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第386話:出発の朝と、女神たちの祝福
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古代遺跡へ出発する日の朝。空は新しい門出を祝福するかのように、どこまでも青く澄み渡っていた。
アキオは日の出と共に目を覚ますと、隣で眠る二人の女神の穏やかな寝顔をしばし愛おしそうに見つめていた。彼の右腕を枕にしているのは正妻シルヴィア。その銀色の髪が朝日に照らされてきらきらと輝いている。そして彼の左胸に子供のように甘えて顔をうずめているのは光妃アウロラ。その神々しいまでの寝顔はこの聖域の平和そのものを象徴しているかのようだった。
アキオがそっと身を起こすと、二人の妻もまたほぼ同時にその美しい瞳を開いた。
「……あら、あなた。もう起きていらしたのね」
「うむ……アキオ。いよいよ出発じゃな」
シルヴィアはいつもと変わらぬ穏やかな微笑みでアキオの旅支度を手伝い始める。革鎧のベルトを締め、特製の水筒に彼女が調合した栄養満点の薬草茶を注いでいく。その手つきはどこまでも優雅で、そして夫への絶対的な信頼に満ちていた。
「あなた。これを」
シルヴィアは小さな革袋をアキオの腰ベルトに結びつけた。中からはハイエルフにしか扱えない希少な解毒薬草の香りが漂う。
「遺跡には未知の毒を持つ植物や虫がいるやもしれません。わたくしも同行いたしますが、念のため隊長である貴方が持っていてくださると安心ですわ」
「ありがとう、シルヴィア。君がいてくれるだけで俺は百人力だよ」
アキオが感謝を述べると、今度はアウロラがその神々しい身体をゆっくりと起こしアキオの前に立った。
「アキオ。わらわからも祝福を授けよう」
アウロラはアキオの額に自らの額をそっと合わせた。彼女の魂から温かく、そして力強い聖なる光がアキオの全身へと流れ込んでいく。それはあらゆる邪気を払い持ち主を守護するという、女神からの最も強力な加護の祈りだった。
「これでどんな魔術的な罠があろうとも、そなたの魂を傷つけることはできぬ。じゃが決して無茶はしてくれるなよ。そなたの身はもはやそなた一人のものではないのじゃからな」
「ああ、分かっているさ」
シルヴィアの現実的な守りとアウロラの霊的な守り。聖域を支える二人の女神からのそれぞれの形で示される深い愛情。アキオはこの二人がいる限り、自分は決して道を踏み外すことはないと改めて強く実感する。彼は二人の妻をその両腕で力強く、そして優しく抱きしめた。
「行ってくる」
「ええ、いってらっしゃいませ、あなた」
「うむ。土産話を楽しみにしておるぞ」
それは言葉少なで、しかし何よりも強い信頼と愛情に満ちた朝の誓いの儀式だった。
中央館の一階ロビーには既に調査隊のメンバーが全員集合していた。キナは獲物を前にした猟犬のように目を輝かせ、リザとギムルはこれから始まる未知との遭遇に武者震いを抑えきれない様子だ。ユメは真新しい帳面を胸に抱き、その顔には記録者としての使命感が溢れている。
「よし、皆、準備はいいな。出発しよう」
アキオの号令一下、調査隊は多くの仲間たちに見送られながら中央館を後にした。
町の門へと向かう朝の目抜き通り。そこにはアキオがこれまで築き上げてきた聖域の成果が豊かな日常の風景として広がっていた。
石畳で舗装された道は早朝の清掃が行き届き、塵一つ落ちていない。道の両脇を流れる水路からはせせらぎの音が心地よく響く。アキオが設計した「森の恵み浄化システム」が、今やこの町の快適な生活になくてはならないものとして完全に機能している証拠だ。
そしてアキオたちの目に最も多く飛び込んできたのは、若い母親たちがその傍らで楽々と押しているあの乗り物だった。
「あら、アヤネ様。おはようございます」
「おはようございます、サラさん。カイさんはもう仕事に?」
「ええ! 今朝もカイったら、朝一番に工房へ飛んでいきましたわ。『アキオ様の留守は俺たちがしっかり守らねえとな!』なんて息巻いちゃって」
サラが大きくなったお腹を愛おしそうに撫でながらアキオに深々と頭を下げる。彼女の隣ではアキオが開発した『魔導乳母車』の中でカイとの間にできた最初の子がすやすやと健やかな寝息を立てていた。魔石の力で軽く押すだけで滑るように進むその乗り物は、聖域のベビーラッシュを支えた偉大な発明品の一つだ。以前はまだ試作品だったものが、今や町の至る所で見かける当たり前の光景となっている。
前方からはパンを焼く香ばしい匂いと共に子供たちの元気な声が聞こえてくる。クラウディアが教鞭をとる寺子屋へと向かう集団だろう。彼らが着ている丈夫な服も身につけている革靴も、全てがこの聖域の工房で作られたものだ。
アキオはこの、どこにでもあるようで、しかしどこにもない奇跡のような平和な日常の風景を深く深くその目に焼き付けた。これこそが自分が守りたかったものであり、そしてこれから先も守り抜かねばならない宝物なのだ。
町の正門前ではアヤネやリリアーナ、シャルロッテといった留守を預かる妻たちが見送りのために集まっていた。
「あなた、どうかご無事で」
「アキオ殿。必ずや成果を上げて戻られると信じております」
「最高の『リターン』、期待しておりますわよ!」
それぞれの言葉にそれぞれの愛情がこもっている。
「ああ、皆も無理はするなよ。町のことは頼んだぞ」
アキオは妻たち一人一人と、そして見送りに来てくれたカイやザックたちとも固い握手を交わした。
やがて巨大な門がゆっくりと開かれていく。
門の向こうには朝日に照らされた雄大で、しかしまだ多くの謎を秘めた広大な森が広がっていた。
「よし、行くぞ!」
アキオの号令と共に六名の調査隊は新しい冒険へとその第一歩を力強く踏み出した。
聖域の未来をその手で掴み取るために。
アキオは日の出と共に目を覚ますと、隣で眠る二人の女神の穏やかな寝顔をしばし愛おしそうに見つめていた。彼の右腕を枕にしているのは正妻シルヴィア。その銀色の髪が朝日に照らされてきらきらと輝いている。そして彼の左胸に子供のように甘えて顔をうずめているのは光妃アウロラ。その神々しいまでの寝顔はこの聖域の平和そのものを象徴しているかのようだった。
アキオがそっと身を起こすと、二人の妻もまたほぼ同時にその美しい瞳を開いた。
「……あら、あなた。もう起きていらしたのね」
「うむ……アキオ。いよいよ出発じゃな」
シルヴィアはいつもと変わらぬ穏やかな微笑みでアキオの旅支度を手伝い始める。革鎧のベルトを締め、特製の水筒に彼女が調合した栄養満点の薬草茶を注いでいく。その手つきはどこまでも優雅で、そして夫への絶対的な信頼に満ちていた。
「あなた。これを」
シルヴィアは小さな革袋をアキオの腰ベルトに結びつけた。中からはハイエルフにしか扱えない希少な解毒薬草の香りが漂う。
「遺跡には未知の毒を持つ植物や虫がいるやもしれません。わたくしも同行いたしますが、念のため隊長である貴方が持っていてくださると安心ですわ」
「ありがとう、シルヴィア。君がいてくれるだけで俺は百人力だよ」
アキオが感謝を述べると、今度はアウロラがその神々しい身体をゆっくりと起こしアキオの前に立った。
「アキオ。わらわからも祝福を授けよう」
アウロラはアキオの額に自らの額をそっと合わせた。彼女の魂から温かく、そして力強い聖なる光がアキオの全身へと流れ込んでいく。それはあらゆる邪気を払い持ち主を守護するという、女神からの最も強力な加護の祈りだった。
「これでどんな魔術的な罠があろうとも、そなたの魂を傷つけることはできぬ。じゃが決して無茶はしてくれるなよ。そなたの身はもはやそなた一人のものではないのじゃからな」
「ああ、分かっているさ」
シルヴィアの現実的な守りとアウロラの霊的な守り。聖域を支える二人の女神からのそれぞれの形で示される深い愛情。アキオはこの二人がいる限り、自分は決して道を踏み外すことはないと改めて強く実感する。彼は二人の妻をその両腕で力強く、そして優しく抱きしめた。
「行ってくる」
「ええ、いってらっしゃいませ、あなた」
「うむ。土産話を楽しみにしておるぞ」
それは言葉少なで、しかし何よりも強い信頼と愛情に満ちた朝の誓いの儀式だった。
中央館の一階ロビーには既に調査隊のメンバーが全員集合していた。キナは獲物を前にした猟犬のように目を輝かせ、リザとギムルはこれから始まる未知との遭遇に武者震いを抑えきれない様子だ。ユメは真新しい帳面を胸に抱き、その顔には記録者としての使命感が溢れている。
「よし、皆、準備はいいな。出発しよう」
アキオの号令一下、調査隊は多くの仲間たちに見送られながら中央館を後にした。
町の門へと向かう朝の目抜き通り。そこにはアキオがこれまで築き上げてきた聖域の成果が豊かな日常の風景として広がっていた。
石畳で舗装された道は早朝の清掃が行き届き、塵一つ落ちていない。道の両脇を流れる水路からはせせらぎの音が心地よく響く。アキオが設計した「森の恵み浄化システム」が、今やこの町の快適な生活になくてはならないものとして完全に機能している証拠だ。
そしてアキオたちの目に最も多く飛び込んできたのは、若い母親たちがその傍らで楽々と押しているあの乗り物だった。
「あら、アヤネ様。おはようございます」
「おはようございます、サラさん。カイさんはもう仕事に?」
「ええ! 今朝もカイったら、朝一番に工房へ飛んでいきましたわ。『アキオ様の留守は俺たちがしっかり守らねえとな!』なんて息巻いちゃって」
サラが大きくなったお腹を愛おしそうに撫でながらアキオに深々と頭を下げる。彼女の隣ではアキオが開発した『魔導乳母車』の中でカイとの間にできた最初の子がすやすやと健やかな寝息を立てていた。魔石の力で軽く押すだけで滑るように進むその乗り物は、聖域のベビーラッシュを支えた偉大な発明品の一つだ。以前はまだ試作品だったものが、今や町の至る所で見かける当たり前の光景となっている。
前方からはパンを焼く香ばしい匂いと共に子供たちの元気な声が聞こえてくる。クラウディアが教鞭をとる寺子屋へと向かう集団だろう。彼らが着ている丈夫な服も身につけている革靴も、全てがこの聖域の工房で作られたものだ。
アキオはこの、どこにでもあるようで、しかしどこにもない奇跡のような平和な日常の風景を深く深くその目に焼き付けた。これこそが自分が守りたかったものであり、そしてこれから先も守り抜かねばならない宝物なのだ。
町の正門前ではアヤネやリリアーナ、シャルロッテといった留守を預かる妻たちが見送りのために集まっていた。
「あなた、どうかご無事で」
「アキオ殿。必ずや成果を上げて戻られると信じております」
「最高の『リターン』、期待しておりますわよ!」
それぞれの言葉にそれぞれの愛情がこもっている。
「ああ、皆も無理はするなよ。町のことは頼んだぞ」
アキオは妻たち一人一人と、そして見送りに来てくれたカイやザックたちとも固い握手を交わした。
やがて巨大な門がゆっくりと開かれていく。
門の向こうには朝日に照らされた雄大で、しかしまだ多くの謎を秘めた広大な森が広がっていた。
「よし、行くぞ!」
アキオの号令と共に六名の調査隊は新しい冒険へとその第一歩を力強く踏み出した。
聖域の未来をその手で掴み取るために。
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