177 / 400
第177話:大地の母、そして神狼の甘え
しおりを挟む
荒くれ共の引き渡しまで、あと二日。アキオは、三人の妻たちとの温かい時間を経て、残すはキナとの一日となった。この日は、町の守護者とも言える聖獣の子供たちとの交流を通して、大地の力、そしてこの聖域の根源的な力を再確認する日にしようと考える。
アキオは、キナがよく聖獣の子供たちと過ごしている、町の外れの開けた場所へ向かう。そこでは、すでにキナが、以前よりも随分と成長した3体の聖獣の子たち――三匹とも同じ、銀色の毛並みで額に角を持つ、中型犬ほどの大きさの獣――と一緒にいた。
今日は特別に、町の子供たちがキナの許可を得て、聖獣の子供たちと触れ合っている。最初は恐る恐る近づいていた子供たちも、キナや聖獣の子供たちの優しい眼差しに安心し、楽しそうに戯れている。
「ほら、怖くねえよ。こいつらは、この町を守ってくれる優しい奴らだ。そっと、撫でてやんな」
キナがそう言って促すと、おずおずと伸ばされた子供の小さな手を、聖獣の一匹が、その大きな頭を優しくこすりつけるようにして受け止めた。
「わあ…!」
子供の顔に、ぱっと笑顔が咲く。キナは、別の体格の良い聖獣の背に、小さな子供をそっと乗せてやった。子供は、生まれて初めての体験に、怖さと嬉しさで奇声に近い歓声を上げる。その光景は、まさにこの聖域ならではの、人間と聖獣が共存する平和な象徴だ。キナは、猛々しい狩人であると同時に、全ての命を育む、この聖域の「大地の母」でもあった。アキオは、そんな彼女の姿を、深い愛情と誇らしさをもって見つめていた。
その日の夜。アキオは、シルヴィアの私室で、訪ねてきたキナと二人きりの時間を過ごしていた。
日中の、多くの子供や聖獣たちを率いる、頼もしい「ボス」としての雰囲気は、そこにはなかった。キナは、アキオの隣にちょこんと座ると、おもむろに、その服の裾を指でいじりながら、上目遣いでアキオを見上げた。
「…だんな。今日もお疲れさん」
その声は、いつもよりずっとか細く、どこか恥じらいを帯びている。
「ああ。キナこそ、子供たちの面倒、ありがとうな」
「…うん。…あのさ、だんな…」
「ん?」
「……今夜は…その……ずっと、わがまま、言ってもいいか…?」
普段、決して甘えることのない彼女からの、珍しい申し出。アキオは、彼女がこれから始まる試練を前に、自分なりの方法で不安と戦い、そして夫に心の繋がりを求めていることを瞬時に悟った。
「もちろんだ。今夜は、お前だけの、だんなだからな」
アキオがそう言って優しく頭を撫でてやると、キナの瞳からは、ぽろり、と大粒の涙がこぼれ落ちた。彼女は、アキオの胸に顔をうずめると、子供のように、しかし静かにしゃくり上げた。
「だんな…あたし…本当は、ちょっと怖いんだ。明日、悪い奴らがたくさん来るんだろ…? だんなや、皆に、何かあったらどうしようって…」
アキオは、そんな彼女の小さな背中を、ただ黙って、優しくさすり続けた。
その夜の二人の交わりは、キナが主導するいつものような、野生的な激しいものではなかった。彼女は、ただひたすらにアキオの温もりを求め、その腕の中で、守られることの安心感を確かめるように、甘く、そしてか細い声を漏らす。アキオもまた、そんな彼女の珍しい弱さと、自分にだけ見せてくれるいじらしいまでの純粋な愛情に応えるように、どこまでも優しく、そして丁寧に、彼女の全てを慈しんだ。それは、この町の「大地の母」が、一人の愛される「女」に戻る、二人だけの特別な夜だった。
やがて、キナが満ち足りた表情で穏やかな寝息を立て始めると、アキオは、その愛しい寝顔を見つめながら、決意を新たにした。
シルヴィアの知性、アウロラの神聖、アヤネの母性、そして、キナの強さと、その裏にあるこの純粋な愛情。この全てを守るためならば、俺はどんな困難にも立ち向かえる。
荒くれ共の引き渡しは、明日。アキオの心は、四人の妻たちとの絆によって、完全に整っていた。
