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第285話:王都からの報せ、そして切れ者の「一手」
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皇女リリアーナが提言した、「戦争への備え」。その、あまりにも重い言葉は、聖域の評議会に、深い沈黙と、未来への漠然とした不安を残した。アキオの町は、その誕生以来、初めて、外部世界との、避けられぬ衝突の可能性を、現実のものとして意識させられたのだ。
その、重苦しい空気が、町全体を覆い始めてから、数日が過ぎた、ある日の午後だった。
突如として、町の外から、聞き慣れた、しかし今は場違いなほどに陽気な、魔導車のエンジン音が響き渡った。見張り台にいた若者が、慌てて鐘を鳴らす。
「大変だ! スタンフィールド侯爵閣下が、お一人で、魔導車でお見えになったぞ!」
その報せに、アキオたちは、急いで中央館の外へと駆け出した。そこにいたのは、アキオの『試作一号機』を、誇らしげに乗り回してきた、スタンフィールド侯爵、その人だった。
「がっはっはっは! アキオ殿、突然すまんな! 王都から、急ぎの報せがあってな! 何、心配するな。悪い話ではないわい!」
侯爵は、その巨躯を揺らしながら、豪快に笑う。その顔には、いつものような、子供じみた好奇心と、そして、何か、とてつもなく面白いものを見つけたかのような、悪戯っぽい輝きが浮かんでいた。
中央館の会議室。アキオと妻たち、そして、リリアーナとシャルロッテが、固唾をのんで、侯爵の言葉を待っていた。
「うむ。先日、王都へ参内し、陛下に、君たちの聖域と、魔導車の件、そして、我が領地に、新たに聖域を創造していただいた件を、正式に報告してきた。いやはや、陛下は、驚いておられたわい! そして、それはもう、大変フレンドリーなご対応でな!」
侯爵は、そう言って、満足げに胸を張る。だが、その言葉は少し足りず、凛とクラウディアは、その「フレンドリー」という言葉の裏に、何か、計り知れない政治的な意図が隠されているのを、敏感に感じ取っていた。
リリアーナが、冷徹な声で、核心を突いた。
「…して、侯爵閣下。国王陛下は、我々聖域に、何を求めておられるのですか? 派兵か、あるいは、技術の全面的な献上か」
「うむ? いや、そのような物騒な話は、一言も出ておらんぞ、皇女殿」
侯爵は、こともなげに言うと、国王からの、驚くべき提案の内容を、語り始めた。
「まず、陛下は、アキオ殿の聖域が、この国の、いかなる法にも縛られぬ、完全な自治領であることを、王家の名において、正式に保証する、と。そして、聖域の今の暮らしを、未来永劫、誰にも脅かさせぬと、約束してくださった」
「…なんですって?」
リリアーナが、信じられないというように、目を見開く。
「次に、魔導車じゃ。陛下は、あの乗り物を、いたく気に入られた。ついては、今後、安定的に、王家と、そして我がスタンフィールド家、ヴァルト子爵家に、優先的に供給してほしい、と。もちろん、対価は、望むままに支払う、と仰せだ。金でも、物資でも、あるいは、貴族の爵位でも、な」
そして、侯爵は、最大の爆弾を投下した。
「そして、じゃ。これは、陛下からの、最大の誠意の証、とのことだ。アキオ殿、君に、陛下の、ただ一人の愛娘…近隣諸国にまで、その美貌が轟く、第一王女殿を、妻として差し出す、と」
会議室が、水を打ったように静まり返る。
皇女の心配は、杞憂に終わった。いや、もっと、性質の悪い形で、現実となったのだ。国王は、武力で聖域を支配するのではなく、婚姻という、最も古く、そして最も強力な楔を打ち込むことで、その技術者ごと、聖域を丸ごと囲い込むという、恐ろしく、そしてかなりの切れ者でなければ打てない、一手を選んだのだ。
「…というわけじゃ! この件について、近々、我が領地で、改めて会談の場を設ける、と、陛下は、一方的に決めてしまわれたわい! いやあ、楽しみじゃのう!」
侯爵は、そう言うと、「わしは、この『試作一号機』の、予備のバッテリーを貰いに来ただけでの! では、さらばじゃ!」と、嵐のように去っていった。
残された会議室で、アキオと妻たちは、ただ、呆然としていた。
「…王女、ですって…?」
「アキオ様が、王家の、婿に…?」
妻たちの、不安そうな声。
リリアーナは、静かに、しかし、その声に僅かな震えを滲ませながら、呟いた。
