五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第249話:エルドリアの聖域、そして残される二人

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 アキオ一行がエルドリアの新しい王都に滞在して、数日が過ぎた。その間、アキオたちは、クリストフ王子やその側近たちと連日協議を重ね、エルドリアの復興計画と、アキオの町からの継続的な支援について、具体的な道筋を固めていた。

 その日の日中、アキオの妻たちは、それぞれの専門分野でエルドリアの地を調査していた。
 シルヴィアとアウロラ、そして護衛のキナは、クリストフ王子の案内で、先日、生命樹の種子が植えられた小高い丘、エルドリアの「小さな聖域」を訪れていた。
「…素晴らしいですわ。アキオ」
 シルヴィアは、その地に満ちる清浄な気に、感嘆の声を漏らした。若木はまだ小さいながらも力強く根を張り、周囲の土壌を浄化し、痩せていた大地からは、見たこともない瑞々しい若草が芽吹き始めている。
「うむ。この地は、確かにわらわたちの祝福を受け入れたようじゃのう」アウロラも満足げに頷く。
 そして、三人は持参した「聖石式充電器」が、この新しい聖域の力でも問題なく機能することを確認した。これで、エルドリアに残していく魔導車『白百合』の動力も、当面は安泰である。

 一方、王都の広場では、凛とクラウディアが、エルドリアの技術者や兵士たちに、魔導車の基本的な整備方法について指導を行っていた。
「魔力回路は、この町のいかなるものよりも繊細です。清掃の際は、必ずこの特殊な油を染み込ませた布をお使いください」
「動力炉のエネルギー残量が三割を切った場合は、速やかに運転を停止し、アウロラ様からいただいた充電器で、最低でも一昼夜は充電を行ってくださいまし」
 凛の的確で、一切の無駄がない説明。クラウディアの、時にユーモアを交えながらも、要点を分かりやすく伝える卓越した指導力。二人の才媛が並び立つ姿に、エルドリアの者たちは、アキオの町の計り知れない国力を、改めて感じ入っていた。

 全ての調査と、基本的な技術指導を終えたその夜。
 王宮の一室で、アキオは派遣隊の全員を集め、今後の計画を発表した。
「皆、ご苦労だった。エルドリアの復興は、まだ始まったばかりだが、確かな光が見えた。これより、我々は一度、アキオの町へ帰還する」
 その言葉に、皆が頷く。しかし、アキオは続けた。
「だが、全員ではない。『白百合』の、より詳細な運用方法と、緊急時の対応について、エルドリアの者たちに完全に引き継ぐ必要がある。そのため、俺ともう一人、この地に残って指導を続ける」
 皆の視線が、アキオと、そして彼の隣に立つ二人の才媛、凛とクラウディアに集まった。
「機関士であり、この計画の責任者でもある凛殿には、町へ戻り、留守を預かるアルトたちへの指示と、聖域街道計画の次の段階への準備を指揮してもらいたい。町の頭脳である君が、不可欠だ」
「はい、アキオ様」凛は、その信頼に、静かに、しかし力強く応えた。

 そして、アキオはクラウディアに向き直った。
「クラウディア殿。君に、俺と共に残ってもらいたい。君の教え方の上手さは、この数日間で、誰もが認めるところだ。どうか、俺と一緒に、彼らを指導してはくれないか」
 その、あまりにも真っ直ぐな信頼の眼差し。クラウディアは、一瞬、心臓が大きく跳ねるのを感じた。
(わたくしが…アキオ様と、二人で…?)
 彼女の脳裏に、先日、凛とアキオが親密に寄り添っていた光景が蘇る。そして、自らの胸の奥にある、この頼もしい男への、尊敬と、そしてそれ以上の熱い想い。
「…はい、アキオ様。謹んで、お受けいたします」
 彼女は、込み上げる感情を抑え、優雅な笑みの下に隠し、そう答えるのが精一杯だった。

 翌朝。凛が率いる帰還隊が、もう一台の魔導車『力王』で、アキオの町へと出発していった。
 アキオとクラウディアは、クリストフ王子と共に、その姿が見えなくなるまで、城壁の上から静かに手を振り続けていた。
 盟友の都エルドリアに、二人きりで残された、アキオと、一人の才媛。
 この地で、二人の間に、新しい物語が始まろうとしていることを、まだ、彼ら自身も、はっきりと予感してはいなかった。
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