アキオは、キナがよく聖獣の子供たちと過ごしている、町の外れの開けた場所へ向かう。そこでは、すでにキナが、以前よりも随分と成長した3体の聖獣の子たち――三匹とも同じ、銀色の毛並みで額に角を持つ、中型犬ほどの大きさの獣――と一緒にいた。
今日は特別に、町の子供たちがキナの許可を得て、聖獣の子供たちと触れ合っている。最初は恐る恐る近づいていた子供たちも、キナや聖獣の子供たちの優しい眼差しに安心し、楽しそうに戯れている。
「ほら、怖くねえよ。こいつらは、この町を守ってくれる優しい奴らだ。そっと、撫でてやんな」
キナがそう言って促すと、おずおずと伸ばされた子供の小さな手を、聖獣の一匹が、その大きな頭を優しくこすりつけるようにして受け止めた。
「わあ…!」
子供の顔に、ぱっと笑顔が咲く。キナは、別の体格の良い聖獣の背に、小さな子供をそっと乗せてやった。子供は、生まれて初めての体験に、怖さと嬉しさで奇声に近い歓声を上げる。その光景は、まさにこの聖域ならではの、人間と聖獣が共存する平和な象徴だ。キナは、猛々しい狩人であると同時に、全ての命を育む、この聖域の「大地の母」でもあった。アキオは、そんな彼女の姿を、深い愛情と誇らしさをもって見つめていた。
その日の夜。アキオは、シルヴィアの私室で、訪ねてきたキナと二人きりの時間を過ごしていた。
日中の、多くの子供や聖獣たちを率いる、頼もしい「ボス」としての雰囲気は、そこにはなかった。キナは、アキオの隣にちょこんと座ると、おもむろに、その服の裾を指でいじりながら、上目遣いでアキオを見上げた。
「…だんな。今日もお疲れさん」
その声は、いつもよりずっとか細く、どこか恥じらいを帯びている。
「ああ。キナこそ、子供たちの面倒、ありがとうな」
「…うん。…あのさ、だんな…」
「ん?」
「……今夜は…その……ずっと、わがまま、言ってもいいか…?」
普段、決して甘えることのない彼女からの、珍しい申し出。アキオは、彼女がこれから始まる試練を前に、自分なりの方法で不安と戦い、そして夫に心の繋がりを求めていることを瞬時に悟った。
「もちろんだ。今夜は、お前だけの、だんなだからな」
アキオがそう言って優しく頭を撫でてやると、キナの瞳からは、ぽろり、と大粒の涙がこぼれ落ちた。彼女は、アキオの胸に顔をうずめると、子供のように、しかし静かにしゃくり上げた。
「だんな…あたし…本当は、ちょっと怖いんだ。明日、悪い奴らがたくさん来るんだろ…? だんなや、皆に、何かあったらどうしようって…」
アキオは、そんな彼女の小さな背中を、ただ黙って、優しくさすり続けた。
その夜の二人の交わりは、キナが主導するいつものような、野生的な激しいものではなかった。彼女は、ただひたすらにアキオの温もりを求め、その腕の中で、守られることの安心感を確かめるように、甘く、そしてか細い声を漏らす。アキオもまた、そんな彼女の珍しい弱さと、自分にだけ見せてくれるいじらしいまでの純粋な愛情に応えるように、どこまでも優しく、そして丁寧に、彼女の全てを慈しんだ。それは、この町の「大地の母」が、一人の愛される「女」に戻る、二人だけの特別な夜だった。
やがて、キナが満ち足りた表情で穏やかな寝息を立て始めると、アキオは、その愛しい寝顔を見つめながら、決意を新たにした。
シルヴィアの知性、アウロラの神聖、アヤネの母性、そして、キナの強さと、その裏にあるこの純粋な愛情。この全てを守るためならば、俺はどんな困難にも立ち向かえる。
荒くれ共の引き渡しは、明日。アキオの心は、四人の妻たちとの絆によって、完全に整っていた。
56
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
家ごと異世界ライフ
もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる