五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
112 / 387

第112話:神狼の血脈と豊穣の萌芽

しおりを挟む
 アキオの妻たちが新たなる覚醒を遂げてから、ひと月ほどの時が流れた。町は生命樹の柔らかな光に包まれ、初冬の寒さをものともしない活気に満ちている。

 前半は、そんなアキオの町の穏やかな発展の様子から始まった。
「生命樹の若葉園」では、アヤネやセレスティーナ、そして経験豊かな母親たちが、甲斐甲斐しく子供たちの世話をしていた。特にアヤネの周りでは、乳飲み子たちが不思議とすぐに機嫌を直し、健やかな寝息を立てることが多い。彼女自身はまだその変化の正体に気づいていないが、その場にいるだけで生命を育む優しいオーラが周囲に満ちているかのようだった。
 食卓も豊かになった。アキオが故郷を懐かしんで教えた「味噌」や「醤油」と呼ばれる新しい調味料も、村の食卓に定着した。アキオ曰く「本場の味とは少し違うが、これはこれで美味い」とのことで、それらは主にシチューの隠し味や干し肉の下味として使われ、村人たちの食生活に深みを与えていた。
 特に、ドルガンの工房で作られた新しい石臼で挽いた大豆から作る熱々の湯豆腐は、寒い季節のご馳走として皆に愛されている。シルヴィアや薬師見習いのミコは、生命樹の実の薬効や保存方法について、アウロラから助言を受けながら研究を進めていた。まだ少量しか採れない貴重な実だが、いつか町の全ての子供たちを守る力になるかもしれないという希望が、彼女たちの研究の大きなモチベーションとなっていた。
 また、先日領主への報告に帰った探索隊のリーダーからは、近々領主本人が感謝の意を伝えに町を訪れたいとの連絡が、鳥を使って届けられていた。アキオたちは、その来訪に備え、町のさらなる整備や、もてなしの準備を少しずつ始めているところだった。

 そんな日々の営みの中、キナの変化は特に目覚ましかった。
「神狼の血脈」に覚醒した彼女は、その有り余る力を隠そうともせず、むしろ生き生きと発揮していた。森での狩りでは、以前にも増して獲物の気配を鋭敏に察知し、その俊敏な動きは目で追うのがやっとのほど。仕留めた獲物も、一人で軽々と担いで帰ってくる。リクを背負いながら家畜の世話をする姿も、以前よりさらにパワフルで、周囲の村人たちを驚かせ、そして笑顔にさせていた。
 感情が高ぶると、その美しい赤銅色の髪が一瞬燃えるように輝きを増し、狼の耳や尻尾の動きも、より感情豊かになったように見える。彼女自身、この新たな力に戸惑うよりも先に、全身でその高揚感を楽しんでいるかのようだった。

 その夜、リクが満足げな寝息を立てた後、キナはアキオの寝室へと飛び込んできた。その勢いは普段通りだが、アキオを見つめる黄金色の瞳には、普段の快活さに加えて、どこか獣の本能を剥き出しにしたような、抗いがたいほどの熱っぽさが宿っている。
「だんなっ! 今日のあたし、なんかすごいんだぜ!」
 キナはそう言うと、アキオに抱きつき、その身体を強く擦り付けてきた。その肌からは、野生の獣のような、しかし決して不快ではない、生命力に満ちた熱気が伝わってくる。
「お、おう、キナ。今日の狩りも大物だったみたいだな」
 アキオは、彼女のあまりの勢いに少し戸惑いつつも、その熱情をしっかりと受け止めた。
「それだけじゃねえんだ! なんか、身体の奥から力が湧いてきて、だんなのこと考えると、胸がドキドキして、ぎゅーってしたくてたまらなくなるんだ!」
 キナの言葉は飾り気がなく、ストレートだ。覚醒した神狼の血は、彼女のアキオへの愛情を、より本能的で、より強烈なものへと変えているのかもしれない。
「だんな…あたし、もっと強くなった。だから、だんなとの子も、もっと強くて元気な子が産める気がするんだ! 今夜は…あたしの全部で、だんなをめちゃくちゃにしてやるからな!」
 そう宣言すると、キナはまるで獲物に飛びかかる狼のように、アキオに覆いかぶさった。その動きはしなやかで力強く、そしてどこまでも官能的だった。研ぎ澄まされた五感はアキオの僅かな反応も見逃さず、神狼の血脈に目覚めた本能は、どうすればアキオが最も喜ぶかを的確に捉えているかのようだった。
 アキオは、そんなキナの野生的なまでの愛情表現に、なすすべもなく翻弄された。それは、シルヴィアとのハイエルフとしての深く芳醇な交わりとはまた違う、もっと原始的で、生命の根源を揺さぶるような、激しくも心地よい快楽の嵐。
 キナの熱い吐息、力強い抱擁、そして時折漏れる甘い獣のような鳴き声。その全てが、アキオの理性を溶かし、本能を呼び覚ます。
 アキオもまた、彼女の求めるままに、そして自らの内に眠る野生を解き放つかのように、キナと深く、激しく求め合った。それは、ただの子作りのためだけではない。互いの生命そのものをぶつけ合い、魂の奥底で共鳴し合うような、神聖な獣たちの交わりのようでもあった。

 どれほどの時間が経ったのか。やがて嵐が過ぎ去ったように、二人は互いの体温を感じながら、荒い息を整えていた。キナの額には汗が光り、その表情は満足感と、そして深い愛情に満ち足りていた。
「だんな…すごかったろ…?」
「ああ…キナ、お前は本当に…すごい女だ…」
 アキオは、愛おしそうにキナの頭を撫でた。神狼の血脈は、彼女をより強く、より魅力的な存在へと変えた。そして、その絆は、アキオとの間に、また新しい生命の誕生を予感させるに十分なものだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

書道が『神級』に昇格!?女神の失敗で異世界転移して竜皇女と商売してたら勇者!聖女!魔王!「次々と現れるので対応してたら世界を救ってました」

銀塊 メウ
ファンタジー
書道が大好き(強制)なごくごく普通の 一般高校生真田蒼字、しかし実際は家の 関係で、幽霊や妖怪を倒す陰陽師的な仕事 を裏でしていた。ある日のこと学校を 出たら目の前は薄暗い檻の中なんじゃ こりゃーと思っていると、女神(駄)が 現れ異世界に転移されていた。魔王を 倒してほしんですか?いえ違います。 失敗しちゃった。テヘ!ふざけんな! さっさと元の世界に帰せ‼ これは運悪く異世界に飛ばされた青年が 仲間のリル、レイチェルと楽しくほのぼの と商売をして暮らしているところで、 様々な事件に巻き込まれながらも、この 世界に来て手に入れたスキル『書道神級』 の力で無双し敵をバッタバッタと倒し 解決していく中で、魔王と勇者達の戦いに 巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、 時には面白く敵を倒して(笑える)いつの 間にか世界を救う話です。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...