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第387話:森の道行きと、古代の門
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聖域の門を出発して、二日が過ぎた。アキオ率いる遺跡調査隊は、キナの的確な先導と、聖獣たちの守護のもと、鬱蒼とした森の奥深くへと順調に進んでいた。道中は、驚くほど穏やかだった。危険な魔獣の気配はなく、鳥のさえずりと木々の葉が風にそよぐ音だけが、一行を優しく包んでいる。
「ふう、この辺りで一度、休憩にしようか」
昼餉の時刻、アキオは開けた木漏れ日の差す広場を見つけ、隊員たちに声をかけた。
「賛成! 腹が減っては戦はできぬ、ってな! よーし、お前ら、腕によりをかけて極上の昼飯を作ってやるぜ!」
アキオがそう言うと、キナが「だんな、こいつが使えるぜ!」と、今朝方、聖獣と連携して仕留めたばかりの、丸々と太った森ウサギを誇らしげに掲げてみせた。
アキオが手際よくウサギを捌き、香草と共に串焼きにしていく傍らで、他のメンバーもそれぞれの役割を果たしていた。シルヴィアは、周囲に自生している薬草を摘み、食後の消化を助けるためのお茶の準備を始める。
「まあ、ユメさん。これは『月光草』といって、安眠効果もある、とても珍しい薬草ですのよ。夜、このお茶を飲めば、きっとぐっすり眠れますわ」
「わあ…! ありがとうございます、シルヴィア様!」
ユメは、シルヴィアから受け取った薬草の形を、熱心に帳面へとスケッチしていく。その瞳は、知識欲にきらきらと輝いていた。
少し離れた場所では、リザとギムルが、小川のほとりで発見した、奇妙な光沢を放つ鉱石を巡って、またしても論争を繰り広げている。
「この金属結晶の構造…! 自然物とは思えないほどの純度と魔力伝導率だわ! これは、古代の錬金術師が精製したに違いない!」
「何を言うか! この均一な金属粒子と、叩けばさらに硬度を増す性質は、どう見てもドワーフの秘伝の合金術のそれに近いわい! 大方、わしらのご先祖様が作ったもんだろう!」
二人の若き天才は、互いの知識と誇りをぶつけ合いながらも、その実、この共同作業を心から楽しんでいるようだった。
やがて、森ウサギの串焼きが、香ばしい匂いと共に、こんがりと焼き上がる。アキオが特製の醤油ベースのタレを塗り、それを熱々のうちに皆に配ると、あちこちから幸福なため息が漏れた。
「うめえええっ! だんなの飯は、世界一だぜ!」
「本当ですわ…。どんな高級な宮廷料理も、この味には敵いません…」
焚き火を囲みながら、皆で同じ釜の飯を食う。それは、身分も、種族も、専門分野も超えた、一つの「家族」の姿だった。アキオは、この何気なくもかけがえのない時間こそが、聖域の力の源泉なのだと、改めて実感していた。
腹ごなしを終え、一行が再び歩みを進めると、森の様相が、明らかに変わってきた。
木々の間隔が、不自然なほどに均一になり、地面には、苔むしてはいるものの、明らかに人の手で敷き詰められた石畳が姿を現し始めたのだ。
「…近いな」
キナが、鋭い視線で前方の谷底を見据える。
「ああ。シルヴィア、魔力の流れはどうだ?」
「ええ、あなた。とても穏やかです。ですが、この土地全体から、とても古い、そして巨大な『想い』のようなものを感じますわ。まるで、この森全体が、何かをずっと待ち続けているかのような…」
シルヴィアのその言葉に、一行は、ごくりと息をのんだ。
そして、ついに、その時は訪れた。
谷底へと続く、最後の斜面を降りきった一行の目の前に、その信じられない光景が広がったのだ。
谷の底には、巨大な城壁のような石垣が延々と続いていた。その高さは、ゆうに10メートルを超え、蔦や苔に覆われながらも、その威容は少しも失われていない。そして、その城壁の中央には、巨大なアーチ状の門が、まるで一行を待ち構えていたかのように、その口を静かに開けていた。
門の素材は、リザとギムルが道中で発見した、あの未知の金属。悠久の時を経てもなお、錆一つなく、鈍い輝きを放っている。
「…すげえ…」
誰からともなく、感嘆の声が漏れた。
「これが…古代遺跡の入り口…」
アキオは、あまりにも荘厳で、そしてどこか物悲しい美しさを湛えた古代の門を、ただ呆然と見上げる。
アウロラが感じ取った「悲しい囁き」。シルヴィアが感じた「待ち続ける想い」。その全ての答えが、この門の向こうにある。
