344 / 387
第344話:聖域の双翼と、天上の夜
しおりを挟む
聖域の社会システムがアヤネの母性と凛の知性という二つの柱を得て、確かな安定への道を歩み始めたある穏やかな日の午後。アキオは久しぶりに誰にも告げず、一人で町の中を散策していた。町の長としてではなく、ただこの町に住む一人の男として、その空気と人々の暮らしを肌で感じてみたくなったのだ。
まず彼が向かったのは、カイやアルトたちが中心となって建設を進めている新しい住民たちのための住宅区画だった。アキオが設計した規格化された建材を使いながらも、そこに住む人々の工夫によって一つ一つの家が個性豊かに彩られている。その光景に、アキオは棟梁として満足げに目を細めた。 だが、彼はそこで不思議な光景に気づく。完成したばかりのある家の木の壁から、見たこともない、小さく可愛らしい花が直接芽吹いているのだ。まるで木そのものが花を咲かせているかのよう。それは決して木を腐らせるような寄生植物ではない。むしろ、その花があることで家全体が生命力に満ち、森の風景と完璧に調和しているように見えた。 (…シルヴィアか) アキオは直感した。これは正妻であるハイエルフが、無意識のうちにその森を愛する心で町全体に働きかけている結果なのだと。彼女の慈愛が、無機質なはずの建材にまで新しい命を芽吹かせている。
次に、アキオは町の中心広場へと足を向けた。そこでは様々な種族の子供たちが一緒になって屈託のない笑い声を上げている。聖獣の子がその輪に加わり、元「荒くれ共」の男たちがその様子を穏やかな目で見守っている。 その、あまりにも平和な光景。だが、アキオが感じたのはそれだけではなかった。広場全体が、目には見えない、清浄でどこまでも温かい、不思議なオーラに包まれているのだ。ただそこにいるだけで心のささくれが消え、魂が浄化されていくような心地よさ。ここにいる者たちの穏やかな表情は、ただ生活が安定しているからというだけではない。 (…アウロラだな) アキオは再び確信した。これは光妃アウロラが、その聖なる存在としてこの地にいるだけで放っている、魂の救済の光なのだ。彼女の母性が、この町の全ての者の心の荒みを優しく癒やしている。
アキオは、その時はっきりと理解した。 この町は、自分が一人で創り上げたものではない、と。
自分が、その技術と力で、町の「骨格」となる家や施設を創る。 シルヴィアが、その森の叡智と生命力で、町に「血肉」となる自然との調和と豊かな実りを与える。 そしてアウロラが、その聖なる力で、町に「魂」となる心の安らぎと精神的な救済を与える。
骨と、肉と、魂。その三つが揃って初めて、この聖域は一つの完全な「生命」となるのだ。シルヴィアとアウロラ。彼女たち二人は、この聖域にとって天を翔ける対なる「双翼」そのものなのだ。
その夜。 アキオはシルヴィアとアウロラの二人を、新・中央館の最上階にある、天窓から三つの月が見える特別な部屋へと招いた。 「シルヴィア、アウロラ。今日は君たち二人に、改めて礼が言いたい」 アキオは、昼間自らが感じたその大いなる「気づき」を、二人に正直に語った。 「この町は俺一人では決して創れなかった。君たち二人がいてくれて初めて、この聖域は本当の意味で生きているんだと、そう分かったんだ。…本当に、ありがとう」
アキオの、その心からの感謝の言葉。 シルヴィアは聖域の真の女主人として、穏やかに、しかし誇らしげに微笑んだ。「まあ、あなた。ようやくお気づきになりましたの?」 アウロラもまた聖域の聖母として、慈愛に満ちた瞳で頷いた。「うむ。我らは常に、アキオ、そなたと共にありますぞ」
その夜、三人の間にもはや多くの言葉は必要なかった。 アキオは、その両腕で、シルヴィアとアウロラというこの聖域の二つの翼を、同時に、そして優しく抱きしめる。 月明かりの下、三つの影が静かに一つに重なり合った。
それは、ただの欲望の交歓ではない。 アキオの生命を創造する力。シルヴィアの自然を育む力。アウロラの魂を浄化する力。 三つの、異なる、しかし根源を同じくする聖なる力が互いを求め、共鳴し、そして完全に一つに溶け合っていく。それは、この聖域そのものが、その創造主たちと一体になる、至高の儀式だった。
ハイエルフの清らかな肌。聖女の豊満な乳房。その二つの究極の美に包まれながら、アキオの魂はこれまでに感じたことのないほどの絶対的な安らぎと、完全な充足感に満たされていく。 シルヴィアもアウロラもまた、夫から注ぎ込まれるその聖なる力と愛情の全てをその身に受け止め、恍惚と法悦の中でその魂を震わせていた。
それは、天上の夜だった。 聖域の「父」と、その「双翼」である二人の「母」。 三つの偉大な魂が完全に一つになった、その時。町の中心にそびえる巨大な生命樹が、呼応するように一際神々しい七色の光を天に向かって放ったのを、その夜、町で眠れずにいた何人かの者だけが目撃していたという。
