255 / 387
第255話:帰郷、そして聖域の祝槌
しおりを挟む
アキオたちが、エルドリアからの長い帰路についている、まさにその時。アキオの町では、一つの喜ばしい儀式の準備が、着々と進められていた。町の技術の要である、老ドワーフのドルガン親方と、長年彼を支え、娘ゲルダを産んでくれたヘルガさんの、正式な結婚の儀式である。
その日の大厨房は、いつにも増して活気に満ちていた。アヤネは、町の女性たちをまとめ上げ、祝宴のための、膨大な量の料理を準備していた。巨大な森猪の丸焼き、滋養に富んだ根菜のシチュー、そして、ドワーフたちが何よりも愛する、芳醇なエールが樽でいくつも用意される。彼女の指揮のもと、町中が、二人の門出を祝う準備に、心を一つにしていた。
儀式が執り行われるのは、町の中心広場に特設された、ドルガン親方の神聖な仕事場——鍛冶場(フォージ)の前だった。
町の全住民が見守る中、少し照れくさそうに、しかし誇らしげに正装したドルガン親方と、美しい民族衣装に身を包んだヘルガさんが、祭壇として用意された、特別な金床(アンヴィル)の前に立つ。
司祭役を務めるのは、この聖域の二人の聖女、シルヴィアとアウロラだった。
「古き炎と、硬き鉄に誓い、新たな絆を結ばんとする者たちよ。今、その覚悟を、槌音に込めなさい」
シルヴィアの厳かな声が響く。
ドワーフの伝統に則り、二人は、互いのために、その場で指輪を鍛え上げる。
カァン、コン…!
まず、ドルガン親方が槌を握る。その槌音は、力強く、そしてどこまでも優しい。彼は、ヘルガのために、ミスリル銀を贅沢に使った、繊細で美しい指輪を、瞬く間に鍛え上げた。
次に、ヘルガが槌を握る。彼女の槌音は、不器用ながらも、温かく、そして愛情に満ちていた。彼女は、親方のために、飾り気はないが、アキオ鋼で作られた、決して壊れることのない、力強い指輪を鍛え上げた。
二人が、互いの指に、今しがた鍛え上げたばかりの指輪をはめ合った瞬間、シルヴィアとアウロラが、その両手に生命樹の祝福を授ける。
「聖域の名において、この二人の魂が、永遠に結ばれたことを、ここに宣言します!」
その言葉を合図に、広場は、割れんばかりの拍手と、祝福の歓声に包まれた。
その、町全体の幸福感が最高潮に達した、まさにその時だった。
ウィィン…という、静かでありながら、誰もが知っている、力強い駆動音と共に、魔導車『力王』が、広場へと滑るように入ってきたのだ。
「アキオ様が、お戻りになったぞ!」
誰かのその声に、喜びは二倍、三倍へと膨れ上がる。
魔導車から降り立ったアキオと凛、そしてキナ、カイ、クラウディアたち。彼らは、町のそのお祭り騒ぎに驚きながらも、すぐに状況を理解した。
アルト、ケンタ、そしてサラが、すぐにアキオの元へ駆け寄り、留守中の町の状況を報告する。しかし、アキオは、彼らの報告を遮るように、穏やかに笑った。
「その話は、車の中で、全て凛殿から聞いている」
アキオは、三人の若きリーダーたちの肩を、力強く叩いた。
「アルト、資材の配分、見事な判断だった。すぐに実行を承認する。サラ、織物工房の件、素晴らしい采配だ。その方針で進めてくれ。ケンタ、防衛隊の新しいシフト、よく考えられている。明日から採用だ。…皆、俺がいない間、本当によくやってくれた。ありがとう」
車中での凛の報告で、全ての状況を把握していたアキオは、その場でいくつかの懸案事項に対して、即座に、そして的確な判断を下し、見事に問題を解決してみせた。その姿は、町の者たちに、絶対的な指導者の帰還を、そして彼の仲間たちへの深い信頼を、改めて強く印象付けた。
全ての采配を終えたアキオは、群衆をかき分け、主役であるドルガン親方とヘルガさんの前へと進み出た。
「親方、ヘルガさん、おめでとう! 最高の日に帰ってこれて、俺も嬉しいぞ!」
アキオが、エールの満たされたジョッキを高々と掲げると、町の皆も、一斉にそれに続いた。
エルドリアへの旅を終えた英雄たちの帰還と、町の重鎮の結婚という、二つの大きな喜び。アキオの聖域は、これ以上ないほどの祝福ムードに包まれ、その祝宴は、夜が更けるまで続いた。
その日の大厨房は、いつにも増して活気に満ちていた。アヤネは、町の女性たちをまとめ上げ、祝宴のための、膨大な量の料理を準備していた。巨大な森猪の丸焼き、滋養に富んだ根菜のシチュー、そして、ドワーフたちが何よりも愛する、芳醇なエールが樽でいくつも用意される。彼女の指揮のもと、町中が、二人の門出を祝う準備に、心を一つにしていた。
儀式が執り行われるのは、町の中心広場に特設された、ドルガン親方の神聖な仕事場——鍛冶場(フォージ)の前だった。
町の全住民が見守る中、少し照れくさそうに、しかし誇らしげに正装したドルガン親方と、美しい民族衣装に身を包んだヘルガさんが、祭壇として用意された、特別な金床(アンヴィル)の前に立つ。
司祭役を務めるのは、この聖域の二人の聖女、シルヴィアとアウロラだった。
「古き炎と、硬き鉄に誓い、新たな絆を結ばんとする者たちよ。今、その覚悟を、槌音に込めなさい」
シルヴィアの厳かな声が響く。
ドワーフの伝統に則り、二人は、互いのために、その場で指輪を鍛え上げる。
カァン、コン…!
まず、ドルガン親方が槌を握る。その槌音は、力強く、そしてどこまでも優しい。彼は、ヘルガのために、ミスリル銀を贅沢に使った、繊細で美しい指輪を、瞬く間に鍛え上げた。
次に、ヘルガが槌を握る。彼女の槌音は、不器用ながらも、温かく、そして愛情に満ちていた。彼女は、親方のために、飾り気はないが、アキオ鋼で作られた、決して壊れることのない、力強い指輪を鍛え上げた。
二人が、互いの指に、今しがた鍛え上げたばかりの指輪をはめ合った瞬間、シルヴィアとアウロラが、その両手に生命樹の祝福を授ける。
「聖域の名において、この二人の魂が、永遠に結ばれたことを、ここに宣言します!」
その言葉を合図に、広場は、割れんばかりの拍手と、祝福の歓声に包まれた。
その、町全体の幸福感が最高潮に達した、まさにその時だった。
ウィィン…という、静かでありながら、誰もが知っている、力強い駆動音と共に、魔導車『力王』が、広場へと滑るように入ってきたのだ。
「アキオ様が、お戻りになったぞ!」
誰かのその声に、喜びは二倍、三倍へと膨れ上がる。
魔導車から降り立ったアキオと凛、そしてキナ、カイ、クラウディアたち。彼らは、町のそのお祭り騒ぎに驚きながらも、すぐに状況を理解した。
アルト、ケンタ、そしてサラが、すぐにアキオの元へ駆け寄り、留守中の町の状況を報告する。しかし、アキオは、彼らの報告を遮るように、穏やかに笑った。
「その話は、車の中で、全て凛殿から聞いている」
アキオは、三人の若きリーダーたちの肩を、力強く叩いた。
「アルト、資材の配分、見事な判断だった。すぐに実行を承認する。サラ、織物工房の件、素晴らしい采配だ。その方針で進めてくれ。ケンタ、防衛隊の新しいシフト、よく考えられている。明日から採用だ。…皆、俺がいない間、本当によくやってくれた。ありがとう」
車中での凛の報告で、全ての状況を把握していたアキオは、その場でいくつかの懸案事項に対して、即座に、そして的確な判断を下し、見事に問題を解決してみせた。その姿は、町の者たちに、絶対的な指導者の帰還を、そして彼の仲間たちへの深い信頼を、改めて強く印象付けた。
全ての采配を終えたアキオは、群衆をかき分け、主役であるドルガン親方とヘルガさんの前へと進み出た。
「親方、ヘルガさん、おめでとう! 最高の日に帰ってこれて、俺も嬉しいぞ!」
アキオが、エールの満たされたジョッキを高々と掲げると、町の皆も、一斉にそれに続いた。
エルドリアへの旅を終えた英雄たちの帰還と、町の重鎮の結婚という、二つの大きな喜び。アキオの聖域は、これ以上ないほどの祝福ムードに包まれ、その祝宴は、夜が更けるまで続いた。
43
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活
怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。
スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。
何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる