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第278話:エルドリアの光、そして二人の聖母
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アキオたちが、北の侯爵領を目指して旅立ってから、一月が過ぎた。
その頃、遠く離れたエルドリア王国の新しい王都では、二人の女性が、それぞれの戦場で、国の未来をその両肩に背負っていた。一人は、王女セレスティーナ。もう一人は、女騎士レオノーラ。彼女たちは、アキオの第三、第四夫人であり、そして、この国の復興を担う、二人の聖母でもあった。
その日の午前、王宮の評議会室は、緊張した空気に包まれていた。
「兄上、東部の第三農業区画への、食料配給を増やすべきです。あそこの民は、先の戦で最も疲弊し、そして、最も多くの働き手を失いました。目先の収穫量だけを考えれば非効率に見えても、まず、民の心を、その胃袋を満たすことこそが、復興の第一歩ですわ」
セレスティーナは、弟であるクリストフ王子と、集まった重臣たちを前に、凛とした、しかし慈愛に満ちた声で進言した。その言葉には、かつてのアキオの町で学んだ、「民を第一に考える」という、統治の真髄が込められている。
「しかし、姉上…」
「ええ、分かっています。西部の貴族たちが、自らの領地の収穫を優先しろと、圧力をかけてきているのでしょう。ですが、兄上。力で民を支配した、父の時代の過ちを、繰り返してはなりません。アキオ様ならば、きっと、こう仰るはずです。『働く者、そして、明日を信じる者が、腹を空かせるような国に、未来はない』と」
その言葉に、クリストフ王子は、迷いを振り払うように、力強く頷いた。アキオの不在は、逆に、彼の教えが、この国の指導者たちの心に、深く根付いていることを証明していた。
一方、王都の城壁の外にある、広大な練兵場。そこでは、レオノーラの、鋼のように鋭い声が響き渡っていた。
「だらしないぞ! 剣を振るのではない! その剣で、誰を、何を守るのか、その意志を刃に乗せろ!」
彼女は、新生エルドリア騎士団の、若き騎士たちを、容赦なく鍛え上げていた。その訓練は、ただ厳しいだけではない。騎士としての誇りと、そして何よりも、民を守るという、聖域で学んだ絶対的な信念を、彼らの魂に叩き込んでいた。
「我らは、もはや、誰かを支配するための力ではない! この国の、か弱き者たちの、最後の盾となるための力だ! それを忘れた者は、今すぐこの場を去れ!」
レオノーラのその姿は、もはや単なる女騎士ではない。国の未来を守る、気高き守護神そのものだった。
それぞれの「仕事」を終えた昼下がり。二人は、王宮の一角に設けられた、アキオたちが創造してくれた「小さな聖域」で、落ち合った。
そこでは、二人の母親の帰りを、子供たちが、今か今かと待ちわびていた。
「おかあさま!」
ステラとエルザが、二人の元へと駆け寄ってくる。セレスティーナとレオノーラは、それぞれの娘を、力強く、そして愛おしそうに抱きしめた。少し離れた場所では、エドワードとライナスが、聖域を守護する、鹿に似た成体の聖霊獣に、おそるおそる、しかし興味深そうに、木の葉を与えている。
白銀に輝く生命樹の若木の下で、子供たちは、驚くほど健やかに、そして快活に育っていた。その肌は艶やかで、瞳は、希望の光に満ちている。戦乱の傷跡が色濃く残るこの国で、この一角だけが、まるで別世界のような、生命の喜びに満ち溢れていた。
セレスティーナとレオノーラは、ベンチに腰掛け、そんな子供たちの姿を、穏やかな表情で見つめていた。
「レオノーラ…時々、不思議に思うのです。わたくしたちは、あの方の隣ではなく、こうして遠い地で、国のために尽くしている。…でも、少しも、心が離れている気がしないの」
「ええ、セレスティーナ様。私もです。あの方からいただいた、この子たちと、この聖域、そして『白百合』…。あの方は、その魂の最も大切な部分を、ここに置いていってくださったのですから」
二人は、互いの手を取り合った。アキオの妻として、そして、この国の未来を担う同志として、その絆は、誰よりも深く、そして固い。
「おかあさま、あれ、乗りたいです!」
ステラが、指差したのは、王宮の厩舎に、大切に保管されている、魔導車『白百合』だった。
「ふふ、仕方がありませんわね」
その日の午後、二人の聖母は、子供たちを連れて、『白百合』で、復興が進む王都の視察へと出かけた。
音もなく、滑るように走る、白く優美な魔導車。その大きなガラス窓から、王家の子供たちが、嬉しそうに外を眺めている。その光景は、王都の民たちにとって、何よりも雄弁な、希望の象徴だった。彼らは、その奇跡の乗り物と、輝くような子供たちの姿に、エルドリアの明るい未来を、確かに見ていた。
セレスティーナは、後部座席で、眠ってしまった我が子を抱きしめながら、遠い聖域にいる、愛しい夫を想う。
(あなた。わたくしたちは、大丈夫です。貴方が与えてくださった、この光と、この愛がある限り、わたくしたちは、この国を、必ずや、守り抜いてみせますわ)
