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第194話:聖域への帰還、そして贖罪の試練
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エルドリアの地に、アキオの町の祝福によって生まれた「小さな聖域」。その清浄な気に包まれ、セレスティーナとレオノーラは、無事に二人の赤ん坊、ルキアとヴァレンを出産した。砦町は、王家の新しい血統の誕生に、祝賀ムード一色に染まっていた。
アキオは、数日間、二人の妻とその子らのそばに滞在し、夫として、そして父親として、彼女たちを献身的に支えた。その間、凛とクリストフ王子、そしてその側近たちの間で、アキオの町とエルドリア王国との、今後の具体的な協力関係についての協議が重ねられた。
そして、アキオ一行がアキオの町へ帰還する日がやってきた。
今後の養育について話し合った結果、エルドリアがまだ復興途上であり、王族の身辺が完全に安全とは言えない状況を鑑み、ステラ、エルザ、エドワード、ライナス、そして生まれたばかりのルキアとヴァレンも、引き続きアキオの町で育てることで皆が合意した。
セレスティーナとレオノーラは、愛する我が子とのしばしの別れに涙したが、魔導車でいつでも会いに来られるというアキオの言葉を信じ、強く頷いた。
「アキオ様…必ず、必ず迎えに来ます。子供たちに…このエルドリアの美しい空を、いつか見せてあげられるように…胸を張って、アキオ様の元へ…」
アキオは、二人の妻のその強い決意を受け止め、再会を固く約束した。
一方、その頃、アキオの町では、一つの試練が訪れようとしていた。
アキオという最大の守護者が不在であること、そしてエルドリアに新たな聖域が生まれた余波か、町の防御網をかいくぐり、一匹の強力な魔物が、よりによって贖罪中の男が一人で作業する廃墟の外縁部に出現したのだ。
男――かつてユリアを襲い、そして命を懸けて彼女を守ったザックは、来る日も来る日も、たった一人で荒れ地の浄化作業を続けていた。その目は、まだ荒んでいる。しかし、彼の心の奥底には、毎日、格子越しに食事を運んでくれる、あの女性の姿が焼き付いていた。
「グルオオオォォッ!」
突如として現れた、猪に似た巨大な魔物。ザックは、武器も持たない。逃げることもできた。しかし、彼の背後には、自分を人間として扱してくれた、あの町がある。そして、もうすぐ、彼女が食事を運んでくる時間だった。
「…くそがぁ…!」
ザックは、恐怖に震えながらも、砕けた瓦礫や木の棒を手に、魔物へと立ち向かった。町へ危険を知らせるため、そして、生まれて初めて、自分以外の誰かを守るために。
しかし、力の差は歴然としていた。ザックは魔物の突進を受け、深手を負い、地面に倒れ伏す。もはやこれまでかと思われた、その瞬間。
「……!」
食事を運ぶ盆を持ったユリアが、その光景を目にして、悲鳴を上げることすらできずに立ち尽くしていた。魔物は、新たな獲物である彼女に狙いを定め、牙を剥く。
それを見たザックは、最後の力を振り絞った。
「てめえ…そいつに…手を出すんじゃねえ…!」
彼は、血を流しながらも立ち上がり、自らの身体を盾にしてユリアを守り、手にしたアキオ鋼の砕けた残骸で、魔物の喉元を全力で突き刺した。魔物は、断末魔の叫びを上げて絶命したが、ザックもまた、命の灯火が消えかけるように、その場に崩れ落ちた。
騒ぎに気づいたカイや町の防衛隊が駆けつけた時には、魔物は倒れ、ザックは血の海に横たわっていた。
そこへ、エルドリアから子供たちを連れて帰還したアキオの魔導車が、土煙を上げて到着する。
アキオは、事の次第を聞くと、瀕死のザックの元へ駆けつけた。そして、彼のそばで涙を流すユリアを一瞥すると、血の海に横たわる男の顔を覗き込み、静かに、しかし厳しく言い放った。
「馬鹿野郎。死んで楽になろうなどと、甘ったれたことを考えるな」
アキオは、懐から「生命の霊薬」の小瓶を取り出すと、その中身を無理やり男の口に流し込むのではなく、側にいたユリアの震える手に、その小瓶を握らせた。
「…彼を生かすも、このまま見殺しにするも、君が決めていい。君には、その権利がある。君が彼を赦せないというのなら、俺もその判断を尊重する」
ユリアは、一瞬ためらった。目の前には、自分を襲った男がいる。だが、同時に、自分を守ってくれた男がいる。彼女は、涙を流しながら、しかし、その瞳には強い意志の光を宿し、震える手で、ザックの口に霊薬を注いだ。
「…生きて…ください…」
彼女が、自らの意志で「赦し」を選んだ瞬間だった。
霊薬の力で、ザックの命はかろうじて繋ぎ止められた。アキオは、担架で運ばれていく男に、そして、それを見守る町の皆に、聞こえるようにもう一度だけ告げた。
