五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第324話:聖獣の森と、運命の妻会議

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 三国間の歴史的な合意がなされ、条約の正式な調印を残すのみとなったその日の午後。
 アキオはメイプルウッド国王とクリストフ国王の二人を、新・中央館の外へと連れ出していた。
「調印の前に、お二方にはどうしてもご紹介したい者たちがおります。この聖域の本当の、そして最強の守護者たちを」
 アキオの穏やかで、しかしどこかただならぬ響きを帯びた言葉に、二人の王はゴクリと喉を鳴らし、黙って後に続いた。
 そのアキオたちが森へと向かっている、まさに同じ頃。
 新・中央館の一室では、リリアーナ、シャルロッテ、イザベラの三人が、緊張した面持ちで椅子に座っていた。
 彼女たちの元へシルヴィアからの正式な召喚状が届けられたのは、ほんの数十分前のこと。「妻会議を開きます。至急、指定の部屋までお越しください」という簡潔な、しかし抗うことのできない命令。
 いよいよ審判の時が来たのだ。三人の心臓は張り裂けそうなほど高鳴っていた。
 アキオに案内され足を踏み入れた生命樹の森。そこは空気が違っていた。ただ清浄なだけではない。肌をピリピリと刺すような濃密で、そして神聖な何かの気配。王として数々の修羅場をくぐり抜けてきた二人でさえ、その圧倒的なプレッシャーに自然と背筋が伸びていた。
 やがて開けた場所にたどり着く。生命樹がそびえ立つ、その根元の広場。
 アキオはそこで立ち止まると、空に向かって高く澄んだ口笛を吹いた。
 その音に応えるかのように、森の奥から地響きと共に信じられない光景が現れた。
 現れたのは三頭の巨大な獣。
 獅子の鬣(たてがみ)を持つ巨大な狼。
 白銀の毛並みを輝かせるサーベルタイガー。
 そしてもう一頭は、象ほどもある巨大な熊。
 その三頭のいずれもが神々しいほどのオーラを放ち、その知性的な瞳は明らかにただの獣のものではなかった。
「せ、聖獣……!? しかも三体も……だと……!?」
 クリストフが愕然と呟く。聖獣とは、一体でも国の守護神と崇められる伝説上の存在。それが今、目の前に三体もいる。
 だが、メイプルウッド国王の目はさらにその奥を見据えていた。
「……待て。まだいるぞ……」
 三頭の聖獣のさらに奥から、ぬっ、と影が現れる。それは三頭よりもさらに一回りも二回りも巨大な黒豹の姿をしていた。その体からは、聖獣とは比較にならないほどの圧倒的な神威が放たれている。
「あれは……神話に伝えられる聖霊獣……。馬鹿な、現存するはずが……」
 国王はもはや自らの常識が崩壊していくのを感じていた。
 アキオはそんな二人ににっこりと笑いかける。
「こいつらが俺の家族であり、この聖域の門番たちです。こいつらがいる限り、どんな軍隊もこの地を踏むことはできませんよ」
 それは究極の信頼の証であり、そして究極の牽制だった。
 この聖域の本当の守りの力を目の当たりにした二人の王は、アキオとの友好こそが自国の最大の安全保障であると、魂の奥底から理解したのだった。
 その裏で開かれていた妻会議。
 円卓にはシルヴィアを筆頭に、アウロラ、アヤネ、キナ、セレスティーナ、レオノーラ、凛、クラウディア。八人の妻たちが厳粛な面持ちで並んでいる。
 シルヴィアは三人の姫君が席に着くのを待つと、静かに、そして威厳を持って口を開いた。
「ようこそ、いらっしゃいました。本日は他でもありません。貴女たち三名を、アキオの新しい妻として我が家族に迎えるべきか否か。その最終的な判断を下すために集まっていただきました」
 三人の背筋がぴん、と伸びる。
「これまでの貴女たちの働き、そしてアキオへの想い。その全てはこのシルヴィアが、そしてここにいる全員が見届けております。その貢献と愛情は疑うべくもありません。ですが最後に一つだけお聞きしたい」
 シルヴィアは一人一人の瞳を真っ直ぐに見つめながら問いかけた。
「貴女は、なぜアキオの妻になりたいのですか? その覚悟を改めて我らに示しなさい」
 最初に口を開いたのはリリアーナだった。彼女の声にもう迷いはなかった。
「わたくしはもう帰る場所のない女です。ですが、この聖域で知りました。わたくしが本当に欲しかったのは帝国の玉座ではなく、心から安らげる温かい家族だったのだと。この聖域こそが、わたくしの魂の故郷。この家族を、わたくしの生涯を懸けてお守りしたいのです」
 次に、シャルロッテが胸を張って答えた。
「わたくしはアキオ様の夢を現実にするための最高のパートナーでありたいのです。彼のその途方もない優しさと理想が、ただの夢物語で終わらないよう、わたくしのこの知恵と交渉術の全てを捧げたい。彼の隣で共に未来を築いていくこと。それこそがわたくしの最高の喜びです」
 そして最後に、イザベラがその美しい瞳に強い意志を宿して言った。
「わたくしに光と生きる意味を与えてくださったのはアキオ様です。今度はわたくしがあの方をお支えしたい。今のわたくしはまだ未熟で何もできません。ですが、いつか必ずシルヴィア様や皆様のような素晴らしい女性に成長し、彼の心の安らぎとなれるよう努力することを、ここに誓います」
 三者三様の答え。だが、その根底にあるのはアキオへの深く、そして真実の愛だった。
 シルヴィアは三人のその覚悟を見届けると、他の妻たちと目線を交わし、そして静かに頷いた。
「……よろしい。貴女たちの覚悟、確かに受け取りました」
 シルヴィアは立ち上がると、厳かに宣言した。
「これより、リリアーナ、シャルロッテ、イザベラの三名を、アキオの新しい妻として我が家族に迎えることを宣言します」
 その言葉に、三人の瞳から安堵と喜びの涙が溢れ出した。
 そして、シルヴィアは続けた。
「つきましては、三名の序列を言い渡します。序列第七位は……」
 運命の瞬間。
 三人の、そして正妻シルヴィアの厳かな宣言が行われようとしていた。
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