――姫君の死を偽装し、追っ手の目を欺くための偽りの墓標を立てたことを、静かに、しかし詳細に語り始めた。
 セレスティーナは、シルヴィアの言葉が進むにつれて、その美しい顔から血の気が引いていくのが分かった。忠臣たちの最期を改めて突きつけられ、その肩は小さく震え、大きな瞳からはらはらと涙がこぼれ落ちる。そして、アキオたちが自分たちのために、そこまで危険で、そして心の痛む偽装工作をしてくれたという事実に、衝撃と、感謝と、そして言いようのない申し訳なさで言葉を失った。
「あなたたちが……私たちのために……そんな……」
 シルヴィアは、嗚咽を漏らすセレスティーナの冷たくなった小さな手をそっと握りしめた。
「あなたとレオノーラ殿をお守りするため、そしてこのささやかながらも平穏な暮らしを守るために、アキオが、そして私もまた、最善と信じて下した決断でした。いずれ必ず、全ての真実をお伝えするつもりでおりました」
 セレスティーナは、シルヴィアの温かい手にすがるように、しばらくの間、静かに涙を流し続けた。そして、ようやく顔を上げると、震える声で「……ありがとう、ございます……シルヴィア様……アキオ様にも……何とお礼を申し上げれば……」と絞り出すのが精一杯だった。

 同時刻、小屋の外の木陰では、アキオがレオノーラと向き合っていた。レオノーラは、アキオから語られる偽装工作の一部始終を、騎士としての冷静さを保とうと努めながらも、厳しい表情で聞いていた。
 アキオが全てを語り終えると、レオノーラはしばし沈黙し、やがて深く息を吐いた。
「……アキオ殿。あなたの判断は……戦術的に見れば、おそらくは正しかったのだろう。姫様の御身の安全を一時的にでも確保するという意味においては……」
 その声には、主君の死を偽るという行為への騎士としての葛藤が滲んでいた。しかし、彼女は続けた。
「だが、それ以上に……我々のような見ず知らずの者のために、そこまでの危険を冒し、心を砕いてくださったあなたとシルヴィア殿の献身には……言葉もない。このレオノーラ、一命に代えてもこの御恩は忘れぬ」
 そう言うと、レオノーラはアキオの前に片膝をつき、騎士の礼をもって深く頭を下げた。アキオは慌てて彼女を立たせようとする。

 その後、アキオ、シルヴィア、そして少し落ち着きを取り戻したセレスティーナとレオノーラの四人は、離れの部屋で初めて真剣に向き合い、今後のことを話し合った。
 セレスティーナは、涙の跡が残る顔を上げ、震える声ながらも、ついに自分たちの本当の身分を明かした。
「アキオ様、シルヴィア様……私たちは、あなた方に偽りを申しておりました。私は……小国エルドリアの王女、セレスティーナ・エル・エルドリア。そしてこの者は、我が国の筆頭騎士であり、私のただ一人の守り手、レオノーラ・フォン・ヴァイスです」
 彼女たちが語ったのは、隣接する強大な軍事国家「ガルニア帝国」による突然の侵略、王都の陥落、そしてわずかな手勢と共に国境の森へと逃れてきたという、あまりにも過酷な現実だった。追っ手は、帝国の誇る精鋭部隊であり、その執拗な追跡から逃れるために、多くの忠臣たちが犠牲になったという。
 アキオとシルヴィアは、その壮絶な事実に改めて衝撃を受けつつも、セレスティーナとレオノーラがこれまで耐えてきた苦難に深く同情した。
「……そうでしたか。過酷な運命を背負ってこられたのですね」アキオが静かに言う。
「我々が施した偽装が、いつまでガルニア帝国の目を欺けるかは分からぬ。だが、今はここで力を蓄え、お二人の安全を確保することが最優先だ」シルヴィアも同意する。
 セレスティーナは、アキオとシルヴィアの力強い言葉に、再び瞳を潤ませた。「見ず知らずの私たちに、そこまで……本当に、ありがとうございます」
「もはや見ず知らずではないでしょう、セレスティーナ様。我々は、この森で共に生きる家族のようなものですから」アキオが穏やかに微笑むと、レオノーラも固く強張っていた表情をわずかに緩めた。

 重大な秘密が共有され、アキオたちとセレスティーナ、レオノーラの間に、ただの保護者と被保護者という関係を超えた、運命共同体としての強い絆が生まれた瞬間だった。彼女たちの本当の身分と、強大な帝国の追っ手という存在が明らかになったことで、アキオたちの森の生活は、もはや単なるスローライフではなく、愛する者たちを守り抜くための、知恵と工夫、そして覚悟を要する新たな局面へと突入していた。
 まずは、彼女たちが心身共に完全に回復し、安心して暮らせる環境を整えること。そして、いざという時に備え、小屋の防衛力を強化し、さらなる食料や物資を備蓄することが急務となるだろう。
 アキオの鉄作りへの挑戦は、この新たな状況下で、平和な生活を守るための道具を生み出すという、さらに切実で重要な意味を持つことになったのだった。
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