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第286話:王女を巡る対抗策、そして聖域の結束
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スタンフィールド侯爵が、王都からの爆弾を投下し、嵐のように去っていった後。新・中央館の会議室は、これまでにないほどの、重い沈黙と、緊張感に包まれていた。王女との婚姻。それは、アキオ個人の問題ではなく、この聖域の独立と、未来そのものを揺るがす、王家からの、あまりにも巧みで、そして強力な「一手」だった。
「…とにかく、まずは、エルドリアに、この事を伝えなければ」
沈黙を破ったのは、アキオだった。
「ですが、アキオ様。エルドリアとの、確実な連絡手段は…」
凛のその言葉に、アキオは、傍らに控えていたアウロラとシルヴィアに、視線を向けた。
「アウロラ、シルヴィア。エルドリアに置いてきた、あの『小さな聖域』の生命樹と、ここの大樹は、魂で繋がっていると聞いている。その繋がりを利用して、俺たちの声を、セレスティーナたちに届けることはできないか?」
シルヴィアが、静かに頷いた。
「はい、アキオ。以前から、アウロラと共に、その可能性を探っておりました。聖域同士を、生命樹の魂で繋ぐ、新しい通信の仕組みですわ。まだ試運転の段階で、安定はしておりませんが…」
アウロラも、その言葉を引き継ぐ。
「うむ。先日、セレスティーナたちから、懐妊の報告があったじゃろう? あれは、この『生命樹の共鳴通信』のテスト中に、奇跡的に、ほんの僅かな時間だけ、声が繋がったものなのじゃ。今、この聖域の危機を、エルドリアに伝えるという、強い意志を持って臨めば、あるいは…」
こうして、聖域の、全く新しい通信手段が、その真価を問われる時が来た。
シルヴィアとアウロラが、中央館の、生命樹の根が最も力強く脈打つ部屋へと移動し、儀式の準備を始める。そして、数十分後。二人の聖女の力によって、エルドリアの「小さな聖域」との、魂の回線が、確かに繋がった。
エルドリアに、王家からの提案の全てが伝えられると、その応答は、アキオの想像を遥かに超えるほど、迅速で、そして劇的なものだった。
翌日の昼過ぎ、アキオの町の外から、魔導車『白百合』が、猛烈な速度で駆け込んでくるのが見えた。そして、その中から現れたのは、決意に満ちた表情のセレスティーナとレオノーラ、そして、その腕に抱かれた、四人の子供たちの姿だった。
「あなた! お話は、伺いましたわ!」
「アキオ、水臭いぞ! こんな大事な時に、私たちを呼ばないなんて!」
二人の妻は、アキオの胸に飛び込んできた。長旅の疲れも見せず、その瞳には、愛する夫を、そして自分たちの家族を、何者にも渡さないという、強い意志の光が宿っている。
その夜、緊急の「聖域大評議会」が、再び開かれた。今度は、エルドリアの二人の妻も加わって。
「国王陛下のお考え、見事なものですわ。ですが、一つ、大きな見落としがあります」
セレスティーナは、その場にいる全員を、王女としての威厳に満ちた瞳で見渡し、高らかに宣言した。
「アキオ様は、既に、エルドリアの王女を、その妻として娶っております。この、わたくし、セレスティーナ・フォン・エルドリアを、です! 他国の王が、エルドリア王家の娘婿に、重ねて自らの娘を嫁がせるなど、外交儀礼の上でも、前代未聞。これは、立派な対抗策となりましょう」
セレスティーナの、その鮮やかな一手に、皆が感嘆の声を漏らす。だが、そこで、これまで静かに戦況を見つめていた、もう一人の王女、リリアーナが、静かに口を開いた。
「…セレスティーナ様の策、見事です。ですが、相手は、それを承知の上で、なお、こちらの反応を見てくるでしょう。ならば、こちらも、もう一手、打つべきです」
リリアーナは、アキオに向き直った。
「アキオ様。貴方は、もはや、ただの村の長ではない。この際、貴方自身が、『聖域大公』を名乗り、この地を、王国ですらない、独立した『大公国』として、宣言するのです。そして、わたくし…亡国の皇女リリアーナが、その正統性を、大陸全土に向けて保証する。そうなれば、一介の国王が、軽々しく婚姻を口にできる相手ではなくなります」
エルドリア王女と、帝国皇女。二人の姫君が提示した、鮮やかで、そして大胆な対抗策。会議室は、その二つの策を巡って、侃々諤々の議論が交わされる。
アキオは、その高度な政治闘争に、少しだけ頭を痛めながらも、その対応を、凛とクラウディアに、そして、エルドリアの二人とリリアーナに、一任することを決めた。
「すまんが、そういう小難しい話は、君たちに任せる。俺は、俺にできることをやる」
アキオは、その足で、ドルガン親方の工房へと向かった。
「親方! 急ぎの仕事だ! 魔導車を、もう一台、急ぎで完成させてくれ! そして、俺たちが王都へ向かっている間に、さらにもう一台!」
「がっはっは! 任せておけい、アキオ! こういう、国を相手にした、でけえ話は、燃えるわい!」
親方は、その無茶な要求を、快諾すると、ドワーフたちと共に、喜び勇んで、製作現場へと消えていった。
その夜、新・中央館の、アキオ家の談話室では、久しぶりに、八人の妻全員が揃った「妻会」が開かれていた。それは、エルドリアから駆けつけた、二人の妹への、心からの歓迎会だった。
「セレスティーナ、レオノーラ、よく来てくれたな!」
「二人とも、大変だったでしょう。さあ、今日は、何もかも忘れて、ゆっくりなさいな」
妻たちは、互いの労をねぎらい、そして、夫を、この家族を、どう守っていくか、女たちだけの、固い、固い結束を、改めて誓い合うのだった。
そして、その頃。
遠く離れた、ヴァルト子爵領と、神聖樹『アルクス・ヴィリディス』が立つ、二つの「小さな聖域」。その、生命樹の若木の麓で、同時に、一つの奇跡が起きていた。
月光を浴びて、その空間から、まるで光の粒子が集まるようにして、一頭の、角を持つ、子鹿のような、小さな聖獣が、その姿を現したのだ。
聖域の祝福は、アキオの知らない場所でも、着実に、そして力強く、その領域を広げ、新しい守護者を生み出し始めていた。
王家との対決という、大きな試練を前に、アキオの聖域は、その総力を挙げ、そして、さらなる奇跡の胎動と共に、一つの大きな家族として、まとまろうとしていた。
「…とにかく、まずは、エルドリアに、この事を伝えなければ」
沈黙を破ったのは、アキオだった。
「ですが、アキオ様。エルドリアとの、確実な連絡手段は…」
凛のその言葉に、アキオは、傍らに控えていたアウロラとシルヴィアに、視線を向けた。
「アウロラ、シルヴィア。エルドリアに置いてきた、あの『小さな聖域』の生命樹と、ここの大樹は、魂で繋がっていると聞いている。その繋がりを利用して、俺たちの声を、セレスティーナたちに届けることはできないか?」
シルヴィアが、静かに頷いた。
「はい、アキオ。以前から、アウロラと共に、その可能性を探っておりました。聖域同士を、生命樹の魂で繋ぐ、新しい通信の仕組みですわ。まだ試運転の段階で、安定はしておりませんが…」
アウロラも、その言葉を引き継ぐ。
「うむ。先日、セレスティーナたちから、懐妊の報告があったじゃろう? あれは、この『生命樹の共鳴通信』のテスト中に、奇跡的に、ほんの僅かな時間だけ、声が繋がったものなのじゃ。今、この聖域の危機を、エルドリアに伝えるという、強い意志を持って臨めば、あるいは…」
こうして、聖域の、全く新しい通信手段が、その真価を問われる時が来た。
シルヴィアとアウロラが、中央館の、生命樹の根が最も力強く脈打つ部屋へと移動し、儀式の準備を始める。そして、数十分後。二人の聖女の力によって、エルドリアの「小さな聖域」との、魂の回線が、確かに繋がった。
エルドリアに、王家からの提案の全てが伝えられると、その応答は、アキオの想像を遥かに超えるほど、迅速で、そして劇的なものだった。
翌日の昼過ぎ、アキオの町の外から、魔導車『白百合』が、猛烈な速度で駆け込んでくるのが見えた。そして、その中から現れたのは、決意に満ちた表情のセレスティーナとレオノーラ、そして、その腕に抱かれた、四人の子供たちの姿だった。
「あなた! お話は、伺いましたわ!」
「アキオ、水臭いぞ! こんな大事な時に、私たちを呼ばないなんて!」
二人の妻は、アキオの胸に飛び込んできた。長旅の疲れも見せず、その瞳には、愛する夫を、そして自分たちの家族を、何者にも渡さないという、強い意志の光が宿っている。
その夜、緊急の「聖域大評議会」が、再び開かれた。今度は、エルドリアの二人の妻も加わって。
「国王陛下のお考え、見事なものですわ。ですが、一つ、大きな見落としがあります」
セレスティーナは、その場にいる全員を、王女としての威厳に満ちた瞳で見渡し、高らかに宣言した。
「アキオ様は、既に、エルドリアの王女を、その妻として娶っております。この、わたくし、セレスティーナ・フォン・エルドリアを、です! 他国の王が、エルドリア王家の娘婿に、重ねて自らの娘を嫁がせるなど、外交儀礼の上でも、前代未聞。これは、立派な対抗策となりましょう」
セレスティーナの、その鮮やかな一手に、皆が感嘆の声を漏らす。だが、そこで、これまで静かに戦況を見つめていた、もう一人の王女、リリアーナが、静かに口を開いた。
「…セレスティーナ様の策、見事です。ですが、相手は、それを承知の上で、なお、こちらの反応を見てくるでしょう。ならば、こちらも、もう一手、打つべきです」
リリアーナは、アキオに向き直った。
「アキオ様。貴方は、もはや、ただの村の長ではない。この際、貴方自身が、『聖域大公』を名乗り、この地を、王国ですらない、独立した『大公国』として、宣言するのです。そして、わたくし…亡国の皇女リリアーナが、その正統性を、大陸全土に向けて保証する。そうなれば、一介の国王が、軽々しく婚姻を口にできる相手ではなくなります」
エルドリア王女と、帝国皇女。二人の姫君が提示した、鮮やかで、そして大胆な対抗策。会議室は、その二つの策を巡って、侃々諤々の議論が交わされる。
アキオは、その高度な政治闘争に、少しだけ頭を痛めながらも、その対応を、凛とクラウディアに、そして、エルドリアの二人とリリアーナに、一任することを決めた。
「すまんが、そういう小難しい話は、君たちに任せる。俺は、俺にできることをやる」
アキオは、その足で、ドルガン親方の工房へと向かった。
「親方! 急ぎの仕事だ! 魔導車を、もう一台、急ぎで完成させてくれ! そして、俺たちが王都へ向かっている間に、さらにもう一台!」
「がっはっは! 任せておけい、アキオ! こういう、国を相手にした、でけえ話は、燃えるわい!」
親方は、その無茶な要求を、快諾すると、ドワーフたちと共に、喜び勇んで、製作現場へと消えていった。
その夜、新・中央館の、アキオ家の談話室では、久しぶりに、八人の妻全員が揃った「妻会」が開かれていた。それは、エルドリアから駆けつけた、二人の妹への、心からの歓迎会だった。
「セレスティーナ、レオノーラ、よく来てくれたな!」
「二人とも、大変だったでしょう。さあ、今日は、何もかも忘れて、ゆっくりなさいな」
妻たちは、互いの労をねぎらい、そして、夫を、この家族を、どう守っていくか、女たちだけの、固い、固い結束を、改めて誓い合うのだった。
そして、その頃。
遠く離れた、ヴァルト子爵領と、神聖樹『アルクス・ヴィリディス』が立つ、二つの「小さな聖域」。その、生命樹の若木の麓で、同時に、一つの奇跡が起きていた。
月光を浴びて、その空間から、まるで光の粒子が集まるようにして、一頭の、角を持つ、子鹿のような、小さな聖獣が、その姿を現したのだ。
聖域の祝福は、アキオの知らない場所でも、着実に、そして力強く、その領域を広げ、新しい守護者を生み出し始めていた。
王家との対決という、大きな試練を前に、アキオの聖域は、その総力を挙げ、そして、さらなる奇跡の胎動と共に、一つの大きな家族として、まとまろうとしていた。
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