五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第351話:オリハルコンの炉火と、姫君たちの初仕事

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 聖域から技術派遣団を送り出し、町の日常が新たな段階へと進み始めたある晴れた日。ドルガン親方の鍛冶場は、かつてない熱気と緊張感に包まれていた。
   工房の中心には、この実験のために特別改良された炉。その中にはスタンフィールド公爵から託された伝説の金属「オリハルコン」の原石が静かに鎮座している。

「よし、準備はいいか! 火を入れろ!」

 ドルガン親方の檄が飛ぶ。弟子となったボリンとフィーリが、獣人たちが命がけで手に入れた「火蜥蜴の皮のふいご」を全力で踏み込む。炉には伝説の「炎樹」の薪が惜しげもなくくべられた。
   ゴオオオッという竜の咆哮にも似た音と共に、炉の温度が常識外の領域まで上昇する。灼熱の熱気に包まれる工房。アキオもフレイヤも、固唾をのんで炉の中を見守る。

 しかし、どれほど温度を上げようともオリハルコンはその姿を変えない。ただ内側から鈍い虹色の輝きをわずかに増すだけだった。

 数時間後、炉の火が落とされた。 「……駄目じゃ。この程度の熱では、この神の金属は欠伸もしておらんわ」
   ドルガン親方は悔しそうに、けれどどこか楽しそうに唸った。 「これ以上の火力を生み、安定させるには炉の構造を根本から見直す必要がある。城壁のような『巨大溶鉱炉』がな。そのためには、あの炎樹の薪が今の十倍は必要になるじゃろう」

 巨大な炉の建設と、膨大な燃料の確保。町の技術と資源に、新たな課題が突きつけられた。

 その日の午後。アキオはこの課題に挑み、聖域の未来に新しい風を吹き込むため、新しく妻となった三人を執務室へ招いた。

「リリアーナ、シャルロッテ、イザベラ。君たちにそれぞれの『初仕事』を託したい」

 アキオの真剣な言葉に、三人の背筋が伸びる。アキオはまずシャルロッテに向き直った。

「シャルロッテ。君に『巨大溶鉱炉建設プロジェクト』の最高責任者を任せたい。君の商才と交渉術で、この途方もない事業に必要な全ての資源と人員を差配してほしい。君はこの町の『繁栄の剣』なのだから」

  「まあ……! わたくしにそのような大役を……! はい、アキオ様! このシャルロッテ、必ずやご期待にお応えしてみせますわ!」

 シャルロッテは身を引き締め、これ以上ない喜びと覚悟で引き受けた。次はリリアーナだ。

「リリアーナ。君にはオリハルコンという国家の運命さえ左右する技術をどう守り、扱うべきか。危機管理と情報統制の全責任を託したい。君の知恵で力が悪用されぬよう、我らの『知恵の盾』となってほしい」 「……承知いたしました。アキオ様。聖域の安寧のために、この身と知恵の全てを捧げましょう」

 リリアーナもまた、静かに、力強く頷く。そして最後にイザベラ。

「イザベラ。君にはこの聖域で最も尊く、難しい仕事を頼みたい。大事業に汗を流す元『荒くれ共』や新しい住民たちの心の教育係だ。君の優しい心と気高い魂で、彼らに人としての思いやりと礼節を教えてあげてほしい」 「はい、アキオ様……! このイザベラ、未熟者ではございますが、必ずやそのお役目を果たしてごらんにいれます」

 イザベラは初めて与えられた自分だけの役割に涙を浮かべ、誇らしげに微笑んだ。

  この日を境に、聖域の日常は新しい色を帯び始めた。

 シャルロッテは凛やカイ、アルトたちと連日建設資材の調達計画について熱い議論を交わす。
   リリアーナはクラウスやケンタたち防衛隊と、工房周辺の警備体制について緻密な計画を練り上げる。
   そしてイザベラは町の広場で、元荒くれ者の男たちに向き合っていた。 「お食事をいただく時は、まず作ってくださった方に感謝の言葉を述べるところから始めましょう」
   一生懸命に作法を教えるそのいじらしくも気高い姿に、男たちも自然と言葉遣いを改めるようになっていく。

 アキオはそれぞれの戦場で才能を輝かせ始めた妻たちの姿を、深い満足感と愛情と共に見守っていた。
   この聖域は彼女たちの力によって、さらに豊かに、強く育っていく。その確信を胸に。
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