194 / 387
第194話:聖域への帰還、そして贖罪の試練
しおりを挟む
エルドリアの地に、アキオの町の祝福によって生まれた「小さな聖域」。その清浄な気に包まれ、セレスティーナとレオノーラは、無事に二人の赤ん坊、ルキアとヴァレンを出産した。砦町は、王家の新しい血統の誕生に、祝賀ムード一色に染まっていた。
アキオは、数日間、二人の妻とその子らのそばに滞在し、夫として、そして父親として、彼女たちを献身的に支えた。その間、凛とクリストフ王子、そしてその側近たちの間で、アキオの町とエルドリア王国との、今後の具体的な協力関係についての協議が重ねられた。
そして、アキオ一行がアキオの町へ帰還する日がやってきた。
今後の養育について話し合った結果、エルドリアがまだ復興途上であり、王族の身辺が完全に安全とは言えない状況を鑑み、ステラ、エルザ、エドワード、ライナス、そして生まれたばかりのルキアとヴァレンも、引き続きアキオの町で育てることで皆が合意した。
セレスティーナとレオノーラは、愛する我が子とのしばしの別れに涙したが、魔導車でいつでも会いに来られるというアキオの言葉を信じ、強く頷いた。
「アキオ様…必ず、必ず迎えに来ます。子供たちに…このエルドリアの美しい空を、いつか見せてあげられるように…胸を張って、アキオ様の元へ…」
アキオは、二人の妻のその強い決意を受け止め、再会を固く約束した。
一方、その頃、アキオの町では、一つの試練が訪れようとしていた。
アキオという最大の守護者が不在であること、そしてエルドリアに新たな聖域が生まれた余波か、町の防御網をかいくぐり、一匹の強力な魔物が、よりによって贖罪中の男が一人で作業する廃墟の外縁部に出現したのだ。
男――かつてユリアを襲い、そして命を懸けて彼女を守ったザックは、来る日も来る日も、たった一人で荒れ地の浄化作業を続けていた。その目は、まだ荒んでいる。しかし、彼の心の奥底には、毎日、格子越しに食事を運んでくれる、あの女性の姿が焼き付いていた。
「グルオオオォォッ!」
突如として現れた、猪に似た巨大な魔物。ザックは、武器も持たない。逃げることもできた。しかし、彼の背後には、自分を人間として扱してくれた、あの町がある。そして、もうすぐ、彼女が食事を運んでくる時間だった。
「…くそがぁ…!」
ザックは、恐怖に震えながらも、砕けた瓦礫や木の棒を手に、魔物へと立ち向かった。町へ危険を知らせるため、そして、生まれて初めて、自分以外の誰かを守るために。
しかし、力の差は歴然としていた。ザックは魔物の突進を受け、深手を負い、地面に倒れ伏す。もはやこれまでかと思われた、その瞬間。
「……!」
食事を運ぶ盆を持ったユリアが、その光景を目にして、悲鳴を上げることすらできずに立ち尽くしていた。魔物は、新たな獲物である彼女に狙いを定め、牙を剥く。
それを見たザックは、最後の力を振り絞った。
「てめえ…そいつに…手を出すんじゃねえ…!」
彼は、血を流しながらも立ち上がり、自らの身体を盾にしてユリアを守り、手にしたアキオ鋼の砕けた残骸で、魔物の喉元を全力で突き刺した。魔物は、断末魔の叫びを上げて絶命したが、ザックもまた、命の灯火が消えかけるように、その場に崩れ落ちた。
騒ぎに気づいたカイや町の防衛隊が駆けつけた時には、魔物は倒れ、ザックは血の海に横たわっていた。
そこへ、エルドリアから子供たちを連れて帰還したアキオの魔導車が、土煙を上げて到着する。
アキオは、事の次第を聞くと、瀕死のザックの元へ駆けつけた。そして、彼のそばで涙を流すユリアを一瞥すると、血の海に横たわる男の顔を覗き込み、静かに、しかし厳しく言い放った。
「馬鹿野郎。死んで楽になろうなどと、甘ったれたことを考えるな」
アキオは、懐から「生命の霊薬」の小瓶を取り出すと、その中身を無理やり男の口に流し込むのではなく、側にいたユリアの震える手に、その小瓶を握らせた。
「…彼を生かすも、このまま見殺しにするも、君が決めていい。君には、その権利がある。君が彼を赦せないというのなら、俺もその判断を尊重する」
ユリアは、一瞬ためらった。目の前には、自分を襲った男がいる。だが、同時に、自分を守ってくれた男がいる。彼女は、涙を流しながら、しかし、その瞳には強い意志の光を宿し、震える手で、ザックの口に霊薬を注いだ。
「…生きて…ください…」
彼女が、自らの意志で「赦し」を選んだ瞬間だった。
霊薬の力で、ザックの命はかろうじて繋ぎ止められた。アキオは、担架で運ばれていく男に、そして、それを見守る町の皆に、聞こえるようにもう一度だけ告げた。
「お前の罪は、生きて、この町のために働き、そして…ユリア殿に、皆に、心から許されるその日まで、決して消えんのだぞ」
