五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第301話:国王夫妻、聖域に立つ

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 聖域の力を安定させ、そして、仲間たちのための環境を整えた、会談の前夜。アキオと、彼の家族、そして同盟者たちは、万全の準備を整え、静かに、しかし、確かな覚悟を持って、運命の朝を迎えた。

 その日の正午、ついに、その時はやってきた。
 地平線の向こうから、王家の「金獅子」の紋章を掲げた、壮麗な、しかし、護衛は最小限に抑えられた、一団の行列が姿を現した。その行列は、数こそ少ないものの、一人一人が、王国最強と謳われる近衛騎士団の中でも、選び抜かれた精鋭であることが、その統制の取れた、一糸乱れぬ動きから窺える。
 一行は、アキオたちが待つ、「小さな聖域」に新設された、東屋と温泉の前で、静かに停止した。

 スタンフィールド公爵と、ヴァルト侯爵が、緊張した面持ちで、その主君の到着を迎える。アキオと、彼の八人の妻たち、そして、リリアーナとシャルロッテもまた、その歴史的瞬間を、息をのんで見つめていた。

 行列の中心にある、国王が乗る、特別な馬車の扉が、侍従の手によって、ゆっくりと開かれた。
 最初に降りてきたのは、一人の男性だった。彼こそが、この国の頂点に立つ、国王その人。しかし、その姿は、誰もが想像していた、威厳のある老王ではない。年の頃は、三十代後半から四十代前半。その顔立ちは、穏やかで、まるで学者のようにも見えるが、その瞳の奥には、全てを見透かすかのような、底知れない知性と、そして、決して侮ることのできない、「切れ者」としての鋭い光が宿っていた。
 そして、国王は、自ら、次に降りてくる女性へと、その手を差し伸べた。
 その手を取って現れたのは、国王と並び立つにふさわしい、気品と、そして、深い慈愛に満ちた、美しき王妃ソフィアだった。彼女の表情は、穏やかであったが、その瞳の奥には、娘を想う、母としての、隠しきれない憂いと、そして、一縷の望みが浮かんでいた。
 一国の王が、そして、その正妻である王妃が、共に、この辺境の地へと、自ら足を運んだ。その事実が、この会談の、尋常ならざる重要性を、何よりも雄弁に物語っていた。

 リリアーナは、その光景に、内心、戦慄していた。(…あり得ない。一国の王が、そして王妃までもが、自ら動くなど…。これは、もはや、ただの会談ではない。国王が、自らの命と、王家の威信の全てを賭けた、歴史的な交渉になるわ…)
 しかし、アキオは、違った。彼の反応は、どこまでも、シンプルだった。
(…ほう、本当に、本人たちが来たか。侯爵からの手紙に、そう書いてあったからな。大将が、直接、話をしに来る。それだけのことだ。ごちゃごちゃ考えるより、まずは、相手がどんな男で、どんな女なのか、この目で見極めるのが先だろう)

 国王は、まず、目の前に広がる、神々しいまでの聖域の光景に、一瞬だけ、目を見開いた。そして、その視線は、アキオの隣に立つ、八人の、それぞれが国を傾けるほどの美貌と、力を持つ妻たちへと移り、最後に、アキオの元へと、真っ直ぐに注がれた。
 国王は、アキオの前へと、静かに歩み寄る。そして、初めて、二人の王が、言葉を交わした。
「君が、聖域の主、アキオ殿か。…噂以上の、場所だな」
「ようこそ、国王陛下。辺境の湯治場へ」
 アキオの、その、一歩も引かない、しかし、敵意もない、堂々とした態度。国王は、その瞳の奥で、面白そうに、そして、値踏みするように、微笑んだ。

 そして、最後に、王妃に手を引かれ、一人の少女が、そっと馬車から姿を現した。
 彼女こそ、国王が、対価として差し出すと告げた、第一王女イザベラ。その美しさは、噂通り、いや、それ以上のものであった。輝くような金髪、湖のように澄んだ青い瞳、そして、雪のように白い肌。しかし、その、人形のように完璧な美貌を持つ、美しい青い瞳には、一切の光が映ってはいなかった。
 彼女は、生まれながらにして、その光を、閉ざされていたのだ。
 アキオたちは、その、あまりにも美しく、そして、どこか儚げな、盲目の王女の姿を、息をのんで見つめることしかできなかった。

 聖域の主と、王国の支配者。二人の王が、今、ついに出会った。そして、その会談の行方を左右する、美しくも、悲しい運命を背負った王女が、その姿を現した。
 この聖域の、そして、この国の、未来を左右する、運命の会談が、今、始まろうとしていた。
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