五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
323 / 400

第323話:限界の夜と、正妻たちの『癒やし』

しおりを挟む
 シャルロッテが誇らしげに、そして満足げに部屋を去っていった後、アキオは一人、その場に立ち尽くしていた。扉が閉まるその最後の瞬間まで、彼女の輝くような笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
 (……リリアーナに、シャルロッテ……。こう立て続けにこられると、さすがの俺の理性もそろそろ限界なんだがな……)
 額に浮かんだ玉の汗を手の甲で拭う。
 体の奥底から突き上げてくる、どうしようもない熱。それは単なる性的な欲求だけではない。彼女たちのあまりにもひたむきな想いを受け止めたことによる精神的な高揚と、そしてそれを抑えつけなければならないという極度の緊張感。
 その二つがアキオの中で渦を巻き、彼の心と体を内側から焼き尽くそうとしていた。
 (……駄目だ。このままでは眠れん。少し頭を冷やしてこよう……)
 アキオは誰にも告げず、そっと自室を抜け出した。深夜の冷たい空気にでも当たれば、この熱も少しは収まるかもしれない。
 静まり返った新・中央館の廊下を歩く。
 その足が自然と向かったのは、妻たちの居住区画だった。別に誰かの部屋を訪ねるつもりはなかった。ただ、彼女たちの息遣いが感じられる場所に身を置きたかっただけなのかもしれない。
 その時だった。
 一つの部屋の扉が音もなく、すっと開かれた。
 そこに立っていたのは、月明かりをその銀髪に反射させ、まるで女神のように微笑む正妻シルヴィアだった。
「あら、アキオ。どこへいらっしゃるの?」
 その声は、全てを見透かしているかのように穏やかだった。
「……いや、少し夜風にでも……」
「まあ。そんな獲物を求める獣のような目をして。……いけませんわ、あなた。その熱は夜風では冷めませんことよ」
 シルヴィアはアキオの手をそっと取ると、有無を言わさず部屋の中へと優しく引き入れた。
「今宵は、わたくしたちのお部屋でゆっくりなさるとよろしいわ」
 その部屋は、シルヴィアと第一夫人アヤネの二人だけの空間だった。部屋の中は心安らぐ香が焚かれ、薄暗い間接照明の光が幻想的な雰囲気を作り出している。
 そして部屋の奥では、アヤネが柔らかな寝間着姿で、静かにお茶の用意をしていた。
「あなた。お疲れ様でございました」
 アヤネはアキオの姿を認めると、聖母のように優しく微笑んだ。
「姫君たちのこと。そして会談のこと。全て存じておりますわ。……本当に、よくお耐えになりました」
 その二人の、全てを包み込むような眼差し。アキオは、自分がこの二人の前ではただの一人の男でいられることを悟った。張り詰めていた最後の理性の糸が、ぷつん、と音を立てて切れた。
「シルヴィア……。アヤネ……。すまん、もう限界だ……」
「ふふ、分かっておりますわ」
 シルヴィアはアキオの服の紐にそっと手をかける。
「貴方は本当に誠実で、そしてお馬鹿なお方。わたくしたち妻がいるというのに、一人で全てを溜め込もうとなさるのですもの」
「まあ、シルヴィア様。ですが、それこそが私共の愛した殿方ですわ。……あなた」
 アヤネがアキオの背後に回り、その凝り固まった肩を柔らかな指で揉みほぐしていく。
「わたくしたちも連日の会談で、少し疲れが溜まっておりましたの。今宵は、お互いのこれまでの労を深く、深く、ねぎらい合いましょうぞ」
 シルヴィアの妖艶な囁き。アヤネの慈愛に満ちた愛撫。
 その夜、アキオは二人の正妻に、その心と体の全てを委ねた。
 それはただの欲望の発散ではない。
 三国会談という戦いを共に乗り越えた戦友であり、そして家族である三人が、互いの魂を癒やし、そして明日への活力を与え合う神聖な儀式だった。
 アキオの本当の力の源泉。
 それは生命樹でも、彼の特殊な能力でもない。
 何があっても自分を無条件に受け入れ、支えてくれる、この賢く、そして誰よりも愛しい妻たちの存在そのものなのだ。
 聖域の主は、その原点に立ち返り、そして深い、深い眠りへと落ちていった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

家ごと異世界ライフ

もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...