死ぬことさえ許されない、贖罪の道。しかし、その道には今、ユリアという、一筋の、あまりにも温かい光が差し込んでいた。
アキオは、数日間、二人の妻とその子らのそばに滞在し、夫として、そして父親として、彼女たちを献身的に支えた。その間、凛とクリストフ王子、そしてその側近たちの間で、アキオの町とエルドリア王国との、今後の具体的な協力関係についての協議が重ねられた。
そして、アキオ一行がアキオの町へ帰還する日がやってきた。
今後の養育について話し合った結果、エルドリアがまだ復興途上であり、王族の身辺が完全に安全とは言えない状況を鑑み、ステラ、エルザ、エドワード、ライナス、そして生まれたばかりのルキアとヴァレンも、引き続きアキオの町で育てることで皆が合意した。
セレスティーナとレオノーラは、愛する我が子とのしばしの別れに涙したが、魔導車でいつでも会いに来られるというアキオの言葉を信じ、強く頷いた。
「アキオ様…必ず、必ず迎えに来ます。子供たちに…このエルドリアの美しい空を、いつか見せてあげられるように…胸を張って、アキオ様の元へ…」
アキオは、二人の妻のその強い決意を受け止め、再会を固く約束した。
一方、その頃、アキオの町では、一つの試練が訪れようとしていた。
アキオという最大の守護者が不在であること、そしてエルドリアに新たな聖域が生まれた余波か、町の防御網をかいくぐり、一匹の強力な魔物が、よりによって贖罪中の男が一人で作業する廃墟の外縁部に出現したのだ。
男――かつてユリアを襲い、そして命を懸けて彼女を守ったザックは、来る日も来る日も、たった一人で荒れ地の浄化作業を続けていた。その目は、まだ荒んでいる。しかし、彼の心の奥底には、毎日、格子越しに食事を運んでくれる、あの女性の姿が焼き付いていた。
「グルオオオォォッ!」
突如として現れた、猪に似た巨大な魔物。ザックは、武器も持たない。逃げることもできた。しかし、彼の背後には、自分を人間として扱してくれた、あの町がある。そして、もうすぐ、彼女が食事を運んでくる時間だった。
「…くそがぁ…!」
ザックは、恐怖に震えながらも、砕けた瓦礫や木の棒を手に、魔物へと立ち向かった。町へ危険を知らせるため、そして、生まれて初めて、自分以外の誰かを守るために。
しかし、力の差は歴然としていた。ザックは魔物の突進を受け、深手を負い、地面に倒れ伏す。もはやこれまでかと思われた、その瞬間。
「……!」
食事を運ぶ盆を持ったユリアが、その光景を目にして、悲鳴を上げることすらできずに立ち尽くしていた。魔物は、新たな獲物である彼女に狙いを定め、牙を剥く。
それを見たザックは、最後の力を振り絞った。
「てめえ…そいつに…手を出すんじゃねえ…!」
彼は、血を流しながらも立ち上がり、自らの身体を盾にしてユリアを守り、手にしたアキオ鋼の砕けた残骸で、魔物の喉元を全力で突き刺した。魔物は、断末魔の叫びを上げて絶命したが、ザックもまた、命の灯火が消えかけるように、その場に崩れ落ちた。
騒ぎに気づいたカイや町の防衛隊が駆けつけた時には、魔物は倒れ、ザックは血の海に横たわっていた。
そこへ、エルドリアから子供たちを連れて帰還したアキオの魔導車が、土煙を上げて到着する。
アキオは、事の次第を聞くと、瀕死のザックの元へ駆けつけた。そして、彼のそばで涙を流すユリアを一瞥すると、血の海に横たわる男の顔を覗き込み、静かに、しかし厳しく言い放った。
「馬鹿野郎。死んで楽になろうなどと、甘ったれたことを考えるな」
アキオは、懐から「生命の霊薬」の小瓶を取り出すと、その中身を無理やり男の口に流し込むのではなく、側にいたユリアの震える手に、その小瓶を握らせた。
「…彼を生かすも、このまま見殺しにするも、君が決めていい。君には、その権利がある。君が彼を赦せないというのなら、俺もその判断を尊重する」
ユリアは、一瞬ためらった。目の前には、自分を襲った男がいる。だが、同時に、自分を守ってくれた男がいる。彼女は、涙を流しながら、しかし、その瞳には強い意志の光を宿し、震える手で、ザックの口に霊薬を注いだ。
「…生きて…ください…」
彼女が、自らの意志で「赦し」を選んだ瞬間だった。
霊薬の力で、ザックの命はかろうじて繋ぎ止められた。アキオは、担架で運ばれていく男に、そして、それを見守る町の皆に、聞こえるようにもう一度だけ告げた。
「お前の罪は、生きて、この町のために働き、そして…ユリア殿に、皆に、心から許されるその日まで、決して消えんのだぞ」
死ぬことさえ許されない、贖罪の道。しかし、その道には今、ユリアという、一筋の、あまりにも温かい光が差し込んでいた。
57
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる