284 / 400
第284話:未来への布石、そして聖域の評議会
しおりを挟む
聖域が、新しい命の誕生と、その胎動への、かつてないほどの祝福に満ちていた、その翌日。アキオは、その一日を、第二夫人であるキナと、二人きりで過ごすことに決めていた。
普段、彼女とは、狩りの成果を共に喜んだり、子供たちの成長について語り合ったりすることはあっても、他の妻たちのように、甘い時間を過ごすことは、あまりなかった。だからこそ、アキオは、この機会を大切にしたいと思っていたのだ。
「だ、だんな…その…なんだ、改まって二人きりってのは、どうも、照れるな…」
朝、アキオが、彼女の部屋を訪れると、キナは、いつもの快活さはどこへやら、顔を真っ赤にして、もじもじとしていた。その、普段は見せない、少女のような仕草に、アキオは、思わず笑みをこぼした。
「何を言ってるんだ。お前は、俺の大切な妻だろう。今日は、誰にも邪魔されん。お前と、ゆっくり過ごしたい」
アキオは、キナを連れて、彼女が一番好きだと言っていた、森の奥にある、静かな湖へと向かった。そこで、二人で釣りをし、キナがその場で仕留めた魚を、アキオが焚き火で焼いて食べる。他愛のない会話、穏やかな時間。だが、キナにとっては、それが、何よりも満ち足りた、幸福な時間だった。
その夜、二人は、湖畔の月明かりの下で、結ばれた。あまりこういう事をしなかったので、キナは、最初こそ恥ずかしがっていたが、やがて、その野性的な本能の全てで、夫の愛に応えていく。それは、彼女の魂が、再び、アキオという唯一無二の雄に、完全に満たされる、情熱的な一夜となった。
そして、その翌日。
アキオは、新・中央館の、最も大きな会議室に、町の主要メンバー全員を招集した。その顔ぶれは、もはや、ただの村の寄り合いではない。一つの独立国家の、最高意思決定機関——「聖域評議会」と呼ぶにふさわしいものだった。
アキオと、その隣に座る、六人の妻たち。そして、皇女リリアーナと、侯爵令嬢シャルロッテも、オブザーバーとして、その末席に座っている。対面には、町の各部門の責任者である、ドルガン親方、カイ、アルト、ケンタといった、若きリーダーたちが、緊張した面持ちで並んでいた。
アキオは、静かに、そして重々しく、口を開いた。
「皆、集まってくれてありがとう。今日は、俺たちの、この聖域の、未来について、皆の知恵を借りたい」
アキオは、まず、今回の旅の成果——スタンフィールド侯爵との、揺るぎない盟約が結ばれたこと、そして、聖域街道の建設が、本格的に始動したこと——を報告した。
「街道は、子爵や侯爵、そしていずれはエルドリアが、総力を挙げて建設してくれるだろう。だが、問題は、その先だ」
アキオは、議題を切り出した。
「侯爵閣下経由で、おそらく、遠くない未来に、王都へ、我々の聖域と、魔導車の情報が、正式に伝わることになるだろう。そうなった時、我々は、どう対応すべきか」
会議室が、静まり返る。
最初に口を開いたのは、凛だった。
「まず、魔導車の増産は、急務です。王都から、必ずや、数台、あるいはそれ以上の数を、所望されることになるでしょう。ドルガン親方、現在の生産能力は?」
「うむ…」ドルガン親方が、腕を組んで唸る。「アキオ鋼の生産は順調じゃ。じゃが、あの心臓部となる、魔石エンジンの組み立ては、ワシと、数人の弟子しかできん。月産二台が、せいぜいじゃろうな」
次に、クラウディアが、より深刻な問題を提起した。
「問題は、聖域の、この『祝福』の技術ですわ。子を死なさずに済む、画期的な情報。そして、土地を、病に強く、豊かにする力。この情報が王家に伝われば、彼らは、必ずや、その技術の提供を求めてくるでしょう。国内の全ての土地に、『聖域を設置せよ』と」
その言葉に、誰もが息をのんだ。
「下手に断れば、王家との間に、深刻な争いを生みかねません。ですが、この力は、アキオ様と、アウロラ様、シルヴィア様の、魂そのもの。安易に拡散できるものではない…。我々は、何処まで、こちらの情報を開示し、そして、何処まで、対策を講じるべきか、今から、真剣に悩んでおく必要があります」
その時、これまで沈黙を守っていた、皇女リリアーナが、静かに、しかし、その場にいる誰もが聞き入る、冷徹な声で、口を開いた。
「…一つ、よろしいでしょうか」
全ての視線が、彼女に集まる。
「王家、そして貴族というものを、甘く見てはなりません。彼らは、一度、その力の味を知れば、必ずや、その全てを欲しがるでしょう。友好や、感謝などという、甘い言葉は、何の保証にもなりません。貴方たちが、今、備えるべきは、『交渉』のカードではなく、『戦争』への備えです」
元皇女の、その、あまりにも現実的で、そして重い言葉。
聖域は、その幸福な日常の裏で、すぐそこまで迫ってきている、巨大な外部世界との、避けられぬ衝突の未来を、初めて、明確に意識させられるのだった。
