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第337話:癒やしの夜と王都からの旅立ち
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王都に新しい聖地が誕生し、そしてミランダ姫の聖域への留学とエルドリアへの公式派遣が決定したその夜。
王城で開かれた晩餐会は、これまでにない熱気と敬意に満ちていた。昨日までアキオを遠巻きに見ていた貴族たちが、今や先を競うように彼に挨拶をしようと列をなしている。
アキオはその喧騒を、クラウディアの見事なエスコートで何とか乗り切り、疲れ果てて自らに与えられた客室へと戻っていた。
凛の部屋
だが、彼には眠る前に果たさなければならない役目があった。
アキオはそっと隣の部屋の扉をノックした。そこは凛の部屋だった。
「…凛、俺だ」 「アキオ様…どうぞ」
中から聞こえてきたのは、いつもの凛より少しだけか細い声だった。
部屋に入ると、彼女は窓辺の椅子に座り、静かに外の星空を眺めていた。その横顔は、昼間の気丈な態度はどこにもなく、硝子のように繊細で儚げだった。
アキオは何も言わず、ただ静かに彼女のそばに座り、その冷たくなった手を両手で優しく包み込んだ。
「…怖かったか」
アキオのその問いに、凛の肩が小さく震えた。
「…いいえ。もう終わったことですし、それに、悪意からの言葉ではなかったことも分かっております。ですが…」
彼女は言葉を詰まらせる。
「…ですが、あの瞬間の恐怖が蘇って…。自分がどれほど無力で、そして汚れた存在かと、思い知らされたあの夜の記憶が…」
「もう、言うな」
アキオは凛の言葉を遮ると、その華奢な体を力強く、そして壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめた。
「お前は汚れてなどいない。お前は俺が人生で出会った中で、最も気高く、そして美しい女性だ」
アキオは彼女の髪を優しく撫でながら、その耳元ではっきりと告げた。
「俺がいる。もう誰にもお前を傷つけさせたりはしない。絶対にだ。お前の過去の痛みも苦しみも、全て俺がこの腕の中で上書きしてやる。だからもう何も怖がるな」
その絶対的な安心感を与えてくれる言葉と温もり。凛はアキオの腕の中で声を殺し、子供のように泣きじゃくった。それは、彼女の魂の奥底にこびりついていた最後の恐怖の残滓が、完全に洗い流されていく浄化の涙だった。
その夜、アキオは彼女が安らかな眠りにつくまで、一睡もせず、ただひたすらにその体を抱きしめ続けた。
王都からの旅立ち
翌日、王都を出発する朝が来た。
荷造りをしながら、アキオはふと凛とクラウディアに尋ねた。
「そういえば、二人とも王都で学んでいたと言っていたな。ご両親は、この都にいるのか? 最後に挨拶に行かなくていいのか?」
その問いに、凛はもう昨夜のような翳りのない穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「わたくしの両親はヴァルト侯爵領におりますので。ですが、また今度、顔を見せに帰りますわ。アキオ様と一緒に」
一方、クラウディアは少し複雑な表情で答えた。
「わたくしの両親は、この都の下町で暮らしております。…ですが、今回は公式な外交使節団ですもの。わたくしの個人的な事情で皆様のお時間をいただくわけにはまいりませんわ。それに、今のわたくしが帰っても、きっと両親を驚かせて心配させるだけですもの」
その大人としての分別と、娘としての寂しさが入り混じった言葉。アキオは彼女のプロ意識に感心すると同時に、その胸の内を思い、そっと彼女の頭に手を置いた。
「…そうか。分かった。だが、今度来る時は必ず時間を作る。お前が胸を張って帰れるよう、俺が最高の舞台を用意してやるからな」
「…はい、アキオ様」
クラウディアは涙をこらえ、最高の笑顔で頷いた。
兄と妹の対話
同じ頃、王の私室では、兄と妹の対話が行われていた。
「ミランダよ。お前、本当に行くのだな。エルドリアの若き王との縁談が噂されている、この状況で」
「ええ、お兄様。だからこそ行くのです。宮廷の噂や政略で決められるのではなく、わたくし自身の目で、その国の、そしてその王の価値を見定めたいのですから」
そのあまりにも大胆で、そして王族としての誇りに満ちた答え。国王は驚き、そしてすぐに腹の底から笑い出した。
「はっはっは! そうか、そうか! わしの妹はただの本の虫ではなかったようだな! よかろう! 行って確かめてまいれ! 貴様のその目で、エルドリアの若き王の器量を見定めてくるがよい!」
兄は妹が自らの意志で運命を切り拓こうとしていることを知り、心からその成長を誇りに思った。
🚀 新たな物語の始まり
そして、出発の時。
アキオたちのキャラバンには、新しい仲間が加わっていた。王家の紋章が入った質素だが上質な旅装束に身を包んだミランダ姫と、その数名の侍女たち。
国王、王妃、そして多くの貴族たちが見送る中、アキオたちの一行は聖域への帰路についた。その眼差しは、もはや侮蔑や好奇ではない。神の使いを見送るかのような畏敬の念に満ちていた。
旗艦『流星』の中で、ミランダ姫は窓の外に小さくなっていく王都を眺めながら、その胸に新しい決意を燃やす。
(待っていなさい、エルドリアの若き王。このわたくしが、貴方の価値を見定めに行くのですから…)
アキオたちの王都での物語は終わり、そして新しい物語の歯車がまた一つ、大きく回り始めた。
王城で開かれた晩餐会は、これまでにない熱気と敬意に満ちていた。昨日までアキオを遠巻きに見ていた貴族たちが、今や先を競うように彼に挨拶をしようと列をなしている。
アキオはその喧騒を、クラウディアの見事なエスコートで何とか乗り切り、疲れ果てて自らに与えられた客室へと戻っていた。
凛の部屋
だが、彼には眠る前に果たさなければならない役目があった。
アキオはそっと隣の部屋の扉をノックした。そこは凛の部屋だった。
「…凛、俺だ」 「アキオ様…どうぞ」
中から聞こえてきたのは、いつもの凛より少しだけか細い声だった。
部屋に入ると、彼女は窓辺の椅子に座り、静かに外の星空を眺めていた。その横顔は、昼間の気丈な態度はどこにもなく、硝子のように繊細で儚げだった。
アキオは何も言わず、ただ静かに彼女のそばに座り、その冷たくなった手を両手で優しく包み込んだ。
「…怖かったか」
アキオのその問いに、凛の肩が小さく震えた。
「…いいえ。もう終わったことですし、それに、悪意からの言葉ではなかったことも分かっております。ですが…」
彼女は言葉を詰まらせる。
「…ですが、あの瞬間の恐怖が蘇って…。自分がどれほど無力で、そして汚れた存在かと、思い知らされたあの夜の記憶が…」
「もう、言うな」
アキオは凛の言葉を遮ると、その華奢な体を力強く、そして壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめた。
「お前は汚れてなどいない。お前は俺が人生で出会った中で、最も気高く、そして美しい女性だ」
アキオは彼女の髪を優しく撫でながら、その耳元ではっきりと告げた。
「俺がいる。もう誰にもお前を傷つけさせたりはしない。絶対にだ。お前の過去の痛みも苦しみも、全て俺がこの腕の中で上書きしてやる。だからもう何も怖がるな」
その絶対的な安心感を与えてくれる言葉と温もり。凛はアキオの腕の中で声を殺し、子供のように泣きじゃくった。それは、彼女の魂の奥底にこびりついていた最後の恐怖の残滓が、完全に洗い流されていく浄化の涙だった。
その夜、アキオは彼女が安らかな眠りにつくまで、一睡もせず、ただひたすらにその体を抱きしめ続けた。
王都からの旅立ち
翌日、王都を出発する朝が来た。
荷造りをしながら、アキオはふと凛とクラウディアに尋ねた。
「そういえば、二人とも王都で学んでいたと言っていたな。ご両親は、この都にいるのか? 最後に挨拶に行かなくていいのか?」
その問いに、凛はもう昨夜のような翳りのない穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「わたくしの両親はヴァルト侯爵領におりますので。ですが、また今度、顔を見せに帰りますわ。アキオ様と一緒に」
一方、クラウディアは少し複雑な表情で答えた。
「わたくしの両親は、この都の下町で暮らしております。…ですが、今回は公式な外交使節団ですもの。わたくしの個人的な事情で皆様のお時間をいただくわけにはまいりませんわ。それに、今のわたくしが帰っても、きっと両親を驚かせて心配させるだけですもの」
その大人としての分別と、娘としての寂しさが入り混じった言葉。アキオは彼女のプロ意識に感心すると同時に、その胸の内を思い、そっと彼女の頭に手を置いた。
「…そうか。分かった。だが、今度来る時は必ず時間を作る。お前が胸を張って帰れるよう、俺が最高の舞台を用意してやるからな」
「…はい、アキオ様」
クラウディアは涙をこらえ、最高の笑顔で頷いた。
兄と妹の対話
同じ頃、王の私室では、兄と妹の対話が行われていた。
「ミランダよ。お前、本当に行くのだな。エルドリアの若き王との縁談が噂されている、この状況で」
「ええ、お兄様。だからこそ行くのです。宮廷の噂や政略で決められるのではなく、わたくし自身の目で、その国の、そしてその王の価値を見定めたいのですから」
そのあまりにも大胆で、そして王族としての誇りに満ちた答え。国王は驚き、そしてすぐに腹の底から笑い出した。
「はっはっは! そうか、そうか! わしの妹はただの本の虫ではなかったようだな! よかろう! 行って確かめてまいれ! 貴様のその目で、エルドリアの若き王の器量を見定めてくるがよい!」
兄は妹が自らの意志で運命を切り拓こうとしていることを知り、心からその成長を誇りに思った。
🚀 新たな物語の始まり
そして、出発の時。
アキオたちのキャラバンには、新しい仲間が加わっていた。王家の紋章が入った質素だが上質な旅装束に身を包んだミランダ姫と、その数名の侍女たち。
国王、王妃、そして多くの貴族たちが見送る中、アキオたちの一行は聖域への帰路についた。その眼差しは、もはや侮蔑や好奇ではない。神の使いを見送るかのような畏敬の念に満ちていた。
旗艦『流星』の中で、ミランダ姫は窓の外に小さくなっていく王都を眺めながら、その胸に新しい決意を燃やす。
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