324 / 387
第324話:聖獣の森と、運命の妻会議
しおりを挟む
三国間の歴史的な合意がなされ、条約の正式な調印を残すのみとなったその日の午後。
アキオはメイプルウッド国王とクリストフ国王の二人を、新・中央館の外へと連れ出していた。
「調印の前に、お二方にはどうしてもご紹介したい者たちがおります。この聖域の本当の、そして最強の守護者たちを」
アキオの穏やかで、しかしどこかただならぬ響きを帯びた言葉に、二人の王はゴクリと喉を鳴らし、黙って後に続いた。
そのアキオたちが森へと向かっている、まさに同じ頃。
新・中央館の一室では、リリアーナ、シャルロッテ、イザベラの三人が、緊張した面持ちで椅子に座っていた。
彼女たちの元へシルヴィアからの正式な召喚状が届けられたのは、ほんの数十分前のこと。「妻会議を開きます。至急、指定の部屋までお越しください」という簡潔な、しかし抗うことのできない命令。
いよいよ審判の時が来たのだ。三人の心臓は張り裂けそうなほど高鳴っていた。
アキオに案内され足を踏み入れた生命樹の森。そこは空気が違っていた。ただ清浄なだけではない。肌をピリピリと刺すような濃密で、そして神聖な何かの気配。王として数々の修羅場をくぐり抜けてきた二人でさえ、その圧倒的なプレッシャーに自然と背筋が伸びていた。
やがて開けた場所にたどり着く。生命樹がそびえ立つ、その根元の広場。
アキオはそこで立ち止まると、空に向かって高く澄んだ口笛を吹いた。
その音に応えるかのように、森の奥から地響きと共に信じられない光景が現れた。
現れたのは三頭の巨大な獣。
獅子の鬣(たてがみ)を持つ巨大な狼。
白銀の毛並みを輝かせるサーベルタイガー。
そしてもう一頭は、象ほどもある巨大な熊。
その三頭のいずれもが神々しいほどのオーラを放ち、その知性的な瞳は明らかにただの獣のものではなかった。
「せ、聖獣……!? しかも三体も……だと……!?」
クリストフが愕然と呟く。聖獣とは、一体でも国の守護神と崇められる伝説上の存在。それが今、目の前に三体もいる。
だが、メイプルウッド国王の目はさらにその奥を見据えていた。
「……待て。まだいるぞ……」
三頭の聖獣のさらに奥から、ぬっ、と影が現れる。それは三頭よりもさらに一回りも二回りも巨大な黒豹の姿をしていた。その体からは、聖獣とは比較にならないほどの圧倒的な神威が放たれている。
「あれは……神話に伝えられる聖霊獣……。馬鹿な、現存するはずが……」
国王はもはや自らの常識が崩壊していくのを感じていた。
アキオはそんな二人ににっこりと笑いかける。
「こいつらが俺の家族であり、この聖域の門番たちです。こいつらがいる限り、どんな軍隊もこの地を踏むことはできませんよ」
それは究極の信頼の証であり、そして究極の牽制だった。
この聖域の本当の守りの力を目の当たりにした二人の王は、アキオとの友好こそが自国の最大の安全保障であると、魂の奥底から理解したのだった。
その裏で開かれていた妻会議。
円卓にはシルヴィアを筆頭に、アウロラ、アヤネ、キナ、セレスティーナ、レオノーラ、凛、クラウディア。八人の妻たちが厳粛な面持ちで並んでいる。
シルヴィアは三人の姫君が席に着くのを待つと、静かに、そして威厳を持って口を開いた。
「ようこそ、いらっしゃいました。本日は他でもありません。貴女たち三名を、アキオの新しい妻として我が家族に迎えるべきか否か。その最終的な判断を下すために集まっていただきました」
三人の背筋がぴん、と伸びる。
「これまでの貴女たちの働き、そしてアキオへの想い。その全てはこのシルヴィアが、そしてここにいる全員が見届けております。その貢献と愛情は疑うべくもありません。ですが最後に一つだけお聞きしたい」
シルヴィアは一人一人の瞳を真っ直ぐに見つめながら問いかけた。
「貴女は、なぜアキオの妻になりたいのですか? その覚悟を改めて我らに示しなさい」
最初に口を開いたのはリリアーナだった。彼女の声にもう迷いはなかった。
「わたくしはもう帰る場所のない女です。ですが、この聖域で知りました。わたくしが本当に欲しかったのは帝国の玉座ではなく、心から安らげる温かい家族だったのだと。この聖域こそが、わたくしの魂の故郷。この家族を、わたくしの生涯を懸けてお守りしたいのです」
次に、シャルロッテが胸を張って答えた。
「わたくしはアキオ様の夢を現実にするための最高のパートナーでありたいのです。彼のその途方もない優しさと理想が、ただの夢物語で終わらないよう、わたくしのこの知恵と交渉術の全てを捧げたい。彼の隣で共に未来を築いていくこと。それこそがわたくしの最高の喜びです」
