五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第352話:妻たちの深慮と、二輪の薔薇

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  聖域の発展は、もはやアキオ一人の知恵と力だけに支えられているわけではなかった。  彼が家族という名の温かい大地を耕し続けた結果、そこには多種多様な美しい花々が、それぞれの才能を見事に咲かせ始めていたのだ。

 その日の午前。新・中央館の一室、さながら『聖域街道開発公社』の総裁室と化した部屋では、第八夫人シャルロッテがヴァルト公爵領の熟練商人たちを相手に、一歩も引かない交渉を繰り広げていた。

「……ですから、この『アキオ鋼』製の農具一式を現物提供する代わりに、そちらからは街道建設に必要な石材と木材を、こちらの指定価格の三割増しで納入していただく。これこそが双方にとって最も実りの多い取引ではございませんこと?」

 公爵令嬢として培われた交渉術と、聖域の価値を的確に提示する手腕。商人たちは、この若く美しい総裁の前に、ただ頷くことしかできなかった。

 一方、別の執務室では、第七夫人リリアーナが凛と共に、町の新しい法整備に取り組んでいた。

「凛様。新旧住民間の土地所有権に関する条文ですが、もう少し解釈の幅を持たせた方が、後々の紛争を未然に防げるかと存じます」 「ええ、リリアーナ様のご指摘通りですわ。さすがは帝国の法にも通じていらっしゃる。ではこちらの文言を追加しましょう」

 二人の才媛の知性が共鳴し合い、聖域の未来を守る揺るぎない礎が築かれていく。


 その日の午後。  陽光が降り注ぐ談話室にて、シルヴィア主催の「妻会」が開かれていた。  議題は一つ。夫・アキオの心身の安寧について。

「皆様ご存知の通り、わたくし、アヤネ、キナ、セレスティーナ、レオノーラと、多くが妊娠中あるいは産後間もない身。アキオ様にご満足いただくための夜のお相手もままなりません。このままではあの方の有り余る活力が、行き場を失ってしまいますわ」

 シルヴィアのどこまでも夫を思いやる深慮に、妻たちは静かに頷いた。

「つきましては、しばらくの間、アキオ様のお相手はまだ身体の自由が利く新しい妹たちにお願いしたいのです。リリアーナさん、シャルロッテさん、凛さん、クラウディアさん。この四名に当面の間、その大役をお任せしたいのですが……よろしいですわね?」

 その提案に、凛が大きくなったお腹を愛おしそうにさすりながら、少し残念そうに微笑んだ。

「わたくしはもう臨月も近いですから、長くはお役に立てませんけれど……。ですがアキオ様のためとあらば喜んで」 「凛さん、ありがとう。もちろん貴女はご自分の身体を第一に考えてくださいまし」

 シルヴィアはそう言うと、リリアーナとシャルロッテに優しい視線を向けた。  二人はその重大な「お役目」の指名に顔を真っ赤にしながらも、妻としてアキオを支えられる喜びと覚悟を瞳に宿らせ、深く頷いた。

 その夜。アキオの私室を、リリアーナとシャルロッテが二人で訪れた。
「……というわけで、アキオ様。今宵よりしばらくの間、わたくしたち四人が貴方様のおそばをお守りいたします」

 リリアーナが少し緊張した面持ちで告げると、シャルロッテが悪戯っぽく、しかし真剣な眼差しで付け加えた。

「ですので、アキオ様? 今宵はわたくしたち二人で、貴方様をそれはもう骨の髄まで癒やしてさしあげますから……覚悟なさいませ?」

 あまりにも贅沢で、愛情に満ちた申し出。アキオは嬉しい悲鳴を上げるしかなかった。

「はは……それはなんとも頼もしいな。分かった。今夜は君たち二人に俺の全てを委ねるとしよう」

 氷の薔薇のように気高く、触れれば溶けてしまいそうなほど繊細なリリアーナ。  太陽の薔薇のように明るく、知的な駆け引きを楽しむシャルロッテ。  アキオは対照的な二輪の華を、同時にその大きな腕の中に抱いた。

 最初は互いに遠慮し緊張していた二人だったが、アキオの全てを受け入れる海のごとき優しさに包まれるうち、次第にその身と心を委ねていった。  そして気づけば、二人はライバルとしてではなく、姉妹として共に夫を愛するという新しい喜びに目覚めていく。  リリアーナが唇を求めれば、シャルロッテが背中に甘くしなだれかかる。シャルロッテが愛を囁けば、リリアーナが熱い吐息で応える。

 それはアキオにとって忘れられない濃密な一夜となった。  そして二人の新しい妻にとってもまた、互いの存在を認め合い、共にこの聖域で生きていくという「新しい絆」が生まれた誓いの夜となったのだった。
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