普段、彼女とは、狩りの成果を共に喜んだり、子供たちの成長について語り合ったりすることはあっても、他の妻たちのように、甘い時間を過ごすことは、あまりなかった。だからこそ、アキオは、この機会を大切にしたいと思っていたのだ。
「だ、だんな…その…なんだ、改まって二人きりってのは、どうも、照れるな…」
朝、アキオが、彼女の部屋を訪れると、キナは、いつもの快活さはどこへやら、顔を真っ赤にして、もじもじとしていた。その、普段は見せない、少女のような仕草に、アキオは、思わず笑みをこぼした。
「何を言ってるんだ。お前は、俺の大切な妻だろう。今日は、誰にも邪魔されん。お前と、ゆっくり過ごしたい」
アキオは、キナを連れて、彼女が一番好きだと言っていた、森の奥にある、静かな湖へと向かった。そこで、二人で釣りをし、キナがその場で仕留めた魚を、アキオが焚き火で焼いて食べる。他愛のない会話、穏やかな時間。だが、キナにとっては、それが、何よりも満ち足りた、幸福な時間だった。
その夜、二人は、湖畔の月明かりの下で、結ばれた。あまりこういう事をしなかったので、キナは、最初こそ恥ずかしがっていたが、やがて、その野性的な本能の全てで、夫の愛に応えていく。それは、彼女の魂が、再び、アキオという唯一無二の雄に、完全に満たされる、情熱的な一夜となった。
そして、その翌日。
アキオは、新・中央館の、最も大きな会議室に、町の主要メンバー全員を招集した。その顔ぶれは、もはや、ただの村の寄り合いではない。一つの独立国家の、最高意思決定機関——「聖域評議会」と呼ぶにふさわしいものだった。
アキオと、その隣に座る、六人の妻たち。そして、皇女リリアーナと、侯爵令嬢シャルロッテも、オブザーバーとして、その末席に座っている。対面には、町の各部門の責任者である、ドルガン親方、カイ、アルト、ケンタといった、若きリーダーたちが、緊張した面持ちで並んでいた。
アキオは、静かに、そして重々しく、口を開いた。
「皆、集まってくれてありがとう。今日は、俺たちの、この聖域の、未来について、皆の知恵を借りたい」
アキオは、まず、今回の旅の成果——スタンフィールド侯爵との、揺るぎない盟約が結ばれたこと、そして、聖域街道の建設が、本格的に始動したこと——を報告した。
「街道は、子爵や侯爵、そしていずれはエルドリアが、総力を挙げて建設してくれるだろう。だが、問題は、その先だ」
アキオは、議題を切り出した。
「侯爵閣下経由で、おそらく、遠くない未来に、王都へ、我々の聖域と、魔導車の情報が、正式に伝わることになるだろう。そうなった時、我々は、どう対応すべきか」
会議室が、静まり返る。
最初に口を開いたのは、凛だった。
「まず、魔導車の増産は、急務です。王都から、必ずや、数台、あるいはそれ以上の数を、所望されることになるでしょう。ドルガン親方、現在の生産能力は?」
「うむ…」ドルガン親方が、腕を組んで唸る。「アキオ鋼の生産は順調じゃ。じゃが、あの心臓部となる、魔石エンジンの組み立ては、ワシと、数人の弟子しかできん。月産二台が、せいぜいじゃろうな」
次に、クラウディアが、より深刻な問題を提起した。
「問題は、聖域の、この『祝福』の技術ですわ。子を死なさずに済む、画期的な情報。そして、土地を、病に強く、豊かにする力。この情報が王家に伝われば、彼らは、必ずや、その技術の提供を求めてくるでしょう。国内の全ての土地に、『聖域を設置せよ』と」
その言葉に、誰もが息をのんだ。
「下手に断れば、王家との間に、深刻な争いを生みかねません。ですが、この力は、アキオ様と、アウロラ様、シルヴィア様の、魂そのもの。安易に拡散できるものではない…。我々は、何処まで、こちらの情報を開示し、そして、何処まで、対策を講じるべきか、今から、真剣に悩んでおく必要があります」
その時、これまで沈黙を守っていた、皇女リリアーナが、静かに、しかし、その場にいる誰もが聞き入る、冷徹な声で、口を開いた。
「…一つ、よろしいでしょうか」
全ての視線が、彼女に集まる。
「王家、そして貴族というものを、甘く見てはなりません。彼らは、一度、その力の味を知れば、必ずや、その全てを欲しがるでしょう。友好や、感謝などという、甘い言葉は、何の保証にもなりません。貴方たちが、今、備えるべきは、『交渉』のカードではなく、『戦争』への備えです」
元皇女の、その、あまりにも現実的で、そして重い言葉。
聖域は、その幸福な日常の裏で、すぐそこまで迫ってきている、巨大な外部世界との、避けられぬ衝突の未来を、初めて、明確に意識させられるのだった。
43
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
家ごと異世界ライフ
もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる