五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
272 / 387

第272話:三位一体の儀式、そして森の新生

しおりを挟む
 アキオたちが訪れた「聖域街道」の建設予定地は、人の手では到底抗うことのできない、「生命力の暴走」に満ちていた。大地は脈打ち、敷き詰められた石畳は、異常な速度で成長する巨大な木の根によって、無残に砕かれている。それは、かつてアキオが祝福を与えた「森の主」の力が、制御を失って溢れ出した結果だった。

 その光景を前に、シルヴィア、アウロラ、そしてアキオは、唯一の解決策を見出していた。
「この暴走する生命力を、より高次の、調和の取れた『聖なる力』へと『昇華』させるしかありませんわ」
「うむ。そのためには、アキオの『祝福』、わらわの『聖霊の力』、そして、シルヴィアの『森の理』。この三つの力を完全に融合させ、森の主へと注ぎ込む、神聖な儀式が必要じゃのう」
 アキオは、二人の妻の言葉に、静かに、しかし力強く頷いた。

 その夜。月明かりが、暴走する生命の中心地――樹木と化した森の主の麓――を、まるで舞台のように照らし出していた。そこは、この儀式のためだけに清められた、即席の祭壇。アキオ、シルヴィア、アウロラの三人は、その中央で、静かに互いを見つめ合った。凛、クラウディア、キナの三人は、少し離れた場所から、固唾をのんでその様子を見守っている。

 儀式は、アウロラがアキオの前に進み出て、その額に自らの額をそっと合わせることから始まった。
「アキオ…わらわの力を、受け取りなさい」
 アウロラの閉じた瞳から、凝縮された聖なる光が溢れ出し、アキオの魂へと直接流れ込んでいく。彼の全身から、これまでにないほどの、黄金色のオーラが立ち上った。

 次に、その聖なる力をその身に宿したアキオが、シルヴィアの手を取った。
「シルヴィア、君の知恵を貸してくれ」
 アキオから流れ込む黄金の光と、シルヴィア自身の森の叡智を宿した翠の光が絡み合い、一つの巨大な光の渦となっていく。ハイエルフである彼女は、二つの強大な力を調和させ、より精緻で、安定したエネルギーへと昇華させるための、完璧な器となった。

 そして、儀式の最後の仕上げ。
 アキオとアウロラ、そしてシルヴィアの三人が手を取り合い、一つの輪を作った。
 三つの魂が完全に一つに融合した瞬間、天を突くほどの壮大な光の柱が立ち上った。金と銀、そして翠の三色の光が螺旋を描きながら絡み合い、その場にいる者たちの魂を震わせる。
 シルヴィアとアウロラの二人は、その融合した力をその身に宿したまま、暴走する森の主(樹木)の幹に、そっと手を触れた。
 次の瞬間、二人の身体から、三色の光が溢れ出し、巨大な奔流となって、樹木へと注ぎ込まれていく。暴走していた生命力は、その聖なる光に触れ、浄化され、そして調和の取れた、穏やかで、しかし遥かに強力な「神聖な力」へと昇華していった。
 樹木は、その姿をさらに変え、その幹は白銀に、葉はオーロラのように輝きを放つ、まさに「神聖樹」と呼ぶべき存在へと生まれ変わった。

 儀式を見守っていた凛、クラウディア、キナの三人の前に、シルヴィアが、儀式の余剰エネルギーが結晶化した、美しく輝く「生命の雫」が満たされた水晶の小瓶を手に、歩み寄った。
「これは、アキオと、わたくしたちの魂の欠片。これを分かち合うことで、貴女たちもまた、この聖域と、そしてアキオと、より深く結ばれることでしょう」
 凛、クラウディア、キナもまた、その恩恵を授かり、彼女たちの魂は、アキオと、そして姉妹たちと、より強く結びついた。

 その時、昇華した神聖樹から、穏やかで、そして威厳に満ちた、女性のような声が、アキオたちの心に直接響いた。
『…我が名は、アルクス・ヴィリディス。この森の、そして貴方様の道の、守護者です…』
 そして、アルクス・ヴィリディスは、その枝から、ひときわ神々しい光を放つ、たった一つの「神聖なる実」を落とし、アキオに託した。それを手にした瞬間、アキオ自身の能力もまた、さらなる高みへと引き上げられていくのを感じるのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...