五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
193 / 400

第193話:砦町の奇跡、王女と騎士の出産

しおりを挟む
 エルドリアの地にアキオの町の祝福によって生まれた「小さな聖域」。その清浄な気に包まれ、セレスティーナとレオノーラは、数年ぶりに心からの安らぎを得て、出産の日を待っていた。アキオもまた、二人のそばに滞在し、夫として、そして父親として、彼女たちを献身的に支えていた。子供たちとの再会も果たし、もはや彼女たちの心に憂いはなかった。

 そして、聖域が創造されてから数日後。その夜、ついにその時は訪れた。
 まず、姉であるセレスティーナに、陣痛の兆候が現れたのだ。
「アキオ様…どうやら、この子が…会いたがっているようですわ…」
 知らせを受け、砦の一室に急遽設けられた産室は、一気に緊張感に包まれた。アキオの町から同行していた熟練の助産師マーサが、産婆見習いの未亡人たちに冷静沈着に指示を飛ばし、シルヴィアが痛みを和らげるための薬草を準備する。アキオも、すぐさまセレスティーナのそばに付き添い、その手を固く握った。

 だが、事態は誰もが予想しなかった方向へと進む。皆がセレスティーナにかかりきりになっている、まさにその時、別の部屋で休んでいたレオノーラもまた、静かに、しかし確かな陣痛に襲われたのだ。
「マーサ殿…! 私も…どうやら、始まったようです…!」
 王女と女騎士の出産が、ほぼ同時に始まった。その報に、マーサは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに歴戦の助産師としての顔つきに戻り、叫んだ。
「未亡人たちは二手に分かれて! キナさんは、レオノーラ様のお部屋へ! アウロラ様は、この場全体の浄化と、お二人の安産への祈りを! アキオ様は、二人分の力を振り絞る覚悟をお決めなさい!」

 砦町の一角は、二つの新しい命を迎え入れるための、神聖な戦場と化した。
 産婆見習いたちにとって、それは最高の、そして最も困難な実地研修となった。マーサの雷のような、しかし的確な指示のもと、彼女たちは必死に動き回る。
 そして、アキオ。彼は、二人の愛する妻の部屋を、文字通り駆けずり回った。
「セレスティーナ、俺がついている!」「レオノーラ、しっかりしろ!」
 それぞれの妻の手を固く握り、自らの「生命の祝福」を惜しみなく注ぎ込む。その力は、彼女たちの激しい苦痛を和らげ、出産を乗り切るための力を与え続けた。それは、アキオ自身の生命力をも大きく削る、過酷な行為だったが、彼は歯を食いしばり、決して弱音を吐かなかった。
 シルヴィアは、次々と必要な薬草を調合し、アウロラは、新しく生まれた聖域と共鳴するように、その場全体を清浄なオーラで満たし、母子の魂を守護する。キナは、自身の出産経験を元に、レオノーラの背中をさすり、力強く励ましていた。
 アキオの家族と、町の仲間たちの総力が、今、このエルドリアの地で、二つの命を救うために一つとなっていた。

 長い、長い、しかし神聖な時間の後。
 まず、セレスティーナの部屋から、澄んだ、美しい産声が響き渡った。
「おめでとうございます! セレスティーナ様、アキオ様! とても愛らしい、王女様のご誕生です!」
 そして、それを祝うかのように、間髪を入れず、レオノーラの部屋からも、力強く、そして猛々しい産声が轟いた。
「こちらも、ご無事です! 今度は、お母上によく似た、力強い男の子でございます!」

 アキオは、疲労困憊の身体を引きずりながら、まずセレスティーナの元へ向かった。彼女は、生まれたばかりの小さな娘を胸に抱き、聖母のような微笑みを浮かべていた。次にレオノーラの元へ向かうと、彼女もまた、元気な男の子を腕に、騎士の顔ではない、ただの母親の優しい顔で、幸せそうに涙を流していた。
 アキオは、二つの新しい命と、それを命がけで産んでくれた愛する妻たちの姿を前に、ただ、感謝の念で胸が一杯だった。

 エルドリアの新しい光。セレスティーナの娘には「光を導く者」の願いを込めてルキアと、レオノーラの息子には「強く、勇敢な者」であれとの想いを込めてヴァレンと名付けられた。アキオの町の力が、同盟国エルドリアの地で、未来を創り出すという、確かな奇跡を起こした瞬間だった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

家ごと異世界ライフ

もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...