五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
300 / 387

第300話:八人の女神、そして目覚める胎動

しおりを挟む
 王家の名代が到着する、その前日。アキオは、この新しい聖域の力を、万全の状態にするため、妻たち全員と共に、生命樹の若木の麓へと向かった。その神聖な儀式を前に、アキオは、まず、スタンフィールド公爵とヴァルト侯爵を、少し離れた場所に呼び出した。

「閣下、殿下。お二人にお願いがある」
 アキオの、その真剣な眼差しに、二人の領主は、何事かと居住まいを正した。
「これから、この聖域の力を安定させるための、極めて重要な儀式を執り行う。だが、これは、この聖域の『女たち』の、聖なる力が必要となる、非常にデリケートなものだ。すまないが、儀式が終わるまで、席を外していただけないだろうか」
 その言葉に、公爵は「うむ?」と眉をひそめかけたが、アキオは、すかさず、二人にとって、抗いがたい魅力を持つ、もう一つの「仕事」を依頼した。
「ついでに、と言っては何だが、お二人には、この新しく湧き出た温泉の、さらなる拡張計画について、話し合っていただきたい。例えば、湯治場としての施設や、周辺の警備体制、そして、いずれは、この湯を、王都まで運ぶ方法などだ。君たちの、領主としての知恵を貸してほしい」
 アキオは、こうして、二人の領主の興味を、儀式そのものから、その後の「実利」へと、巧みに逸らさせた。その深謀遠慮に、公爵と侯爵は、すぐに気づいた。
「がっはっは! そうきたか、アキオ殿! よかろう! 女たちの神聖な儀式を、我らのような無骨な男が、無粋に眺めているわけにもいくまい!」
「ええ、承知いたしました。温泉の活用法については、私も、いくつか腹案がございます。この機会に、公爵閣下と、じっくりと詰めさせていただきましょう」
 二人の領主は、アキオの意図を完璧に理解し、そして、その配慮に感謝すると、喜んで、温泉の拡張計画の協議のため、その場を離れていった。

 こうして、儀式の場には、アキオと、彼の妻たち、そして、その奇跡の目撃者となる、リリアーナとシャルロッテだけが残された。
 アキオが、生命樹の若木の中心に立つ。そして、その前に、光妃アウロラが、静かに跪いた。
 儀式は、アウロラが、その「聖乳」に象徴される、生命の源泉をアキオに与えることから始まった。アキオは、その聖なる力を敬虔に飲み干し、自らの「生命の祝福」と完全に融合させていく。

 次に、その聖なる力を取り込んだアキオが、自らの【生命の精髄】の全てを、光妃であるアウロラへと、その胎内に直接放った。
 そして、儀式の最後の仕上げ。
 シルヴィアが、その二つの力が混じり合った、究極の【生命の雫】を、アウロラの身体から零れ落ちる前に、自らの口で敬虔に受け止めた。
 さらに、アキオは、ハイエルフの女王であるシルヴィアの聖なる胎内にも、アウロラの力と融合した、究極の生命の精髄を、深く、そして敬虔に注ぎ込んだ。

 だが、儀式は、まだ終わらない。アキオは、その極限まで高められた聖なる力を、残る六人の妻たち——アヤネ、キナ、セレスティーナ、レオノーラ、凛、クラウディア——にも、一人一人、その身に直接注ぎ込み、分かち合っていく。八人の妻全員が、夫から注ぎ込まれる、聖なる「生命の精髄」を、その胎内に受け止め、自らの力と融合させていった。
 そして、八人の女神となった妻たちは、その身に宿した、究極の生命エネルギーを、若木へと注ぎ込む。若木は、その力を受けて、神々しい光を放ち、その土地に、完全に、そして力強く、根を張った。

 儀式を終えたシルヴィアが、残った、貴重な【生命の雫】が満たされた水晶の小瓶を手に、固唾をのんで見守っていた、リリアーナとシャルロッテの元へと、静かに歩み寄った。
「リリアーナ様、シャルロッテ様。これは、この聖域の、そしてアキオの、生命そのものです。貴女方が、この聖域を信じ、共に未来を歩む覚悟があるのなら、この祝福を、お受け取りください」
 リリアーナとシャルロッテは、戸惑い、そして逡巡したが、目の前で起きた奇跡を前に、覚悟を決めた。二人は、シルヴィアの手から、その「生命の雫」を、一滴ずつ、敬虔に、その口に含んだ。
 その一滴が、彼女たちの舌に触れた瞬間、身体の奥底から、魂を揺さぶるような、熱い奔流が駆け巡った。そして、それが、先日来、彼女たちを戸惑わせていた、あの「生命の源泉たる場所の、甘い疼き」の正体であると、二人は、魂で理解するのでした。

 儀式を終えた後、アキオは、約束通り、キナたちのために「低臭の湯」を、公爵の力も借りて、その日のうちに完成させ、仲間たちの労をねぎらった。
 そして、全ての準備が整い、心身ともに最高の状態となった一行は、いよいよ明日、王家の名代が到着するという、運命の朝を待つ。
 リリアーナとシャルロッテは、自らの身体に起きた変化の意味を、まだ、完全には理解できずにいた。だが、彼女たちの心の中にもまた、この聖域と、アキオという男に対する、新しい感情の「胎動」が、確かに始まっているのでした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活

怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。 スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。 何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...