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第七話 魔女と狼、踏み出してみる

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「……で、見せればいいんだよね?」

 次の日。
 キルケはルーと寝室で向かい合っていた

 ベッドの上で正座をして、ふたりで微妙にもじもじしているところを先に切り出したのはルーだ。
 昨日、自分から見せてほしいと頼んだくせにどうしたらいいかわからなくなっていたキルケは、ほっとしてうなずいた。

「うん、できれば自分で処理をしているところも見せてくれたら――」
「それはしないって言っただろ」

 ぴしゃりと断られる。
 ちょっと残念な気持ちになったが、キルケはそれにもうなずいた。

「お前の気持ちを尊重する。見せてくれるだけでもいい」

 と言いつつ、先ほどから気になっていることがあった。

 ルーは今、薄い夜着の上下を身にまとっているだけだ。
 だから彼の肉体の線が、ゆるやかな布の服ごしによくわかる。
 たとえばがっしりした肩周りだとか、引き締まって意外に細い腰だとかだ。筋肉によろわれたしなやかで強靭なルーの身体は、改めて見ると惚れ惚れする造形美だった。

(……しかし)

 今注目すべきなのは、彼の脚のあいだ――そう、股間である。
 キルケはじろじろとそこを見た。

 勃起していた。

 薄い布地は下にあるそれをまったく隠していない。

「見すぎだよ」

 さすがに恥ずかしくなったのか、ルーが顔をそむけて咳払いする。

「なにを恥ずかしがっている? 見せるのははじめてじゃあるまいし」
「君は本当に人の気持ちになってみるってことを知らないね、キルケ。この前も言ったけど、改めて見せると結構恥ずかしいんだよ。自分だって僕にあれこれ見られるのは恥ずかしいだろうに」
「確かにそうだが、お前はいつも積極的だから……いや、そんなことはどうでもいい。じゃあ出してみてくれるか? それを」

 ルーが深いため息をついたのがわかった。
 観念したのか、夜着の前の紐をほどいて一気にズボンを下げる。

 ぶるんっ、という勢いでそれが出てきた。

「……これでいい?」
「前にこうした時には、大きくするところからだったが……」

 キルケは早速、つんつんとそれをつついた。
 完全に大きくなっているというわけではなさそうだが、以前のようにふにゃふにゃのところからではない。

「どうして今日はいきなり大きいんだ?」
「それは、昨日君とできなかったからかな」
「というと?」

 キルケは指でつうっと、熱い屹立をなぞる。特に意味があってやった行為ではなかった――目の前に立派なものがあるので、いじらずにはいられなかっただけである。
 ルーの腹筋にふっと力が入ったのがわかった。

「それは……つまり。君と昨日できなかったということは……」

 指の腹で柔らかくなぞるようにごつごつしたそれに触れる。そうするとルーの呼吸がわずかに乱れて、また大きくなった気がした。

 沈黙してしまったルーに、キルケは先を促した。

「それで?」
「……処理が追い付いてなくて、大きくなってるんだ……」
「処理が追いついてないとは、どういうことだ」
「だから、その……」

 指の先でくびれた段差のあたりをくすぐると、ルーのお腹がわずかに波打つ。

(ルーにもいろいろと弱点がありそうだな)

 しかし、改めて見ると相当に大きい――気がした。
 世間一般の男性のこれがどんな大きさなのだか知っているわけではないので、はっきりとは言えるわけではない。が、片手でつかみきれなさそうな太さといい長さといい、体格相応の大きさはありそうだ。

 これが中に入って狼藉を働いているのだと思うと、むずむずした。

「キルケ……あんまりいたずらしないでよ」

 ふとルーの手が伸びてきて、優しくキルケの手をつかんだ。
 思わずハッとして顔を上げる。

「す、すまなかった。つい……」
「いや、僕としてはいじってくれても構わないんだ。ただ、そうするとただ見せるだけじゃ収まらなくなるだけで」

 言いながら、ルーの視線が熱を帯びている。
 キルケは昨日の夜、彼が『見せるだけですめばいいけど』と言っていたことを思い出した――なるほど、ルーはこういうことを予見していたのだ。

 この人狼は魔女の好奇心をよく知っている。キルケはちょっとだけ反省した。

「この状態だとつらいのか?」
「つらいし、出すまではおさまらないよ」
「そうか……」

 であれば、余計なことをしたのはかわいそうだった。
 キルケは手を引っ込めようとした――が、ルーの筋張った手が彼女を引き寄せる。

「なんだ?」
「正直に言うと、今日は一日、君がこれを処理してくれないか期待してた」

 キルケは思わずルーを見つめた。

 彼はいたって真剣な顔をしていた。なによりそれの状態が彼の期待を如実に表現している。

「この前みたいに中途半端で終わるようなのじゃなくて、最後までって意味だよ」
「手で、ということか?」
「口がいい」

 ……口。
 確かにすでに、キルケは彼のそれを舐めてみていた。

 彼女の目の前での自慰がいやだというのだから、このままなにもしなければ、ルーはこそこそと影で自己処理することになるのだろう。

 想像すると少しかわいそうになって、キルケは戸惑った。
 
「わたしはお前の自慰に興味があったんだ。わたしがするのではなく――だが、口で?」
「君の小さな口で僕のこれを慰めてくれたらと、ずっと考えてた」
「……今日、一日? そんなことを考えてたのか?」
「この前ちょっと舐めてもらった時から、四六時中」

 キルケは目を丸くした。

「四六時中」

 どうやら、よほど思い詰めていたらしい。
 ルーは基本的にあまり自分の欲求を表に出さない。少なくとも、こういう関係になるまではそうだった。

 その彼が四六時中などと言う単語を口にするのだ。察するにあまりある欲求をかかえていたに違いない。

「そんなにしてほしかったのか」
「もちろんいやだって言うなら、無理にしてもらおうとは思わないよ。でも、この前はそんなにいやそうじゃなかったし、だったら今日ここでしてくれないかなって」

 ルーの声にねだるような懇願の調子が混ざる。

「キルケ。お願いだ……してほしい」

 つかまれたままの手が体温を伝えてきた。
 熱くて、やけどしそうだ。

 キルケはルーの懇願に弱い。そして、断るべき強い理由も特になかった。

「わ……わかった。口ですればいいんだな……?」
「してくれるの?」

 ルーの顔がぱっと明るくなる。
 そんまま強く引き寄せられて、抱きしめられた。

「頼んでみるもんだな。ありがとう、すごくうれしい」
「こ、こら……お前が困っているんだ、当然じゃないか」

 力強い腕の中が心地よく、このままずっとこうして身をゆだねていたい気分になったが、今はルーを慰めてやらなければならない――こうしているあいだにもふたりのあいだで存在感を強烈に主張しているそれを。

「わたしがしてやらなかったら、この後こっそりひとりでしなければいけないんだろう? それはあまりにかわいそうだ」
「よかった、実はどうしても自慰を見たいって言いださないかひやひやしてて」
「そこまで鬼じゃない」
「鬼じゃないかもしれないけど、人の気持ちがわからないから、君は」

 キルケは聞こえなかった振りで、視線を下にやった。
 ルーの屹立にそっと手を添えると、それだけでぴくりと反応が返ってくる。

「でも、口でするってどうやってすればいい?」
「……」

 やさしく、ルーが彼女の肩を押し下げた。
 彼の力に逆らわないでいると、硬くお腹につくぐらいに勃ち上がったそれに顔が近づいていく。

「とりあえず……舐めてみたら?」

 目の前に迫った圧倒的な存在感に思わず怯んでいると、上から声が降ってきた。

(とりあえず……?)

 ちらりと上を見上げると、ルーと目があった。その金色の目には仄暗い期待が浮かんでいる。
 視線を戻すと、血管の浮いた野太い男根が間近にそびえ立っていた。

 迷ったが、躊躇したところでその瞬間を先延ばしにするだけだ。キルケは素直にルーの言うことに従い、この前のように舌を伸ばし――触れた。

「ん……こんな感じで?」

 二度、三度、おっかなびっくり舌先でつつく。
 自分でもわかっていたが、これでは十分ではないだろう。ルーが首を振って、キルケの頭を撫でる。

「もっと大胆な感じじゃないと」

 それはそうだろう。

 例の行為の最中、ルーはキルケの中でいつも気持ちよさそうにしている。だから湿った舌で思いっきり舐めしゃぶるぐらいがちょうどいいのだろうと、無知な彼女でもちゃんと察していた。

 恥ずかしさからごまかすように舌先で遊んでしまったが、これではルーだって苦しいままだろう。
 キルケは覚悟を決めて、口を開いた。

 べろり、と。舌全体でそれに触れる。先端の腫れ上がったようにつるつるしたところにそうすると、

「ふ……」

 ルーのお腹が目の前でくっと動いて、ため息のようなものが聞こえてきた。
 気持ちいいのだ、とわかった。

 手で根本のところを持ちながら、もういちど。舌でゆっくりと舐めてみる。先端から出たしずくが変な味なのは相変わらずだったが、別にそれはいい――嫌いな味ではないのだから。

「……こうか?」
「うん、気持ちいい」

 見上げながら訊くと、ルーが切なそうに返してくる。

(不思議な気分だ)

 そういえば、いつも一方的に気持ちよくされるか、あるいはふたりでわけがわからなくなるか――ルーだけを気持ちよくしてあげられることはほとんどなかった。

 悪くない。もともとルーが喜んでいるところを見るのは好きなのだ。それなら行為をもっと受け入れてやるべきかとは思うが、あれはキルケの理性がなくなるからそれがまずい。

(これなら、わたしは理性を保ったままでいられるな)

 覚えておこう、と思った。

 そう考えているあいだにも、彼女の舌はれろれろとルーのものの先端を舐めていた。技巧もなにもあったものではないつたない動きだが、それでもルーの屹立がびくびくと震えるのがわかる。

 ルーはいつも、彼女のことを過剰なぐらい気持ちよくさせてくる。それが楽しいのだと言う彼の嗜虐性に心配を覚えていたが、今になってキルケにもわかってきた。

(わかった。そうか、こうして気持ちよくしてあげるのは結構楽しいんだな)

 舌先に感じるそれがいとおしくすら思えてきて、キルケは驚いた。
 何度も舐めているうちに、分泌されたしずくと彼女自信の唾液とでそれがぬるぬるになっていく。

「キルケ」

 ルーがため息とともに、名前を呼んだ。

「ちょっとごめん……これはだめ?」
「ん? これって……んんんっ?」

 頭に置かれた優しく力強い手が、彼女の頭を押す。
 ぐいぐいと鼻先にそれを押し付けられて、キルケは怯んだ。

 ルーの懇願が彼女に降ってきた。

「口を開いてもらっていい?」


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