そして最後に、イザベラがその美しい瞳に強い意志を宿して言った。
「わたくしに光と生きる意味を与えてくださったのはアキオ様です。今度はわたくしがあの方をお支えしたい。今のわたくしはまだ未熟で何もできません。ですが、いつか必ずシルヴィア様や皆様のような素晴らしい女性に成長し、彼の心の安らぎとなれるよう努力することを、ここに誓います」
三者三様の答え。だが、その根底にあるのはアキオへの深く、そして真実の愛だった。
シルヴィアは三人のその覚悟を見届けると、他の妻たちと目線を交わし、そして静かに頷いた。
「……よろしい。貴女たちの覚悟、確かに受け取りました」
シルヴィアは立ち上がると、厳かに宣言した。
「これより、リリアーナ、シャルロッテ、イザベラの三名を、アキオの新しい妻として我が家族に迎えることを宣言します」
その言葉に、三人の瞳から安堵と喜びの涙が溢れ出した。
そして、シルヴィアは続けた。
「つきましては、三名の序列を言い渡します。序列第七位は……」
運命の瞬間。
三人の、そして正妻シルヴィアの厳かな宣言が行われようとしていた。
アキオはメイプルウッド国王とクリストフ国王の二人を、新・中央館の外へと連れ出していた。
「調印の前に、お二方にはどうしてもご紹介したい者たちがおります。この聖域の本当の、そして最強の守護者たちを」
アキオの穏やかで、しかしどこかただならぬ響きを帯びた言葉に、二人の王はゴクリと喉を鳴らし、黙って後に続いた。
そのアキオたちが森へと向かっている、まさに同じ頃。
新・中央館の一室では、リリアーナ、シャルロッテ、イザベラの三人が、緊張した面持ちで椅子に座っていた。
彼女たちの元へシルヴィアからの正式な召喚状が届けられたのは、ほんの数十分前のこと。「妻会議を開きます。至急、指定の部屋までお越しください」という簡潔な、しかし抗うことのできない命令。
いよいよ審判の時が来たのだ。三人の心臓は張り裂けそうなほど高鳴っていた。
アキオに案内され足を踏み入れた生命樹の森。そこは空気が違っていた。ただ清浄なだけではない。肌をピリピリと刺すような濃密で、そして神聖な何かの気配。王として数々の修羅場をくぐり抜けてきた二人でさえ、その圧倒的なプレッシャーに自然と背筋が伸びていた。
やがて開けた場所にたどり着く。生命樹がそびえ立つ、その根元の広場。
アキオはそこで立ち止まると、空に向かって高く澄んだ口笛を吹いた。
その音に応えるかのように、森の奥から地響きと共に信じられない光景が現れた。
現れたのは三頭の巨大な獣。
獅子の鬣(たてがみ)を持つ巨大な狼。
白銀の毛並みを輝かせるサーベルタイガー。
そしてもう一頭は、象ほどもある巨大な熊。
その三頭のいずれもが神々しいほどのオーラを放ち、その知性的な瞳は明らかにただの獣のものではなかった。
「せ、聖獣……!? しかも三体も……だと……!?」
クリストフが愕然と呟く。聖獣とは、一体でも国の守護神と崇められる伝説上の存在。それが今、目の前に三体もいる。
だが、メイプルウッド国王の目はさらにその奥を見据えていた。
「……待て。まだいるぞ……」
三頭の聖獣のさらに奥から、ぬっ、と影が現れる。それは三頭よりもさらに一回りも二回りも巨大な黒豹の姿をしていた。その体からは、聖獣とは比較にならないほどの圧倒的な神威が放たれている。
「あれは……神話に伝えられる聖霊獣……。馬鹿な、現存するはずが……」
国王はもはや自らの常識が崩壊していくのを感じていた。
アキオはそんな二人ににっこりと笑いかける。
「こいつらが俺の家族であり、この聖域の門番たちです。こいつらがいる限り、どんな軍隊もこの地を踏むことはできませんよ」
それは究極の信頼の証であり、そして究極の牽制だった。
この聖域の本当の守りの力を目の当たりにした二人の王は、アキオとの友好こそが自国の最大の安全保障であると、魂の奥底から理解したのだった。
その裏で開かれていた妻会議。
円卓にはシルヴィアを筆頭に、アウロラ、アヤネ、キナ、セレスティーナ、レオノーラ、凛、クラウディア。八人の妻たちが厳粛な面持ちで並んでいる。
シルヴィアは三人の姫君が席に着くのを待つと、静かに、そして威厳を持って口を開いた。
「ようこそ、いらっしゃいました。本日は他でもありません。貴女たち三名を、アキオの新しい妻として我が家族に迎えるべきか否か。その最終的な判断を下すために集まっていただきました」
三人の背筋がぴん、と伸びる。
