五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
130 / 387

第130話:神狼の娘、キナの出産と家族の祝福

しおりを挟む
 アキオの町に本格的な冬が訪れ、雪がしんしんと降り積もる日が増えてきた。しかし、中央館の中は、多くの妊婦たちと、彼女たちを支える家族の温もり、そして新しい命への期待で、寒さを感じさせないほどの熱気に満ちていた。

 その日、アキオ家の妊婦たちの中で、最初にその時を迎えたのはキナだった。獣人である彼女の妊娠期間は、人間やエルフよりも短いと聞いていたが、まさにその言葉通り、他の妊婦たちよりも一足早く産気づいたのだ。
「だ、だんなぁ…! きた…みてえだ…!」
 朝食を終えた直後、キナが苦しげながらもどこか嬉しそうな顔でアキオに訴えかけてきた。その言葉に、アキオは一瞬で緊張し、しかしすぐに落ち着いて指示を飛ばす。
「マーサさんを! それからシルヴィアとアウロラにも伝えてくれ!」
 中央館はにわかに慌ただしくなったが、度重なる出産経験と、アウロラという心強い存在もあって、皆落ち着いて準備を進めていく。キナは、出産のために用意された清潔な部屋へと運ばれ、マーサ、シルヴィア、そしてアウロラが付き添った。アキオもまた、キナの手を固く握り、彼女を励まし続ける。

 キナの出産は、彼女の性格をそのまま映したかのように、力強く、そして生命力に溢れたものだった。「神狼の血脈」に覚醒した彼女の身体は、常人離れした強靭さを秘めており、陣痛の苦しみにも「ぐっ…だんなの子なら、こんなもんじゃ負けねえ!」と歯を食いしばって耐え抜く。
 マーサの的確な指示、シルヴィアの調合した痛みを和らげる薬湯、そしてアウロラの聖なる力による穏やかな励まし。それらがキナを支え、アキオはただひたすら彼女の手を握り、愛と励ましの言葉を送り続けた。

 そして、昼下がり。部屋中に、力強い産声が響き渡った。
「おぎゃあ! おぎゃああっ!」
 それは、先に出産した他の赤ん坊たちの誰よりも大きく、元気な声だった。
「おめでとうございます、村長様、キナ様! とってもお元気な…可愛らしい女の子ですよ!」
 マーサが、湯で清められた赤ん坊を柔らかな布で包み、キナの胸元へと運んだ。
 キナは、汗だくになりながらも、満面の笑みでその小さな命を抱きしめた。赤ん坊は、キナ譲りの赤銅色の髪を僅かに生やし、ぴくぴくと動く小さな狼の耳と尻尾を持っていた。そして、ぱっちりと開かれた瞳は、アキオによく似た力強い光を宿している。
「へへ…やったぜ、だんな…! 女の子だ! リクの妹ができたぞ!」
「ああ、キナ…! 本当によく頑張ったな…! ありがとう…!」
 アキオは、キナと、そして生まれたばかりの娘を、まとめて力強く抱きしめた。これでアキオ家には、アルス、リク、エルザ、ステラに続く、五人目の赤ん坊が誕生したことになる。そして、キナにとって二人目の子供であり、リクとは違う性別の女の子だった。

 赤ん坊は、シルヴィアやアウロラによって改めて身体を清められ、健康状態も申し分ないことが確認された。アキオは、その小さな娘を抱き上げ、感慨深げにその寝顔を見つめる。
「名前は…考えていたのか?」
「おう! もし女の子だったらって、だんなと話してたやつだ! 『ルナ』ってどうだ? 月みたいに綺麗で、狼にとっても特別な響きだろ?」
 キナの提案に、アキオは優しく頷いた。「ルナ…良い名前だ。月の女神のように、美しく、そして強く育ってくれるだろう」
 こうして、神狼の血を引く少女、ルナがアキオ家に新たに加わった。

 キナの無事な出産とルナの誕生は、すぐに町中に広まり、中央館は再び祝福ムードに包まれた。リクも、母親の隣ですやすやと眠る小さな妹の存在に興味津々で、おそるおそるその小さな手に自分の指を触れさせていた。
 アヤネのお腹も、もういつ生まれてもおかしくないほどに大きくなっている。彼女は、キナとルナの姿を微笑ましく見つめながら、自身の出産への期待と、ほんの少しの不安を胸に、その時を待っていた。
 セレスティーナ様とレオノーラ様のお腹の子供たちもまた順調に育っており、アキオ家のベビーラッシュは、まだまだクライマックスを迎えようとしていた。

 そして、そんな賑やかな中央館の片隅では、ユメが、これらの新しい命の誕生の奇跡と、家族の喜びの光景を、その大きな瞳に静かに焼き付けていた。彼女の15歳の誕生日、そして成人を迎える日もまた、すぐそこまで近づいてきているのだった。

 アキオは、次々と生まれてくる新しい命と、愛する妻たち、そして成長していく子供たちに囲まれ、この上ない幸福を噛み締めると同時に、この大切な家族と町を守り抜き、さらに豊かにしていくという決意を、冬の澄んだ空に改めて誓うのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活

怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。 スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。 何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、 優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、 俺は必死に、置いていかれないようについていった。 自分には何もできないと思っていた。 それでも、少しでも役に立ちたくて、 誰にも迷惑をかけないようにと、 夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。 仲間を護れるなら… そう思って使った支援魔法や探知魔法も、 気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。 だけどある日、告げられた。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、優しさからの判断だった。 俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。 こうして俺は、静かにパーティを離れた。 これからは一人で、穏やかに生きていこう。 そう思っていたし、そのはずだった。 …だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、 また少し、世界が騒がしくなってきたようです。 ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

処理中です...