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屋敷内を駆け回り、ようやく庭園のガゼボでエリオールを見つけた。
立ち止まったはいいものの、息が切れて苦しい。
庭園に咲く花々を眺めていたらしいエリオールは、息を乱しやってきたエレイン達を見てゆるく首を傾げた。
「どうかした?ルイス、顔色が悪い」
心配そうに眉をひそめるエリオールを、ルイスは泣きそうな目で見て、思わずといったように両腕を広げ、途中で我に返ったように動きを止め、結局持って行き場を失った両手は、エリオールの白い手をぎゅっと握るに留まった。
「ルイス?」
「ごめん」
「え?」
突然謝り始めたルイスを見あげ、エリオールは戸惑ったように首を傾げる。
ルイスはその眼差しを苦しそうに受け止め、やがて絞り出すように言った。
「エリオールが、どうして暗い顔で父上の部屋から出てくるのか、分かった」
ルイスがそう告げた瞬間、エリオールの顔から表情が抜け落ちた。
「見たんだ」
「・・・ごめん」
「どうしてルイスが謝るの?」
「だって、父上がまさか、あんな、・・・」
言葉に詰まる。エレインは去る事もできないまま、その場に立ち竦んでいた。動けなかったのだ。二人の少年はそれぞれに傷を負っていて、目を離せばその傷は更に深まっていってしまう気がして。
「僕が、父上にはちゃんと言う。エリィにあんなことはもうさせないって、約束させる」
決意に満ちた声でルイスは言う。しかし、エリオールは頷かなかった。それどころか、己の手を掴んでいたルイスの手を払った。
「何もしなくていい」
「エリィ!」
「君に何ができる?当主のすることに口を出す権利なんて、君にはない」
エリオールは静かな声でルイスを拒絶する。
「でも・・・!」
「私は、私と母を拾ってくれた伯爵様に感謝してるよ」
その言葉はエリオールの本心には違いない。その証拠に、彼の声には決意みたいなものが感じられた。
それなのに、彼は最後の最後で失敗してしまった。
透明な雫が一筋だけ、溢れるように頬を伝っていく。ルイスがそれを咄嗟に指で掬おうとしたことで、ようやく彼は自身の感情の綻びに気づいたようだった。
一瞬呆然としたように動きを止め、それからくしゃりと顔を歪ませた。
「君にだけは知られたくなかった」
目を伏せ、呟くようにそう言うとエリオールはガゼボを飛び出していった。
「ルイス・・・」
ルイスはエリオールがかけていった方を見たまま答えなかった。
ただ、まだ小さいと思っていた彼の手は、爪が食い込むほど握りしめられていた。その様子に、ふと不安になる。
なにか、大変なことをしてしまったのではないか。
そんな予感に、エレインは震えた。
立ち止まったはいいものの、息が切れて苦しい。
庭園に咲く花々を眺めていたらしいエリオールは、息を乱しやってきたエレイン達を見てゆるく首を傾げた。
「どうかした?ルイス、顔色が悪い」
心配そうに眉をひそめるエリオールを、ルイスは泣きそうな目で見て、思わずといったように両腕を広げ、途中で我に返ったように動きを止め、結局持って行き場を失った両手は、エリオールの白い手をぎゅっと握るに留まった。
「ルイス?」
「ごめん」
「え?」
突然謝り始めたルイスを見あげ、エリオールは戸惑ったように首を傾げる。
ルイスはその眼差しを苦しそうに受け止め、やがて絞り出すように言った。
「エリオールが、どうして暗い顔で父上の部屋から出てくるのか、分かった」
ルイスがそう告げた瞬間、エリオールの顔から表情が抜け落ちた。
「見たんだ」
「・・・ごめん」
「どうしてルイスが謝るの?」
「だって、父上がまさか、あんな、・・・」
言葉に詰まる。エレインは去る事もできないまま、その場に立ち竦んでいた。動けなかったのだ。二人の少年はそれぞれに傷を負っていて、目を離せばその傷は更に深まっていってしまう気がして。
「僕が、父上にはちゃんと言う。エリィにあんなことはもうさせないって、約束させる」
決意に満ちた声でルイスは言う。しかし、エリオールは頷かなかった。それどころか、己の手を掴んでいたルイスの手を払った。
「何もしなくていい」
「エリィ!」
「君に何ができる?当主のすることに口を出す権利なんて、君にはない」
エリオールは静かな声でルイスを拒絶する。
「でも・・・!」
「私は、私と母を拾ってくれた伯爵様に感謝してるよ」
その言葉はエリオールの本心には違いない。その証拠に、彼の声には決意みたいなものが感じられた。
それなのに、彼は最後の最後で失敗してしまった。
透明な雫が一筋だけ、溢れるように頬を伝っていく。ルイスがそれを咄嗟に指で掬おうとしたことで、ようやく彼は自身の感情の綻びに気づいたようだった。
一瞬呆然としたように動きを止め、それからくしゃりと顔を歪ませた。
「君にだけは知られたくなかった」
目を伏せ、呟くようにそう言うとエリオールはガゼボを飛び出していった。
「ルイス・・・」
ルイスはエリオールがかけていった方を見たまま答えなかった。
ただ、まだ小さいと思っていた彼の手は、爪が食い込むほど握りしめられていた。その様子に、ふと不安になる。
なにか、大変なことをしてしまったのではないか。
そんな予感に、エレインは震えた。
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