五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
306 / 400

第306話:聖域の心臓、そして三国鼎立の時代へ

しおりを挟む
 国王一家が、アキオの町に到着した、その翌日。聖域は、穏やかでありながら、どこか祝祭のような、特別な空気に満ちていた。
 アキオは、国王との、本格的な会談を前に、まず、この町の「魂」を、その目で、直接、感じてもらいたいと考えていた。

「陛下。本日は、わたくしが、この町をご案内いたします」
 アキオは、そう言うと、まず、国王以外の女性陣へと、視線を向けた。
「シルヴィア、アヤネ。王妃陛下と、姫君たちのことは、君たちに任せても良いかな」
「ええ、お任せくださいな、あなた」
 正妻シルヴィアと、筆頭夫人アヤネが、優雅に、しかし、この町の女主人としての、絶対的な自信をもって、その役目を引き受けた。こうして、王妃ソフィア、王女イザベラ、皇女リリアーナ、そして侯爵令嬢シャルロッテという、四人の高貴な女性たちは、シルヴィアとアヤネに導かれ、町の、女性たちが暮らす、生活の中心部へと、案内されていった。

 そして、アキオは、国王を、スタンフィールド公爵、ヴァルト侯爵と共に、町の中枢——この聖域の力の源泉とも言える、場所へと案内し始めた。
 彼らがまず訪れたのは、ドルガン親方が率いる、巨大な鍛冶場だった。そこでは、ドワーフたちが、力強い槌音を響かせ、そして、更生中の元「荒くれ共」たちが、真剣な眼差しで、その補助作業に汗を流している。
「…ほう。罪人にも、仕事を与えているのか」
「いえ、陛下。彼らは、罪人ではありませぬ。道を間違えた、俺の、新しい弟子たちです」
 アキオのその言葉に、国王は、興味深そうに、目を細めた。

 次に、一行が訪れたのは、町の自慢である温泉だった。その、豊かに湧き出る湯と、心身を癒やす、不思議な効能に、国王は、改めて、この土地の持つ、規格外の豊かさを、実感する。
 そして、最後に、アキオは、国王を、巨大な生命樹の麓へと導いた。
 天を突くほどの、その神々しい姿。そこから放たれる、穏やかで、しかし、魂を直接揺さぶるような、圧倒的な生命のオーラ。国王は、その木の前に立つと、しばし、言葉を失っていた。
「陛下、これが、俺の町の全てです。俺たちは、武器や軍隊で、国を強くするんじゃない。ここで暮らす、一人一人の命が、幸せに、そして力強く、生きられるようにする。その、生命力そのものが、この町の、本当の力なんです」
 アキオのその言葉は、覇道と、権謀術数の中で生きてきた国王の心を、静かに、しかし、確かに、揺さぶっていた。

 その日の午後。中央館に、セレスティーナとレオノーラが、アキオを訪ねてきた。その表情には、確かな決意が浮かんでいる。
「あなた。わたくしたち、エルドリアへ、戻らなければなりません」
「アキオ。国王陛下が、ここに滞在なされる今こそ、我らが、故国を守る時だ」
 国王一家が、この聖域にいる。それは、エルドリアにとって、これ以上ないほどの、安全保障となる。そして、彼女たちは、王女として、騎士として、自らの国を、自らの手で復興させるという、強い使命感に燃えていた。
 アキオは、彼女たちのその覚悟を、深く理解した。
「…分かった。だが、必ず、また会いに来てくれるな」
「ええ、勿論ですわ。だって、ここも、わたくしたちの、大切な我が家ですもの」
 その日のうちに、**セレスティーナとレオノーラは、彼女たちのために残されていた、魔導車『白百合』に、子供たち全員を乗せて、**故国エルドリアへと、帰還の途に就いた。

 夕刻。エルドリアへと旅立つ『白百合』を、アキオと国王が、二人きりで、丘の上から見送っていた。
「…面白いな、君の国は」国王が、ぽつりと呟いた。「王女が、自ら国を興し、そして、君の妻たちが、その全てを、支えている。わしの国とは、何もかもが違う」
「陛下…」
「アキオ殿。君と、一度、じっくりと、この世界の未来について、語り合ってみたいものだ。君と、我が王国、そして、エルドリア。この三国の、新しい関係についてな」
 それは、国王が、アキオの聖域を、そして、復興するエルドリアを、自らの王国と、対等な「国家」として、認めた瞬間だった。
 アキオの町を中心とした、三国鼎立の時代。その、新しい歴史の歯車が、今、静かに、そして、確かに、回り始めた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

家ごと異世界ライフ

もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...