まず彼が向かったのは、カイやアルトたちが中心となって建設を進めている新しい住民たちのための住宅区画だった。アキオが設計した規格化された建材を使いながらも、そこに住む人々の工夫によって一つ一つの家が個性豊かに彩られている。その光景に、アキオは棟梁として満足げに目を細めた。 だが、彼はそこで不思議な光景に気づく。完成したばかりのある家の木の壁から、見たこともない、小さく可愛らしい花が直接芽吹いているのだ。まるで木そのものが花を咲かせているかのよう。それは決して木を腐らせるような寄生植物ではない。むしろ、その花があることで家全体が生命力に満ち、森の風景と完璧に調和しているように見えた。 (…シルヴィアか) アキオは直感した。これは正妻であるハイエルフが、無意識のうちにその森を愛する心で町全体に働きかけている結果なのだと。彼女の慈愛が、無機質なはずの建材にまで新しい命を芽吹かせている。
次に、アキオは町の中心広場へと足を向けた。そこでは様々な種族の子供たちが一緒になって屈託のない笑い声を上げている。聖獣の子がその輪に加わり、元「荒くれ共」の男たちがその様子を穏やかな目で見守っている。 その、あまりにも平和な光景。だが、アキオが感じたのはそれだけではなかった。広場全体が、目には見えない、清浄でどこまでも温かい、不思議なオーラに包まれているのだ。ただそこにいるだけで心のささくれが消え、魂が浄化されていくような心地よさ。ここにいる者たちの穏やかな表情は、ただ生活が安定しているからというだけではない。 (…アウロラだな) アキオは再び確信した。これは光妃アウロラが、その聖なる存在としてこの地にいるだけで放っている、魂の救済の光なのだ。彼女の母性が、この町の全ての者の心の荒みを優しく癒やしている。
アキオは、その時はっきりと理解した。 この町は、自分が一人で創り上げたものではない、と。
自分が、その技術と力で、町の「骨格」となる家や施設を創る。 シルヴィアが、その森の叡智と生命力で、町に「血肉」となる自然との調和と豊かな実りを与える。 そしてアウロラが、その聖なる力で、町に「魂」となる心の安らぎと精神的な救済を与える。
骨と、肉と、魂。その三つが揃って初めて、この聖域は一つの完全な「生命」となるのだ。シルヴィアとアウロラ。彼女たち二人は、この聖域にとって天を翔ける対なる「双翼」そのものなのだ。
その夜。 アキオはシルヴィアとアウロラの二人を、新・中央館の最上階にある、天窓から三つの月が見える特別な部屋へと招いた。 「シルヴィア、アウロラ。今日は君たち二人に、改めて礼が言いたい」 アキオは、昼間自らが感じたその大いなる「気づき」を、二人に正直に語った。 「この町は俺一人では決して創れなかった。君たち二人がいてくれて初めて、この聖域は本当の意味で生きているんだと、そう分かったんだ。…本当に、ありがとう」
アキオの、その心からの感謝の言葉。 シルヴィアは聖域の真の女主人として、穏やかに、しかし誇らしげに微笑んだ。「まあ、あなた。ようやくお気づきになりましたの?」 アウロラもまた聖域の聖母として、慈愛に満ちた瞳で頷いた。「うむ。我らは常に、アキオ、そなたと共にありますぞ」
その夜、三人の間にもはや多くの言葉は必要なかった。 アキオは、その両腕で、シルヴィアとアウロラというこの聖域の二つの翼を、同時に、そして優しく抱きしめる。 月明かりの下、三つの影が静かに一つに重なり合った。
それは、ただの欲望の交歓ではない。 アキオの生命を創造する力。シルヴィアの自然を育む力。アウロラの魂を浄化する力。 三つの、異なる、しかし根源を同じくする聖なる力が互いを求め、共鳴し、そして完全に一つに溶け合っていく。それは、この聖域そのものが、その創造主たちと一体になる、至高の儀式だった。
ハイエルフの清らかな肌。聖女の豊満な乳房。その二つの究極の美に包まれながら、アキオの魂はこれまでに感じたことのないほどの絶対的な安らぎと、完全な充足感に満たされていく。 シルヴィアもアウロラもまた、夫から注ぎ込まれるその聖なる力と愛情の全てをその身に受け止め、恍惚と法悦の中でその魂を震わせていた。
それは、天上の夜だった。 聖域の「父」と、その「双翼」である二人の「母」。 三つの偉大な魂が完全に一つになった、その時。町の中心にそびえる巨大な生命樹が、呼応するように一際神々しい七色の光を天に向かって放ったのを、その夜、町で眠れずにいた何人かの者だけが目撃していたという。
11
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる