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第190話:聖域の使者、派遣団の編成
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アウロラが放った、常識を遥かに超える提案――「聖域の移植」という言葉が、中央館の集会室に静かな、しかし大きな衝撃となって響き渡った。エルドリアの地に、このアキオの町の祝福そのものを運ぶ。その壮大すぎる構想に、その場にいた誰もが、ただ息をのむばかりだった。
「聖域を…創造する、ですって…? アウロラ様、そのようなことが、本当に可能なのですか?」
最初に声を発したのは、アヤネだった。その瞳には、畏敬と、そして信じられないという思いが浮かんでいる。
「ええ、アヤネ。アキオの『生命の祝福』の力と、シルヴィアの森の叡智、そしてわらわのこの聖なる力が合わされば、不可能ではありません。かつてこの地に生命樹を根付かせたように、エルドリアの地に『小さな聖域』を創り出し、その大地を浄化し、祝福で満たすのです。そうすれば、セレスティーナとレオノーラ、そして生まれてくる御子たちも、常に我々の聖域の守護の中で、健やかに過ごせるでしょう」
アウロラのその言葉には、絶対的な確信が満ちていた。
アキオは、その途方もない計画に一瞬圧倒されたが、すぐにその真意を理解した。これは、セレスティーナとレオノーラを救うための、最も根本的で、そして最も慈愛に満ちた解決策だ。
「…分かった。やろう、アウロラ。君と、シルヴィアの力が必要だ」
アキオの決断を受け、会議の議題は、この神聖な任務を遂行するための派遣団の編成へと移った。
「まず、俺とアウロラ、そしてシルヴィアが行く。これは決定だ」
アキオがそう言うと、アヤネとキナが心配そうに顔を見合わせた。
「ですが、シルヴィア様はご出産からまだ日が浅く、アウロラ様も双子の御子をお育てになっている最中です。魔導車があるとはいえ、旅の負担は…」
アヤネのその気遣いに、シルヴィアは穏やかに微笑んで首を振った。
「ありがとう、アヤネ。でも、大丈夫。ハイエルフとして覚醒したこの身は、以前とは比べ物にならないほど回復が早いの。それに、アウロラの儀式には、大地の気脈を正確に読み、聖域創造に最も適した場所を見出す、わたくしの力が不可欠です。正妻として、そしてこの町の『母』として、この重要な務めを果たさせてほしいのです」
その言葉には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
続いて、凛が静かに立ち上がり、アキオに向かって一礼した。
「アキオ様。この歴史的な出来事を正確に記録し、また、クリストフ王子との公式な会談の場で、アキオ様の補佐を務めるのが、わたくしの秘書官としての役目です。どうか、わたくしの同行もお許しください」
「もちろんだ、凛殿。君の知恵と冷静な判断力は、必ず我々の助けになる」
アキオは、彼女の申し出を快く受け入れた。
最後に、護衛の人選が話し合われた。
「カイ殿、アルト。お前たち二人は、この町の守りと、建設作業の指揮という、何よりも重要な役目がある。今回は、ここに残って、皆のことを頼む」
「…承知いたしました、アキオさん。留守は、俺たちが命に代えても守ります」カイが、力強く頷く。
「はい、アキオ様! ご心配なく!」アルトもまた、若きリーダーとしての責任感をその瞳に宿していた。
代わりに、レオノーラがかつて育てた町の若い衆の中から、特に腕が立ち、口も堅い者が数名、護衛として選ばれることになった。彼らは、アキオから直々に指名されたことを、無上の名誉と感じ、その身を盾にしてでも派遣団を守り抜くと誓った。
こうして、アキオ、アウロラ、シルヴィア、凛、そして数名の護衛という、少数精鋭の派遣団が正式に決定された。
アヤネとキナは、その決定に深く頷き、夫と姉妹のような妻たちの無事を祈りながら、留守を預かるという大役への決意を新たにした。
「アキオ様、シルヴィア様、アウロラ様。町のことは、わたくしたちにお任せください。子供たちのことも、家のことも、何も心配なさらないで」
「そうだぜ、だんな! セレスティーナとレオノーラによろしくな! そして、絶対に無事に帰ってこいよ!」
その力強い言葉に、アキオは深く頷き、妻たちへの感謝と信頼を伝えた。
翌日から、エルドリアへの歴史的な旅のための準備が、町の総力を挙げて始まった。
ドルガンの工房では、親方とドワーフたちが、魔導車の最終整備と、長距離走行に耐えうるための改良を急ピッチで進めていた。万一に備え、予備の「魔力バッテリー」も準備される。
アウロラとシルヴィアは、生命樹の麓で、エルドリアに移植する「生命樹の種子」と「恵みの苗」に、聖なる祈りを捧げ、その力を最大限に高める儀式を執り行った。その光景は神々しく、町の者たちは畏敬の念をもって遠巻きに見守っていた。
アヤネと「希望の会」の女性たちは、旅の間の食料や、エルドリアの民への手土産として、栄養価の高い保存食や、アキオの町で採れた穀物を使ったパンを、心を込めて大量に準備した。
凛は、アキオとクリストフ王子との会談で想定される議題をリストアップし、今後の両国の友好関係の礎となるような、盟約の草案を夜遅くまで練り上げていた。
出発を数日後に控え、アキオの町は、緊張感の中にも、大きな希望と、互いへの信頼で満ち溢れていた。聖域の使者たちは、ただの再会のためではない、一つの国の未来を創造するための、奇跡の種を運ぼうとしていた。
「聖域を…創造する、ですって…? アウロラ様、そのようなことが、本当に可能なのですか?」
最初に声を発したのは、アヤネだった。その瞳には、畏敬と、そして信じられないという思いが浮かんでいる。
「ええ、アヤネ。アキオの『生命の祝福』の力と、シルヴィアの森の叡智、そしてわらわのこの聖なる力が合わされば、不可能ではありません。かつてこの地に生命樹を根付かせたように、エルドリアの地に『小さな聖域』を創り出し、その大地を浄化し、祝福で満たすのです。そうすれば、セレスティーナとレオノーラ、そして生まれてくる御子たちも、常に我々の聖域の守護の中で、健やかに過ごせるでしょう」
アウロラのその言葉には、絶対的な確信が満ちていた。
アキオは、その途方もない計画に一瞬圧倒されたが、すぐにその真意を理解した。これは、セレスティーナとレオノーラを救うための、最も根本的で、そして最も慈愛に満ちた解決策だ。
「…分かった。やろう、アウロラ。君と、シルヴィアの力が必要だ」
アキオの決断を受け、会議の議題は、この神聖な任務を遂行するための派遣団の編成へと移った。
「まず、俺とアウロラ、そしてシルヴィアが行く。これは決定だ」
アキオがそう言うと、アヤネとキナが心配そうに顔を見合わせた。
「ですが、シルヴィア様はご出産からまだ日が浅く、アウロラ様も双子の御子をお育てになっている最中です。魔導車があるとはいえ、旅の負担は…」
アヤネのその気遣いに、シルヴィアは穏やかに微笑んで首を振った。
「ありがとう、アヤネ。でも、大丈夫。ハイエルフとして覚醒したこの身は、以前とは比べ物にならないほど回復が早いの。それに、アウロラの儀式には、大地の気脈を正確に読み、聖域創造に最も適した場所を見出す、わたくしの力が不可欠です。正妻として、そしてこの町の『母』として、この重要な務めを果たさせてほしいのです」
その言葉には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
続いて、凛が静かに立ち上がり、アキオに向かって一礼した。
「アキオ様。この歴史的な出来事を正確に記録し、また、クリストフ王子との公式な会談の場で、アキオ様の補佐を務めるのが、わたくしの秘書官としての役目です。どうか、わたくしの同行もお許しください」
「もちろんだ、凛殿。君の知恵と冷静な判断力は、必ず我々の助けになる」
アキオは、彼女の申し出を快く受け入れた。
最後に、護衛の人選が話し合われた。
「カイ殿、アルト。お前たち二人は、この町の守りと、建設作業の指揮という、何よりも重要な役目がある。今回は、ここに残って、皆のことを頼む」
「…承知いたしました、アキオさん。留守は、俺たちが命に代えても守ります」カイが、力強く頷く。
「はい、アキオ様! ご心配なく!」アルトもまた、若きリーダーとしての責任感をその瞳に宿していた。
代わりに、レオノーラがかつて育てた町の若い衆の中から、特に腕が立ち、口も堅い者が数名、護衛として選ばれることになった。彼らは、アキオから直々に指名されたことを、無上の名誉と感じ、その身を盾にしてでも派遣団を守り抜くと誓った。
こうして、アキオ、アウロラ、シルヴィア、凛、そして数名の護衛という、少数精鋭の派遣団が正式に決定された。
アヤネとキナは、その決定に深く頷き、夫と姉妹のような妻たちの無事を祈りながら、留守を預かるという大役への決意を新たにした。
「アキオ様、シルヴィア様、アウロラ様。町のことは、わたくしたちにお任せください。子供たちのことも、家のことも、何も心配なさらないで」
「そうだぜ、だんな! セレスティーナとレオノーラによろしくな! そして、絶対に無事に帰ってこいよ!」
その力強い言葉に、アキオは深く頷き、妻たちへの感謝と信頼を伝えた。
翌日から、エルドリアへの歴史的な旅のための準備が、町の総力を挙げて始まった。
ドルガンの工房では、親方とドワーフたちが、魔導車の最終整備と、長距離走行に耐えうるための改良を急ピッチで進めていた。万一に備え、予備の「魔力バッテリー」も準備される。
アウロラとシルヴィアは、生命樹の麓で、エルドリアに移植する「生命樹の種子」と「恵みの苗」に、聖なる祈りを捧げ、その力を最大限に高める儀式を執り行った。その光景は神々しく、町の者たちは畏敬の念をもって遠巻きに見守っていた。
アヤネと「希望の会」の女性たちは、旅の間の食料や、エルドリアの民への手土産として、栄養価の高い保存食や、アキオの町で採れた穀物を使ったパンを、心を込めて大量に準備した。
凛は、アキオとクリストフ王子との会談で想定される議題をリストアップし、今後の両国の友好関係の礎となるような、盟約の草案を夜遅くまで練り上げていた。
出発を数日後に控え、アキオの町は、緊張感の中にも、大きな希望と、互いへの信頼で満ち溢れていた。聖域の使者たちは、ただの再会のためではない、一つの国の未来を創造するための、奇跡の種を運ぼうとしていた。
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