彼女のその誓いは、風に乗り、そして、生命樹の脈動を通じて、遥か北の大地を目指す、愛する夫の元へと、確かに届けられているのかもしれなかった。
その頃、遠く離れたエルドリア王国の新しい王都では、二人の女性が、それぞれの戦場で、国の未来をその両肩に背負っていた。一人は、王女セレスティーナ。もう一人は、女騎士レオノーラ。彼女たちは、アキオの第三、第四夫人であり、そして、この国の復興を担う、二人の聖母でもあった。
その日の午前、王宮の評議会室は、緊張した空気に包まれていた。
「兄上、東部の第三農業区画への、食料配給を増やすべきです。あそこの民は、先の戦で最も疲弊し、そして、最も多くの働き手を失いました。目先の収穫量だけを考えれば非効率に見えても、まず、民の心を、その胃袋を満たすことこそが、復興の第一歩ですわ」
セレスティーナは、弟であるクリストフ王子と、集まった重臣たちを前に、凛とした、しかし慈愛に満ちた声で進言した。その言葉には、かつてのアキオの町で学んだ、「民を第一に考える」という、統治の真髄が込められている。
「しかし、姉上…」
「ええ、分かっています。西部の貴族たちが、自らの領地の収穫を優先しろと、圧力をかけてきているのでしょう。ですが、兄上。力で民を支配した、父の時代の過ちを、繰り返してはなりません。アキオ様ならば、きっと、こう仰るはずです。『働く者、そして、明日を信じる者が、腹を空かせるような国に、未来はない』と」
その言葉に、クリストフ王子は、迷いを振り払うように、力強く頷いた。アキオの不在は、逆に、彼の教えが、この国の指導者たちの心に、深く根付いていることを証明していた。
一方、王都の城壁の外にある、広大な練兵場。そこでは、レオノーラの、鋼のように鋭い声が響き渡っていた。
「だらしないぞ! 剣を振るのではない! その剣で、誰を、何を守るのか、その意志を刃に乗せろ!」
彼女は、新生エルドリア騎士団の、若き騎士たちを、容赦なく鍛え上げていた。その訓練は、ただ厳しいだけではない。騎士としての誇りと、そして何よりも、民を守るという、聖域で学んだ絶対的な信念を、彼らの魂に叩き込んでいた。
「我らは、もはや、誰かを支配するための力ではない! この国の、か弱き者たちの、最後の盾となるための力だ! それを忘れた者は、今すぐこの場を去れ!」
レオノーラのその姿は、もはや単なる女騎士ではない。国の未来を守る、気高き守護神そのものだった。
それぞれの「仕事」を終えた昼下がり。二人は、王宮の一角に設けられた、アキオたちが創造してくれた「小さな聖域」で、落ち合った。
そこでは、二人の母親の帰りを、子供たちが、今か今かと待ちわびていた。
「おかあさま!」
ステラとエルザが、二人の元へと駆け寄ってくる。セレスティーナとレオノーラは、それぞれの娘を、力強く、そして愛おしそうに抱きしめた。少し離れた場所では、エドワードとライナスが、聖域を守護する、鹿に似た成体の聖霊獣に、おそるおそる、しかし興味深そうに、木の葉を与えている。
白銀に輝く生命樹の若木の下で、子供たちは、驚くほど健やかに、そして快活に育っていた。その肌は艶やかで、瞳は、希望の光に満ちている。戦乱の傷跡が色濃く残るこの国で、この一角だけが、まるで別世界のような、生命の喜びに満ち溢れていた。
セレスティーナとレオノーラは、ベンチに腰掛け、そんな子供たちの姿を、穏やかな表情で見つめていた。
「レオノーラ…時々、不思議に思うのです。わたくしたちは、あの方の隣ではなく、こうして遠い地で、国のために尽くしている。…でも、少しも、心が離れている気がしないの」
「ええ、セレスティーナ様。私もです。あの方からいただいた、この子たちと、この聖域、そして『白百合』…。あの方は、その魂の最も大切な部分を、ここに置いていってくださったのですから」
二人は、互いの手を取り合った。アキオの妻として、そして、この国の未来を担う同志として、その絆は、誰よりも深く、そして固い。
「おかあさま、あれ、乗りたいです!」
ステラが、指差したのは、王宮の厩舎に、大切に保管されている、魔導車『白百合』だった。
「ふふ、仕方がありませんわね」
その日の午後、二人の聖母は、子供たちを連れて、『白百合』で、復興が進む王都の視察へと出かけた。
音もなく、滑るように走る、白く優美な魔導車。その大きなガラス窓から、王家の子供たちが、嬉しそうに外を眺めている。その光景は、王都の民たちにとって、何よりも雄弁な、希望の象徴だった。彼らは、その奇跡の乗り物と、輝くような子供たちの姿に、エルドリアの明るい未来を、確かに見ていた。
セレスティーナは、後部座席で、眠ってしまった我が子を抱きしめながら、遠い聖域にいる、愛しい夫を想う。
(あなた。わたくしたちは、大丈夫です。貴方が与えてくださった、この光と、この愛がある限り、わたくしたちは、この国を、必ずや、守り抜いてみせますわ)
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