「よし、行こう。だが、警戒は怠るな」
アキオの号令一下、調査隊は息を整えると、ゆっくりと、その古代の門へと足を踏み入れた。
聖域の住人たちと、古代の魔法文明。
時を超えた、二つの世界の出会いが、今、始まろうとしていた。
「ふう、この辺りで一度、休憩にしようか」
昼餉の時刻、アキオは開けた木漏れ日の差す広場を見つけ、隊員たちに声をかけた。
「賛成! 腹が減っては戦はできぬ、ってな! よーし、お前ら、腕によりをかけて極上の昼飯を作ってやるぜ!」
アキオがそう言うと、キナが「だんな、こいつが使えるぜ!」と、今朝方、聖獣と連携して仕留めたばかりの、丸々と太った森ウサギを誇らしげに掲げてみせた。
アキオが手際よくウサギを捌き、香草と共に串焼きにしていく傍らで、他のメンバーもそれぞれの役割を果たしていた。シルヴィアは、周囲に自生している薬草を摘み、食後の消化を助けるためのお茶の準備を始める。
「まあ、ユメさん。これは『月光草』といって、安眠効果もある、とても珍しい薬草ですのよ。夜、このお茶を飲めば、きっとぐっすり眠れますわ」
「わあ…! ありがとうございます、シルヴィア様!」
ユメは、シルヴィアから受け取った薬草の形を、熱心に帳面へとスケッチしていく。その瞳は、知識欲にきらきらと輝いていた。
少し離れた場所では、リザとギムルが、小川のほとりで発見した、奇妙な光沢を放つ鉱石を巡って、またしても論争を繰り広げている。
「この金属結晶の構造…! 自然物とは思えないほどの純度と魔力伝導率だわ! これは、古代の錬金術師が精製したに違いない!」
「何を言うか! この均一な金属粒子と、叩けばさらに硬度を増す性質は、どう見てもドワーフの秘伝の合金術のそれに近いわい! 大方、わしらのご先祖様が作ったもんだろう!」
二人の若き天才は、互いの知識と誇りをぶつけ合いながらも、その実、この共同作業を心から楽しんでいるようだった。
やがて、森ウサギの串焼きが、香ばしい匂いと共に、こんがりと焼き上がる。アキオが特製の醤油ベースのタレを塗り、それを熱々のうちに皆に配ると、あちこちから幸福なため息が漏れた。
「うめえええっ! だんなの飯は、世界一だぜ!」
「本当ですわ…。どんな高級な宮廷料理も、この味には敵いません…」
焚き火を囲みながら、皆で同じ釜の飯を食う。それは、身分も、種族も、専門分野も超えた、一つの「家族」の姿だった。アキオは、この何気なくもかけがえのない時間こそが、聖域の力の源泉なのだと、改めて実感していた。
腹ごなしを終え、一行が再び歩みを進めると、森の様相が、明らかに変わってきた。
木々の間隔が、不自然なほどに均一になり、地面には、苔むしてはいるものの、明らかに人の手で敷き詰められた石畳が姿を現し始めたのだ。
「…近いな」
キナが、鋭い視線で前方の谷底を見据える。
「ああ。シルヴィア、魔力の流れはどうだ?」
「ええ、あなた。とても穏やかです。ですが、この土地全体から、とても古い、そして巨大な『想い』のようなものを感じますわ。まるで、この森全体が、何かをずっと待ち続けているかのような…」
シルヴィアのその言葉に、一行は、ごくりと息をのんだ。
そして、ついに、その時は訪れた。
谷底へと続く、最後の斜面を降りきった一行の目の前に、その信じられない光景が広がったのだ。
谷の底には、巨大な城壁のような石垣が延々と続いていた。その高さは、ゆうに10メートルを超え、蔦や苔に覆われながらも、その威容は少しも失われていない。そして、その城壁の中央には、巨大なアーチ状の門が、まるで一行を待ち構えていたかのように、その口を静かに開けていた。
門の素材は、リザとギムルが道中で発見した、あの未知の金属。悠久の時を経てもなお、錆一つなく、鈍い輝きを放っている。
「…すげえ…」
誰からともなく、感嘆の声が漏れた。
「これが…古代遺跡の入り口…」
アキオは、あまりにも荘厳で、そしてどこか物悲しい美しさを湛えた古代の門を、ただ呆然と見上げる。
アウロラが感じ取った「悲しい囁き」。シルヴィアが感じた「待ち続ける想い」。その全ての答えが、この門の向こうにある。
「よし、行こう。だが、警戒は怠るな」
アキオの号令一下、調査隊は息を整えると、ゆっくりと、その古代の門へと足を踏み入れた。
聖域の住人たちと、古代の魔法文明。
時を超えた、二つの世界の出会いが、今、始まろうとしていた。
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