五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第284話:未来への布石、そして聖域の評議会

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 聖域が、新しい命の誕生と、その胎動への、かつてないほどの祝福に満ちていた、その翌日。アキオは、その一日を、第二夫人であるキナと、二人きりで過ごすことに決めていた。
 普段、彼女とは、狩りの成果を共に喜んだり、子供たちの成長について語り合ったりすることはあっても、他の妻たちのように、甘い時間を過ごすことは、あまりなかった。だからこそ、アキオは、この機会を大切にしたいと思っていたのだ。

「だ、だんな…その…なんだ、改まって二人きりってのは、どうも、照れるな…」
 朝、アキオが、彼女の部屋を訪れると、キナは、いつもの快活さはどこへやら、顔を真っ赤にして、もじもじとしていた。その、普段は見せない、少女のような仕草に、アキオは、思わず笑みをこぼした。
「何を言ってるんだ。お前は、俺の大切な妻だろう。今日は、誰にも邪魔されん。お前と、ゆっくり過ごしたい」
 アキオは、キナを連れて、彼女が一番好きだと言っていた、森の奥にある、静かな湖へと向かった。そこで、二人で釣りをし、キナがその場で仕留めた魚を、アキオが焚き火で焼いて食べる。他愛のない会話、穏やかな時間。だが、キナにとっては、それが、何よりも満ち足りた、幸福な時間だった。
 その夜、二人は、湖畔の月明かりの下で、結ばれた。あまりこういう事をしなかったので、キナは、最初こそ恥ずかしがっていたが、やがて、その野性的な本能の全てで、夫の愛に応えていく。それは、彼女の魂が、再び、アキオという唯一無二の雄に、完全に満たされる、情熱的な一夜となった。

 そして、その翌日。
 アキオは、新・中央館の、最も大きな会議室に、町の主要メンバー全員を招集した。その顔ぶれは、もはや、ただの村の寄り合いではない。一つの独立国家の、最高意思決定機関——「聖域評議会」と呼ぶにふさわしいものだった。
 アキオと、その隣に座る、六人の妻たち。そして、皇女リリアーナと、侯爵令嬢シャルロッテも、オブザーバーとして、その末席に座っている。対面には、町の各部門の責任者である、ドルガン親方、カイ、アルト、ケンタといった、若きリーダーたちが、緊張した面持ちで並んでいた。

 アキオは、静かに、そして重々しく、口を開いた。
「皆、集まってくれてありがとう。今日は、俺たちの、この聖域の、未来について、皆の知恵を借りたい」
 アキオは、まず、今回の旅の成果——スタンフィールド侯爵との、揺るぎない盟約が結ばれたこと、そして、聖域街道の建設が、本格的に始動したこと——を報告した。
「街道は、子爵や侯爵、そしていずれはエルドリアが、総力を挙げて建設してくれるだろう。だが、問題は、その先だ」

 アキオは、議題を切り出した。
「侯爵閣下経由で、おそらく、遠くない未来に、王都へ、我々の聖域と、魔導車の情報が、正式に伝わることになるだろう。そうなった時、我々は、どう対応すべきか」
 会議室が、静まり返る。
 最初に口を開いたのは、凛だった。
「まず、魔導車の増産は、急務です。王都から、必ずや、数台、あるいはそれ以上の数を、所望されることになるでしょう。ドルガン親方、現在の生産能力は?」
「うむ…」ドルガン親方が、腕を組んで唸る。「アキオ鋼の生産は順調じゃ。じゃが、あの心臓部となる、魔石エンジンの組み立ては、ワシと、数人の弟子しかできん。月産二台が、せいぜいじゃろうな」

 次に、クラウディアが、より深刻な問題を提起した。
「問題は、聖域の、この『祝福』の技術ですわ。子を死なさずに済む、画期的な情報。そして、土地を、病に強く、豊かにする力。この情報が王家に伝われば、彼らは、必ずや、その技術の提供を求めてくるでしょう。国内の全ての土地に、『聖域を設置せよ』と」
 その言葉に、誰もが息をのんだ。
「下手に断れば、王家との間に、深刻な争いを生みかねません。ですが、この力は、アキオ様と、アウロラ様、シルヴィア様の、魂そのもの。安易に拡散できるものではない…。我々は、何処まで、こちらの情報を開示し、そして、何処まで、対策を講じるべきか、今から、真剣に悩んでおく必要があります」

 その時、これまで沈黙を守っていた、皇女リリアーナが、静かに、しかし、その場にいる誰もが聞き入る、冷徹な声で、口を開いた。
「…一つ、よろしいでしょうか」
 全ての視線が、彼女に集まる。
「王家、そして貴族というものを、甘く見てはなりません。彼らは、一度、その力の味を知れば、必ずや、その全てを欲しがるでしょう。友好や、感謝などという、甘い言葉は、何の保証にもなりません。貴方たちが、今、備えるべきは、『交渉』のカードではなく、『戦争』への備えです」
 元皇女の、その、あまりにも現実的で、そして重い言葉。
 聖域は、その幸福な日常の裏で、すぐそこまで迫ってきている、巨大な外部世界との、避けられぬ衝突の未来を、初めて、明確に意識させられるのだった。
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