「これまでの貴女たちの働き、そしてアキオへの想い。その全てはこのシルヴィアが、そしてここにいる全員が見届けております。その貢献と愛情は疑うべくもありません。ですが最後に一つだけお聞きしたい」
シルヴィアは一人一人の瞳を真っ直ぐに見つめながら問いかけた。
「貴女は、なぜアキオの妻になりたいのですか? その覚悟を改めて我らに示しなさい」
最初に口を開いたのはリリアーナだった。彼女の声にもう迷いはなかった。
「わたくしはもう帰る場所のない女です。ですが、この聖域で知りました。わたくしが本当に欲しかったのは帝国の玉座ではなく、心から安らげる温かい家族だったのだと。この聖域こそが、わたくしの魂の故郷。この家族を、わたくしの生涯を懸けてお守りしたいのです」
次に、シャルロッテが胸を張って答えた。
「わたくしはアキオ様の夢を現実にするための最高のパートナーでありたいのです。彼のその途方もない優しさと理想が、ただの夢物語で終わらないよう、わたくしのこの知恵と交渉術の全てを捧げたい。彼の隣で共に未来を築いていくこと。それこそがわたくしの最高の喜びです」
そして最後に、イザベラがその美しい瞳に強い意志を宿して言った。
「わたくしに光と生きる意味を与えてくださったのはアキオ様です。今度はわたくしがあの方をお支えしたい。今のわたくしはまだ未熟で何もできません。ですが、いつか必ずシルヴィア様や皆様のような素晴らしい女性に成長し、彼の心の安らぎとなれるよう努力することを、ここに誓います」
三者三様の答え。だが、その根底にあるのはアキオへの深く、そして真実の愛だった。
シルヴィアは三人のその覚悟を見届けると、他の妻たちと目線を交わし、そして静かに頷いた。
「……よろしい。貴女たちの覚悟、確かに受け取りました」
シルヴィアは立ち上がると、厳かに宣言した。
「これより、リリアーナ、シャルロッテ、イザベラの三名を、アキオの新しい妻として我が家族に迎えることを宣言します」
その言葉に、三人の瞳から安堵と喜びの涙が溢れ出した。
そして、シルヴィアは続けた。
「つきましては、三名の序列を言い渡します。序列第七位は……」
運命の瞬間。
三人の、そして正妻シルヴィアの厳かな宣言が行われようとしていた。
31
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活
怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。
スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。
何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで
ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。
家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、
優しいSランク冒険者のパーティだった。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
その言葉を信じて、
俺は必死に、置いていかれないようについていった。
自分には何もできないと思っていた。
それでも、少しでも役に立ちたくて、
誰にも迷惑をかけないようにと、
夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。
仲間を護れるなら…
そう思って使った支援魔法や探知魔法も、
気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。
だけどある日、告げられた。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、優しさからの判断だった。
俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。
こうして俺は、静かにパーティを離れた。
これからは一人で、穏やかに生きていこう。
そう思っていたし、そのはずだった。
…だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、
また少し、世界が騒がしくなってきたようです。
◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる