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第291話:野生の女王、そして初めての涙
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アキオが、妻たち一人一人と、改めて深く向き合うと決めた、特別な十日間。アヤネとの、穏やかで、そして原点に立ち返るような一日を過ごした、その翌日。アキオは、第二夫人であるキナを、早朝、まだ薄暗い中、叩き起こした。
「キナ、起きろ。行くぞ」
「んあ…? だんな…? まだ、夜も明けてねえじゃねえか…どこへ行くんだよ…」
眠い目をこするキナに、アキオは、悪戯っぽく笑いかける。
「お前が、まだ誰にも見せたことがないっていう、最高の景色を、俺にも見せてくれ」
アキオが指し示したのは、聖域の、最も北にそびえ立つ、最も険しい岩山だった。その頂は、常に雲に隠れ、麓からでは、その全貌を窺い知ることさえできない。町の者たちの間では、「神々の庭」と呼ばれ、畏敬の念と共に、誰も近づこうとはしない場所。そこは、この聖域で、唯一、キナだけが、その神狼の脚力で、登りきることができる、彼女だけの「玉座」だった。
キナは、アキオのその言葉の真意を、すぐには理解できなかった。だが、夫の、その挑戦的な、そして楽しそうな瞳を見て、彼女の魂に、火が付かないはずはなかった。
「へっ、面白いじゃねえか、だんな! あんたが、あたしについてこれるってんなら、見せてやるよ! この聖域で、一番、天に近い場所をな!」
二人の、前代未聞の「デート」が始まった。
それは、甘い散歩などではない。ほとんど垂直に近い、切り立った崖を、己の肉体だけを頼りに登っていく、命がけの登山だった。キナは、獣のようなしなやかさで、岩から岩へと飛び移っていく。アキオもまた、その人間離れした身体能力と、棟梁としての、岩の僅かな亀裂も見逃さない、的確なルート判断で、一歩も遅れることなく、彼女に続いていく。
汗が噴き出し、息が切れる。だが、二人の間には、言葉はいらなかった。互いの呼吸、互いの動き、その全てが、二人だけの、特別な会話となっていた。それは、アキオとキナという、二人の野生の魂が、最も純粋な形で共鳴し合う、最高の時間だった。
数時間後。二人は、ついに、雲を突き抜けた、その頂へとたどり着いた。
そこから見下ろす光景に、キナは、何度見ても、息をのむ。眼下には、雲海が広がり、その向こうに、アキオの聖域の全てが、まるで箱庭のように、広がっている。そして、太陽が、その雲海を、黄金色に染め上げていく。
「…どうだ、だんな。すげえ景色だろ?」
キナが、誇らしげに胸を張る。
「ああ…すごいな。だが、キナ。俺が、今日、ここに来たかったのは、この景色を見るためだけじゃないんだ」
「え?」
アキオは、背負っていた、大きな荷物を下ろすと、中から、彼が、この日のために、夜なべをして作り上げた、特別な部材を取り出した。それは、聖域の生命樹の、最も硬い枝を削り出して作った、美しい彫刻が施された、小さな祠の部品だった。
アキオは、その場で、神業のような手つきで、その祠を組み上げていく。そして、完成した、小さく、しかし、圧倒的な存在感を放つ祠を、頂の、最も見晴らしの良い場所に、そっと据え付けた。
アキオは、その光景に、ただ呆然としているキナの肩を、優しく抱いた。
「キナ。ここは、お前のための『玉座』だ。お前は、この聖域の、誰よりも気高く、そして自由な、野生の女王だ。この祠は、お前の、その縛られることのない、美しい魂を、俺が、心の底から尊敬し、そして愛しているという、その証だ。お前が、この場所から、俺たちの家を、家族を、見守ってくれている。その感謝の、しるしでもある」
ロマンティックなことなど、一度もされたことがなかった。常に、戦う者として、守る者として、その強さだけを求められてきた。
だが、アキオは、違った。彼は、キナの、その野生そのものを、彼女の魂の、ありのままの姿を、何よりも美しく、そして尊いものだと、言ってくれたのだ。
次の瞬間、キナの、その勝気な瞳から、堰を切ったように、大粒の涙が、溢れ出した。
「…う…うわあああああん! なんだよ、だんな…! ずるいじゃねえか、そんなの…!」
彼女は、子供のように、声を上げて、泣きじゃくった。それは、悲しみの涙ではない。生まれて初めて知った、魂が、その奥の奥から、震えるほどの、どうしようもない、幸福と、愛情の涙だった。
アキオは、そんな愛しい妻を、ただ、優しく、そして力強く、抱きしめ続けた。
その夜、二人は、雲海の上に浮かぶ、その「玉座」で、結ばれた。
満天の星空の下、アキオが、彼女のためだけに建てた、聖なる祠の中で。それは、もはや、ただの愛の交歓ではなかった。二つの野生の魂が、完全に一つになり、この聖域の、天と地と、そして未来の全てに、その永遠の愛を誓う、神聖な儀式そのものだった。
「キナ、起きろ。行くぞ」
「んあ…? だんな…? まだ、夜も明けてねえじゃねえか…どこへ行くんだよ…」
眠い目をこするキナに、アキオは、悪戯っぽく笑いかける。
「お前が、まだ誰にも見せたことがないっていう、最高の景色を、俺にも見せてくれ」
アキオが指し示したのは、聖域の、最も北にそびえ立つ、最も険しい岩山だった。その頂は、常に雲に隠れ、麓からでは、その全貌を窺い知ることさえできない。町の者たちの間では、「神々の庭」と呼ばれ、畏敬の念と共に、誰も近づこうとはしない場所。そこは、この聖域で、唯一、キナだけが、その神狼の脚力で、登りきることができる、彼女だけの「玉座」だった。
キナは、アキオのその言葉の真意を、すぐには理解できなかった。だが、夫の、その挑戦的な、そして楽しそうな瞳を見て、彼女の魂に、火が付かないはずはなかった。
「へっ、面白いじゃねえか、だんな! あんたが、あたしについてこれるってんなら、見せてやるよ! この聖域で、一番、天に近い場所をな!」
二人の、前代未聞の「デート」が始まった。
それは、甘い散歩などではない。ほとんど垂直に近い、切り立った崖を、己の肉体だけを頼りに登っていく、命がけの登山だった。キナは、獣のようなしなやかさで、岩から岩へと飛び移っていく。アキオもまた、その人間離れした身体能力と、棟梁としての、岩の僅かな亀裂も見逃さない、的確なルート判断で、一歩も遅れることなく、彼女に続いていく。
汗が噴き出し、息が切れる。だが、二人の間には、言葉はいらなかった。互いの呼吸、互いの動き、その全てが、二人だけの、特別な会話となっていた。それは、アキオとキナという、二人の野生の魂が、最も純粋な形で共鳴し合う、最高の時間だった。
数時間後。二人は、ついに、雲を突き抜けた、その頂へとたどり着いた。
そこから見下ろす光景に、キナは、何度見ても、息をのむ。眼下には、雲海が広がり、その向こうに、アキオの聖域の全てが、まるで箱庭のように、広がっている。そして、太陽が、その雲海を、黄金色に染め上げていく。
「…どうだ、だんな。すげえ景色だろ?」
キナが、誇らしげに胸を張る。
「ああ…すごいな。だが、キナ。俺が、今日、ここに来たかったのは、この景色を見るためだけじゃないんだ」
「え?」
アキオは、背負っていた、大きな荷物を下ろすと、中から、彼が、この日のために、夜なべをして作り上げた、特別な部材を取り出した。それは、聖域の生命樹の、最も硬い枝を削り出して作った、美しい彫刻が施された、小さな祠の部品だった。
アキオは、その場で、神業のような手つきで、その祠を組み上げていく。そして、完成した、小さく、しかし、圧倒的な存在感を放つ祠を、頂の、最も見晴らしの良い場所に、そっと据え付けた。
アキオは、その光景に、ただ呆然としているキナの肩を、優しく抱いた。
「キナ。ここは、お前のための『玉座』だ。お前は、この聖域の、誰よりも気高く、そして自由な、野生の女王だ。この祠は、お前の、その縛られることのない、美しい魂を、俺が、心の底から尊敬し、そして愛しているという、その証だ。お前が、この場所から、俺たちの家を、家族を、見守ってくれている。その感謝の、しるしでもある」
ロマンティックなことなど、一度もされたことがなかった。常に、戦う者として、守る者として、その強さだけを求められてきた。
だが、アキオは、違った。彼は、キナの、その野生そのものを、彼女の魂の、ありのままの姿を、何よりも美しく、そして尊いものだと、言ってくれたのだ。
次の瞬間、キナの、その勝気な瞳から、堰を切ったように、大粒の涙が、溢れ出した。
「…う…うわあああああん! なんだよ、だんな…! ずるいじゃねえか、そんなの…!」
彼女は、子供のように、声を上げて、泣きじゃくった。それは、悲しみの涙ではない。生まれて初めて知った、魂が、その奥の奥から、震えるほどの、どうしようもない、幸福と、愛情の涙だった。
アキオは、そんな愛しい妻を、ただ、優しく、そして力強く、抱きしめ続けた。
その夜、二人は、雲海の上に浮かぶ、その「玉座」で、結ばれた。
満天の星空の下、アキオが、彼女のためだけに建てた、聖なる祠の中で。それは、もはや、ただの愛の交歓ではなかった。二つの野生の魂が、完全に一つになり、この聖域の、天と地と、そして未来の全てに、その永遠の愛を誓う、神聖な儀式そのものだった。
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