「お前の罪は、生きて、この町のために働き、そして…ユリア殿に、皆に、心から許されるその日まで、決して消えんのだぞ」
死ぬことさえ許されない、贖罪の道。しかし、その道には今、ユリアという、一筋の、あまりにも温かい光が差し込んでいた。
アキオは、数日間、二人の妻とその子らのそばに滞在し、夫として、そして父親として、彼女たちを献身的に支えた。その間、凛とクリストフ王子、そしてその側近たちの間で、アキオの町とエルドリア王国との、今後の具体的な協力関係についての協議が重ねられた。
そして、アキオ一行がアキオの町へ帰還する日がやってきた。
今後の養育について話し合った結果、エルドリアがまだ復興途上であり、王族の身辺が完全に安全とは言えない状況を鑑み、ステラ、エルザ、エドワード、ライナス、そして生まれたばかりのルキアとヴァレンも、引き続きアキオの町で育てることで皆が合意した。
セレスティーナとレオノーラは、愛する我が子とのしばしの別れに涙したが、魔導車でいつでも会いに来られるというアキオの言葉を信じ、強く頷いた。
「アキオ様…必ず、必ず迎えに来ます。子供たちに…このエルドリアの美しい空を、いつか見せてあげられるように…胸を張って、アキオ様の元へ…」
アキオは、二人の妻のその強い決意を受け止め、再会を固く約束した。
一方、その頃、アキオの町では、一つの試練が訪れようとしていた。
アキオという最大の守護者が不在であること、そしてエルドリアに新たな聖域が生まれた余波か、町の防御網をかいくぐり、一匹の強力な魔物が、よりによって贖罪中の男が一人で作業する廃墟の外縁部に出現したのだ。
男――かつてユリアを襲い、そして命を懸けて彼女を守ったザックは、来る日も来る日も、たった一人で荒れ地の浄化作業を続けていた。その目は、まだ荒んでいる。しかし、彼の心の奥底には、毎日、格子越しに食事を運んでくれる、あの女性の姿が焼き付いていた。
「グルオオオォォッ!」
突如として現れた、猪に似た巨大な魔物。ザックは、武器も持たない。逃げることもできた。しかし、彼の背後には、自分を人間として扱してくれた、あの町がある。そして、もうすぐ、彼女が食事を運んでくる時間だった。
「…くそがぁ…!」
ザックは、恐怖に震えながらも、砕けた瓦礫や木の棒を手に、魔物へと立ち向かった。町へ危険を知らせるため、そして、生まれて初めて、自分以外の誰かを守るために。
しかし、力の差は歴然としていた。ザックは魔物の突進を受け、深手を負い、地面に倒れ伏す。もはやこれまでかと思われた、その瞬間。
「……!」
食事を運ぶ盆を持ったユリアが、その光景を目にして、悲鳴を上げることすらできずに立ち尽くしていた。魔物は、新たな獲物である彼女に狙いを定め、牙を剥く。
それを見たザックは、最後の力を振り絞った。
「てめえ…そいつに…手を出すんじゃねえ…!」
彼は、血を流しながらも立ち上がり、自らの身体を盾にしてユリアを守り、手にしたアキオ鋼の砕けた残骸で、魔物の喉元を全力で突き刺した。魔物は、断末魔の叫びを上げて絶命したが、ザックもまた、命の灯火が消えかけるように、その場に崩れ落ちた。
騒ぎに気づいたカイや町の防衛隊が駆けつけた時には、魔物は倒れ、ザックは血の海に横たわっていた。
そこへ、エルドリアから子供たちを連れて帰還したアキオの魔導車が、土煙を上げて到着する。
アキオは、事の次第を聞くと、瀕死のザックの元へ駆けつけた。そして、彼のそばで涙を流すユリアを一瞥すると、血の海に横たわる男の顔を覗き込み、静かに、しかし厳しく言い放った。
「馬鹿野郎。死んで楽になろうなどと、甘ったれたことを考えるな」
アキオは、懐から「生命の霊薬」の小瓶を取り出すと、その中身を無理やり男の口に流し込むのではなく、側にいたユリアの震える手に、その小瓶を握らせた。
「…彼を生かすも、このまま見殺しにするも、君が決めていい。君には、その権利がある。君が彼を赦せないというのなら、俺もその判断を尊重する」
ユリアは、一瞬ためらった。目の前には、自分を襲った男がいる。だが、同時に、自分を守ってくれた男がいる。彼女は、涙を流しながら、しかし、その瞳には強い意志の光を宿し、震える手で、ザックの口に霊薬を注いだ。
「…生きて…ください…」
彼女が、自らの意志で「赦し」を選んだ瞬間だった。
霊薬の力で、ザックの命はかろうじて繋ぎ止められた。アキオは、担架で運ばれていく男に、そして、それを見守る町の皆に、聞こえるようにもう一度だけ告げた。
「お前の罪は、生きて、この町のために働き、そして…ユリア殿に、皆に、心から許されるその日まで、決して消えんのだぞ」
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