五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第255話:帰郷、そして聖域の祝槌

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 アキオたちが、エルドリアからの長い帰路についている、まさにその時。アキオの町では、一つの喜ばしい儀式の準備が、着々と進められていた。町の技術の要である、老ドワーフのドルガン親方と、長年彼を支え、娘ゲルダを産んでくれたヘルガさんの、正式な結婚の儀式である。

 その日の大厨房は、いつにも増して活気に満ちていた。アヤネは、町の女性たちをまとめ上げ、祝宴のための、膨大な量の料理を準備していた。巨大な森猪の丸焼き、滋養に富んだ根菜のシチュー、そして、ドワーフたちが何よりも愛する、芳醇なエールが樽でいくつも用意される。彼女の指揮のもと、町中が、二人の門出を祝う準備に、心を一つにしていた。

 儀式が執り行われるのは、町の中心広場に特設された、ドルガン親方の神聖な仕事場——鍛冶場(フォージ)の前だった。
 町の全住民が見守る中、少し照れくさそうに、しかし誇らしげに正装したドルガン親方と、美しい民族衣装に身を包んだヘルガさんが、祭壇として用意された、特別な金床(アンヴィル)の前に立つ。
 司祭役を務めるのは、この聖域の二人の聖女、シルヴィアとアウロラだった。
「古き炎と、硬き鉄に誓い、新たな絆を結ばんとする者たちよ。今、その覚悟を、槌音に込めなさい」
 シルヴィアの厳かな声が響く。

 ドワーフの伝統に則り、二人は、互いのために、その場で指輪を鍛え上げる。
 カァン、コン…!
 まず、ドルガン親方が槌を握る。その槌音は、力強く、そしてどこまでも優しい。彼は、ヘルガのために、ミスリル銀を贅沢に使った、繊細で美しい指輪を、瞬く間に鍛え上げた。
 次に、ヘルガが槌を握る。彼女の槌音は、不器用ながらも、温かく、そして愛情に満ちていた。彼女は、親方のために、飾り気はないが、アキオ鋼で作られた、決して壊れることのない、力強い指輪を鍛え上げた。
 二人が、互いの指に、今しがた鍛え上げたばかりの指輪をはめ合った瞬間、シルヴィアとアウロラが、その両手に生命樹の祝福を授ける。
「聖域の名において、この二人の魂が、永遠に結ばれたことを、ここに宣言します!」
 その言葉を合図に、広場は、割れんばかりの拍手と、祝福の歓声に包まれた。

 その、町全体の幸福感が最高潮に達した、まさにその時だった。
 ウィィン…という、静かでありながら、誰もが知っている、力強い駆動音と共に、魔導車『力王』が、広場へと滑るように入ってきたのだ。
「アキオ様が、お戻りになったぞ!」
 誰かのその声に、喜びは二倍、三倍へと膨れ上がる。

 魔導車から降り立ったアキオと凛、そしてキナ、カイ、クラウディアたち。彼らは、町のそのお祭り騒ぎに驚きながらも、すぐに状況を理解した。
 アルト、ケンタ、そしてサラが、すぐにアキオの元へ駆け寄り、留守中の町の状況を報告する。しかし、アキオは、彼らの報告を遮るように、穏やかに笑った。
「その話は、車の中で、全て凛殿から聞いている」
 アキオは、三人の若きリーダーたちの肩を、力強く叩いた。
「アルト、資材の配分、見事な判断だった。すぐに実行を承認する。サラ、織物工房の件、素晴らしい采配だ。その方針で進めてくれ。ケンタ、防衛隊の新しいシフト、よく考えられている。明日から採用だ。…皆、俺がいない間、本当によくやってくれた。ありがとう」
 車中での凛の報告で、全ての状況を把握していたアキオは、その場でいくつかの懸案事項に対して、即座に、そして的確な判断を下し、見事に問題を解決してみせた。その姿は、町の者たちに、絶対的な指導者の帰還を、そして彼の仲間たちへの深い信頼を、改めて強く印象付けた。

 全ての采配を終えたアキオは、群衆をかき分け、主役であるドルガン親方とヘルガさんの前へと進み出た。
「親方、ヘルガさん、おめでとう! 最高の日に帰ってこれて、俺も嬉しいぞ!」
 アキオが、エールの満たされたジョッキを高々と掲げると、町の皆も、一斉にそれに続いた。
 エルドリアへの旅を終えた英雄たちの帰還と、町の重鎮の結婚という、二つの大きな喜び。アキオの聖域は、これ以上ないほどの祝福ムードに包まれ、その祝宴は、夜が更けるまで続いた。
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