「…やられたわ。完敗よ。国王は、戦わずして、聖域の全てを、手に入れようとしている。これほど、厄介な相手はいない…」
アキオは、もはや、何が何だか、分からなかった。
ただ、スローライフを送りたいだけだったはずが、いつの間にか、自分は、この国の、王女の婿候補として、歴史の表舞台の、ど真ん中に、立たされてしまっていたのだ。
その、重苦しい空気が、町全体を覆い始めてから、数日が過ぎた、ある日の午後だった。
突如として、町の外から、聞き慣れた、しかし今は場違いなほどに陽気な、魔導車のエンジン音が響き渡った。見張り台にいた若者が、慌てて鐘を鳴らす。
「大変だ! スタンフィールド侯爵閣下が、お一人で、魔導車でお見えになったぞ!」
その報せに、アキオたちは、急いで中央館の外へと駆け出した。そこにいたのは、アキオの『試作一号機』を、誇らしげに乗り回してきた、スタンフィールド侯爵、その人だった。
「がっはっはっは! アキオ殿、突然すまんな! 王都から、急ぎの報せがあってな! 何、心配するな。悪い話ではないわい!」
侯爵は、その巨躯を揺らしながら、豪快に笑う。その顔には、いつものような、子供じみた好奇心と、そして、何か、とてつもなく面白いものを見つけたかのような、悪戯っぽい輝きが浮かんでいた。
中央館の会議室。アキオと妻たち、そして、リリアーナとシャルロッテが、固唾をのんで、侯爵の言葉を待っていた。
「うむ。先日、王都へ参内し、陛下に、君たちの聖域と、魔導車の件、そして、我が領地に、新たに聖域を創造していただいた件を、正式に報告してきた。いやはや、陛下は、驚いておられたわい! そして、それはもう、大変フレンドリーなご対応でな!」
侯爵は、そう言って、満足げに胸を張る。だが、その言葉は少し足りず、凛とクラウディアは、その「フレンドリー」という言葉の裏に、何か、計り知れない政治的な意図が隠されているのを、敏感に感じ取っていた。
リリアーナが、冷徹な声で、核心を突いた。
「…して、侯爵閣下。国王陛下は、我々聖域に、何を求めておられるのですか? 派兵か、あるいは、技術の全面的な献上か」
「うむ? いや、そのような物騒な話は、一言も出ておらんぞ、皇女殿」
侯爵は、こともなげに言うと、国王からの、驚くべき提案の内容を、語り始めた。
「まず、陛下は、アキオ殿の聖域が、この国の、いかなる法にも縛られぬ、完全な自治領であることを、王家の名において、正式に保証する、と。そして、聖域の今の暮らしを、未来永劫、誰にも脅かさせぬと、約束してくださった」
「…なんですって?」
リリアーナが、信じられないというように、目を見開く。
「次に、魔導車じゃ。陛下は、あの乗り物を、いたく気に入られた。ついては、今後、安定的に、王家と、そして我がスタンフィールド家、ヴァルト子爵家に、優先的に供給してほしい、と。もちろん、対価は、望むままに支払う、と仰せだ。金でも、物資でも、あるいは、貴族の爵位でも、な」
そして、侯爵は、最大の爆弾を投下した。
「そして、じゃ。これは、陛下からの、最大の誠意の証、とのことだ。アキオ殿、君に、陛下の、ただ一人の愛娘…近隣諸国にまで、その美貌が轟く、第一王女殿を、妻として差し出す、と」
会議室が、水を打ったように静まり返る。
皇女の心配は、杞憂に終わった。いや、もっと、性質の悪い形で、現実となったのだ。国王は、武力で聖域を支配するのではなく、婚姻という、最も古く、そして最も強力な楔を打ち込むことで、その技術者ごと、聖域を丸ごと囲い込むという、恐ろしく、そしてかなりの切れ者でなければ打てない、一手を選んだのだ。
「…というわけじゃ! この件について、近々、我が領地で、改めて会談の場を設ける、と、陛下は、一方的に決めてしまわれたわい! いやあ、楽しみじゃのう!」
侯爵は、そう言うと、「わしは、この『試作一号機』の、予備のバッテリーを貰いに来ただけでの! では、さらばじゃ!」と、嵐のように去っていった。
残された会議室で、アキオと妻たちは、ただ、呆然としていた。
「…王女、ですって…?」
「アキオ様が、王家の、婿に…?」
妻たちの、不安そうな声。
リリアーナは、静かに、しかし、その声に僅かな震えを滲ませながら、呟いた。
「…やられたわ。完敗よ。国王は、戦わずして、聖域の全てを、手に入れようとしている。これほど、厄介な相手はいない…」
アキオは、もはや、何が何だか、分からなかった。
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