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第89話:水車の恵み、衣食住への新たな挑戦
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アキオたちの町では、水力製材所の稼働により、建築ラッシュが始まっていた。森の主から贈られた豊富な材木が、力強い水車の歯音と共に次々と板や柱へと加工され、アルトとケンタの新しい家の基礎工事、セレスティーナの学び舎の拡張、そして増え続ける避難民たちのための集合住宅の建設が、村人たちの手によって活気よく進められていた。その槌音は、町の未来を力強く刻む音のように響き渡っていた。
そんな中、アキオの第一夫人であるアヤネが、ある日、真剣な面持ちでアキオに相談を持ちかけた。
「アキオ様、水力製材所ができて、本当に助かっております。ですが…あの素晴らしい水車の力を、製材だけでなく、私たちの食生活にも活かすことはできないでしょうか?」
彼女が指差したのは、村の女性たちが交代で懸命に回している手挽きの石臼だった。
「パンや団子、そして粥などを作るための粉挽き作業は、今も村の女性たちの大きな負担となっております。もし、水車の力で大きな石臼を回すことができれば、もっとたくさんの粉を、もっと楽に作ることができるはずです。そうなれば、食事の準備も楽になり、子供たちにもっと栄養のあるものをたくさん食べさせてあげられますわ」
アヤネの言葉には、日々の家事を預かる者としての切実な願いと、村全体の食生活を向上させたいという強い想いが込められていた。
アキオも、製粉の機械化は以前から考えていた重要な課題の一つだった。
「アヤネ、よくぞ言ってくれた。その通りだ。水車の動力は、製粉にも必ず活かせる。早速ドルガン殿に相談して、製材機とは別に、水力式の製粉機の設計を検討しよう。石臼の改良も必要になるかもしれないな」
アキオの言葉に、アヤネの顔がぱっと明るくなった。
一方で、村の人口増加は、新たな課題も生んでいた。それは、衣類の不足である。特に、着の身着のままで逃れてきた避難民たちの多くは、満足な衣服を持っていなかった。
「シルヴィア様、セレスティーナ様。村の皆の衣服についてですが、現状の生産体制では、とても追いつきそうにありません。何か良い対策はないでしょうか」
アヤネが、中央館の女性たちの集まりで問題を提起する。
現在の村の衣料は、イラクサに似た植物の繊維や、一部の木の皮を加工したもの、そして獣の毛皮などが主だったが、それらを糸にし、布を織る作業は大変な手間と時間がかかっていた。
「地球では、『綿(コットン)』という植物から採れる繊維や、『羊毛(ウール)』といった家畜の毛が主な衣料だったんだが…この世界でそれらが手に入るかは分からないな」アキオも、自身の知識を共有しつつ頭を悩ませる。
シルヴィアは、「森の中には、まだ私たちが知らないだけで、良質な繊維を取れる植物があるかもしれません。聖霊様なら、何かご存知かもしれませんわね」と、村に滞在中の聖霊に期待を寄せた。
ひとまずは、既存の素材の効率的な利用法を探ると共に、村人総出での糸紡ぎや機織りの分担作業、そして簡易的な紡績機や織機の改良を、ドルガンやアキオに依頼することになった。
そんな話し合いがなされていた矢先、アキオにとって、そして村の食文化にとって、予期せぬ大きな希望の光がもたらされた。
最近保護された避難民の中に、故郷から戦火を逃れる際、先祖代々受け継いできたという数種類の豆の種を、お守りのように大切に持ってきた老婆がいたのだ。彼女は、シルヴィアの薬草園の手伝いをする中で、その種をアキオに見せた。
アキオは、その中の一つの豆を見た瞬間、目を丸くし、そして次の瞬間、歓喜の声を上げた。
「こ、これは…! 間違いない! この形、この色艶…もしかして、これは『大豆』じゃないか!?」
それは、アキオの故郷、日本では馴染み深い、丸くて少し黄色がかった、あの豆だった。
「大豆…? アキオ様、それはどのような豆なのでしょう?」アヤネがきょとんとして尋ねる。
アキオは、興奮を抑えきれない様子で、シルヴィアや妻たち、そしてその場にいた村人たちに、大豆の素晴らしさを熱く語り始めた。
「大豆はな、畑の肉と言われるほど栄養価が高くて、そのまま煮て食べるのはもちろん、豆腐や味噌、醤油、納豆…ああ、それにきな粉も作れる! この豆があれば、俺たちの食生活は、革命的に豊かになるんだぞ!」
味噌や醤油という、アキオが夢にまで見た故郷の調味料が作れるかもしれない。その可能性に、アキオの心は躍った。
「すぐにでも、この種を蒔いて育ててみよう! シルヴィア、アヤネ、頼む! この豆を、この村でたくさん収穫できるように、知恵と力を貸してくれ!」
アキオの熱意に、皆もまた、新たな食材への期待に胸を膨らませる。
製粉所の計画、衣類問題への対策、そして「大豆」という奇跡の発見。アキオたちの町では、水車の完成を一つの契機として、人々の暮らしをより豊かに、そしてより文化的なものへと進化させるための、新たな挑戦が始まろうとしていた。その道のりは決して平坦ではないだろうが、そこには確かな希望と、創造の喜びが満ち溢れていた。
そんな中、アキオの第一夫人であるアヤネが、ある日、真剣な面持ちでアキオに相談を持ちかけた。
「アキオ様、水力製材所ができて、本当に助かっております。ですが…あの素晴らしい水車の力を、製材だけでなく、私たちの食生活にも活かすことはできないでしょうか?」
彼女が指差したのは、村の女性たちが交代で懸命に回している手挽きの石臼だった。
「パンや団子、そして粥などを作るための粉挽き作業は、今も村の女性たちの大きな負担となっております。もし、水車の力で大きな石臼を回すことができれば、もっとたくさんの粉を、もっと楽に作ることができるはずです。そうなれば、食事の準備も楽になり、子供たちにもっと栄養のあるものをたくさん食べさせてあげられますわ」
アヤネの言葉には、日々の家事を預かる者としての切実な願いと、村全体の食生活を向上させたいという強い想いが込められていた。
アキオも、製粉の機械化は以前から考えていた重要な課題の一つだった。
「アヤネ、よくぞ言ってくれた。その通りだ。水車の動力は、製粉にも必ず活かせる。早速ドルガン殿に相談して、製材機とは別に、水力式の製粉機の設計を検討しよう。石臼の改良も必要になるかもしれないな」
アキオの言葉に、アヤネの顔がぱっと明るくなった。
一方で、村の人口増加は、新たな課題も生んでいた。それは、衣類の不足である。特に、着の身着のままで逃れてきた避難民たちの多くは、満足な衣服を持っていなかった。
「シルヴィア様、セレスティーナ様。村の皆の衣服についてですが、現状の生産体制では、とても追いつきそうにありません。何か良い対策はないでしょうか」
アヤネが、中央館の女性たちの集まりで問題を提起する。
現在の村の衣料は、イラクサに似た植物の繊維や、一部の木の皮を加工したもの、そして獣の毛皮などが主だったが、それらを糸にし、布を織る作業は大変な手間と時間がかかっていた。
「地球では、『綿(コットン)』という植物から採れる繊維や、『羊毛(ウール)』といった家畜の毛が主な衣料だったんだが…この世界でそれらが手に入るかは分からないな」アキオも、自身の知識を共有しつつ頭を悩ませる。
シルヴィアは、「森の中には、まだ私たちが知らないだけで、良質な繊維を取れる植物があるかもしれません。聖霊様なら、何かご存知かもしれませんわね」と、村に滞在中の聖霊に期待を寄せた。
ひとまずは、既存の素材の効率的な利用法を探ると共に、村人総出での糸紡ぎや機織りの分担作業、そして簡易的な紡績機や織機の改良を、ドルガンやアキオに依頼することになった。
そんな話し合いがなされていた矢先、アキオにとって、そして村の食文化にとって、予期せぬ大きな希望の光がもたらされた。
最近保護された避難民の中に、故郷から戦火を逃れる際、先祖代々受け継いできたという数種類の豆の種を、お守りのように大切に持ってきた老婆がいたのだ。彼女は、シルヴィアの薬草園の手伝いをする中で、その種をアキオに見せた。
アキオは、その中の一つの豆を見た瞬間、目を丸くし、そして次の瞬間、歓喜の声を上げた。
「こ、これは…! 間違いない! この形、この色艶…もしかして、これは『大豆』じゃないか!?」
それは、アキオの故郷、日本では馴染み深い、丸くて少し黄色がかった、あの豆だった。
「大豆…? アキオ様、それはどのような豆なのでしょう?」アヤネがきょとんとして尋ねる。
アキオは、興奮を抑えきれない様子で、シルヴィアや妻たち、そしてその場にいた村人たちに、大豆の素晴らしさを熱く語り始めた。
「大豆はな、畑の肉と言われるほど栄養価が高くて、そのまま煮て食べるのはもちろん、豆腐や味噌、醤油、納豆…ああ、それにきな粉も作れる! この豆があれば、俺たちの食生活は、革命的に豊かになるんだぞ!」
味噌や醤油という、アキオが夢にまで見た故郷の調味料が作れるかもしれない。その可能性に、アキオの心は躍った。
「すぐにでも、この種を蒔いて育ててみよう! シルヴィア、アヤネ、頼む! この豆を、この村でたくさん収穫できるように、知恵と力を貸してくれ!」
アキオの熱意に、皆もまた、新たな食材への期待に胸を膨らませる。
製粉所の計画、衣類問題への対策、そして「大豆」という奇跡の発見。アキオたちの町では、水車の完成を一つの契機として、人々の暮らしをより豊かに、そしてより文化的なものへと進化させるための、新たな挑戦が始まろうとしていた。その道のりは決して平坦ではないだろうが、そこには確かな希望と、創造の喜びが満ち溢れていた。
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