五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
193 / 387

第193話:砦町の奇跡、王女と騎士の出産

しおりを挟む
 エルドリアの地にアキオの町の祝福によって生まれた「小さな聖域」。その清浄な気に包まれ、セレスティーナとレオノーラは、数年ぶりに心からの安らぎを得て、出産の日を待っていた。アキオもまた、二人のそばに滞在し、夫として、そして父親として、彼女たちを献身的に支えていた。子供たちとの再会も果たし、もはや彼女たちの心に憂いはなかった。

 そして、聖域が創造されてから数日後。その夜、ついにその時は訪れた。
 まず、姉であるセレスティーナに、陣痛の兆候が現れたのだ。
「アキオ様…どうやら、この子が…会いたがっているようですわ…」
 知らせを受け、砦の一室に急遽設けられた産室は、一気に緊張感に包まれた。アキオの町から同行していた熟練の助産師マーサが、産婆見習いの未亡人たちに冷静沈着に指示を飛ばし、シルヴィアが痛みを和らげるための薬草を準備する。アキオも、すぐさまセレスティーナのそばに付き添い、その手を固く握った。

 だが、事態は誰もが予想しなかった方向へと進む。皆がセレスティーナにかかりきりになっている、まさにその時、別の部屋で休んでいたレオノーラもまた、静かに、しかし確かな陣痛に襲われたのだ。
「マーサ殿…! 私も…どうやら、始まったようです…!」
 王女と女騎士の出産が、ほぼ同時に始まった。その報に、マーサは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに歴戦の助産師としての顔つきに戻り、叫んだ。
「未亡人たちは二手に分かれて! キナさんは、レオノーラ様のお部屋へ! アウロラ様は、この場全体の浄化と、お二人の安産への祈りを! アキオ様は、二人分の力を振り絞る覚悟をお決めなさい!」

 砦町の一角は、二つの新しい命を迎え入れるための、神聖な戦場と化した。
 産婆見習いたちにとって、それは最高の、そして最も困難な実地研修となった。マーサの雷のような、しかし的確な指示のもと、彼女たちは必死に動き回る。
 そして、アキオ。彼は、二人の愛する妻の部屋を、文字通り駆けずり回った。
「セレスティーナ、俺がついている!」「レオノーラ、しっかりしろ!」
 それぞれの妻の手を固く握り、自らの「生命の祝福」を惜しみなく注ぎ込む。その力は、彼女たちの激しい苦痛を和らげ、出産を乗り切るための力を与え続けた。それは、アキオ自身の生命力をも大きく削る、過酷な行為だったが、彼は歯を食いしばり、決して弱音を吐かなかった。
 シルヴィアは、次々と必要な薬草を調合し、アウロラは、新しく生まれた聖域と共鳴するように、その場全体を清浄なオーラで満たし、母子の魂を守護する。キナは、自身の出産経験を元に、レオノーラの背中をさすり、力強く励ましていた。
 アキオの家族と、町の仲間たちの総力が、今、このエルドリアの地で、二つの命を救うために一つとなっていた。

 長い、長い、しかし神聖な時間の後。
 まず、セレスティーナの部屋から、澄んだ、美しい産声が響き渡った。
「おめでとうございます! セレスティーナ様、アキオ様! とても愛らしい、王女様のご誕生です!」
 そして、それを祝うかのように、間髪を入れず、レオノーラの部屋からも、力強く、そして猛々しい産声が轟いた。
「こちらも、ご無事です! 今度は、お母上によく似た、力強い男の子でございます!」

 アキオは、疲労困憊の身体を引きずりながら、まずセレスティーナの元へ向かった。彼女は、生まれたばかりの小さな娘を胸に抱き、聖母のような微笑みを浮かべていた。次にレオノーラの元へ向かうと、彼女もまた、元気な男の子を腕に、騎士の顔ではない、ただの母親の優しい顔で、幸せそうに涙を流していた。
 アキオは、二つの新しい命と、それを命がけで産んでくれた愛する妻たちの姿を前に、ただ、感謝の念で胸が一杯だった。

 エルドリアの新しい光。セレスティーナの娘には「光を導く者」の願いを込めてルキアと、レオノーラの息子には「強く、勇敢な者」であれとの想いを込めてヴァレンと名付けられた。アキオの町の力が、同盟国エルドリアの地で、未来を創り出すという、確かな奇跡を起こした瞬間だった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活

怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。 スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。 何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...