五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
351 / 387

第351話:オリハルコンの炉火と、姫君たちの初仕事

しおりを挟む
 聖域から技術派遣団を送り出し、町の日常が新たな段階へと進み始めたある晴れた日。ドルガン親方の鍛冶場は、かつてない熱気と緊張感に包まれていた。
   工房の中心には、この実験のために特別改良された炉。その中にはスタンフィールド公爵から託された伝説の金属「オリハルコン」の原石が静かに鎮座している。

「よし、準備はいいか! 火を入れろ!」

 ドルガン親方の檄が飛ぶ。弟子となったボリンとフィーリが、獣人たちが命がけで手に入れた「火蜥蜴の皮のふいご」を全力で踏み込む。炉には伝説の「炎樹」の薪が惜しげもなくくべられた。
   ゴオオオッという竜の咆哮にも似た音と共に、炉の温度が常識外の領域まで上昇する。灼熱の熱気に包まれる工房。アキオもフレイヤも、固唾をのんで炉の中を見守る。

 しかし、どれほど温度を上げようともオリハルコンはその姿を変えない。ただ内側から鈍い虹色の輝きをわずかに増すだけだった。

 数時間後、炉の火が落とされた。 「……駄目じゃ。この程度の熱では、この神の金属は欠伸もしておらんわ」
   ドルガン親方は悔しそうに、けれどどこか楽しそうに唸った。 「これ以上の火力を生み、安定させるには炉の構造を根本から見直す必要がある。城壁のような『巨大溶鉱炉』がな。そのためには、あの炎樹の薪が今の十倍は必要になるじゃろう」

 巨大な炉の建設と、膨大な燃料の確保。町の技術と資源に、新たな課題が突きつけられた。

 その日の午後。アキオはこの課題に挑み、聖域の未来に新しい風を吹き込むため、新しく妻となった三人を執務室へ招いた。

「リリアーナ、シャルロッテ、イザベラ。君たちにそれぞれの『初仕事』を託したい」

 アキオの真剣な言葉に、三人の背筋が伸びる。アキオはまずシャルロッテに向き直った。

「シャルロッテ。君に『巨大溶鉱炉建設プロジェクト』の最高責任者を任せたい。君の商才と交渉術で、この途方もない事業に必要な全ての資源と人員を差配してほしい。君はこの町の『繁栄の剣』なのだから」

  「まあ……! わたくしにそのような大役を……! はい、アキオ様! このシャルロッテ、必ずやご期待にお応えしてみせますわ!」

 シャルロッテは身を引き締め、これ以上ない喜びと覚悟で引き受けた。次はリリアーナだ。

「リリアーナ。君にはオリハルコンという国家の運命さえ左右する技術をどう守り、扱うべきか。危機管理と情報統制の全責任を託したい。君の知恵で力が悪用されぬよう、我らの『知恵の盾』となってほしい」 「……承知いたしました。アキオ様。聖域の安寧のために、この身と知恵の全てを捧げましょう」

 リリアーナもまた、静かに、力強く頷く。そして最後にイザベラ。

「イザベラ。君にはこの聖域で最も尊く、難しい仕事を頼みたい。大事業に汗を流す元『荒くれ共』や新しい住民たちの心の教育係だ。君の優しい心と気高い魂で、彼らに人としての思いやりと礼節を教えてあげてほしい」 「はい、アキオ様……! このイザベラ、未熟者ではございますが、必ずやそのお役目を果たしてごらんにいれます」

 イザベラは初めて与えられた自分だけの役割に涙を浮かべ、誇らしげに微笑んだ。

  この日を境に、聖域の日常は新しい色を帯び始めた。

 シャルロッテは凛やカイ、アルトたちと連日建設資材の調達計画について熱い議論を交わす。
   リリアーナはクラウスやケンタたち防衛隊と、工房周辺の警備体制について緻密な計画を練り上げる。
   そしてイザベラは町の広場で、元荒くれ者の男たちに向き合っていた。 「お食事をいただく時は、まず作ってくださった方に感謝の言葉を述べるところから始めましょう」
   一生懸命に作法を教えるそのいじらしくも気高い姿に、男たちも自然と言葉遣いを改めるようになっていく。

 アキオはそれぞれの戦場で才能を輝かせ始めた妻たちの姿を、深い満足感と愛情と共に見守っていた。
   この聖域は彼女たちの力によって、さらに豊かに、強く育っていく。その確信を胸に。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...